18話 邂逅②
ーー翌日
事務所で席に腰掛け、昨日見た光景を思い出す。
憑依型の"影"は取り憑くことで、人に影響をもたらす……
口裂け女のような都市伝説は……それはどこから現れるんだ?
元を断たないと人の被害は増える一方だ……
「修二!聞いてるのかよ。今日は予定あるのか?」
悠真は机に体を少し乗り出し、手を振り物思いに耽っている修二に声をかけた。
「いや、特にないけど
どうした?」
「なら、遊びに行かね?」
「断る。」
「なんでだよ〜
行こうぜ!」
即座に断る修二。悠真は不満そうに口を尖らせ、机を指で軽く叩いた。
「今はそんな気分じゃないんだよ…」
この2日間の出来事が頭の中を埋め尽くしていた。
あの細路地で間近にいた口裂け女。
聴取室で一方的に語りかけてきた異常さ。姉の件、敏明さんの件-そして今回。
"憑依型の影"の存在は疑いようがない。
研究は進展した。だが同時に影の危険性を改めて思い知らされた。もっと知らないといけない。
姉を目覚めさせるために。
そして-時守を止めるために……
「まぁ、良いじゃない。
修二くんも気分転換になるかもよ?
それに2人がどんな風に遊んでるのかも気になるし。」
修二と悠真のやりとりを見ていた由美子は悠真へ助け舟を出すように、声をかけ、修二のもとへコーヒーを運ぶ。
「修二、由美子さんの言うとおりだよ。
たまには息抜きで遊んだほうがいいって」
悠真は身を乗り出し、修二に顔を近づけながら言った。
「んー…
わかったよ。
息抜きは必要だしな。」
そんな2人に押される形で修二はしぶしぶ頷いた。
ガチャ
「お兄ちゃん来たよー」
ドアを開けたのは美羽ちゃんだった。
口裂け女が捕まったおかげで、最近の集団下校や外出規制が解けたのだろう…
「あ、美羽ちゃんいらっしゃい。
修二くん、今から出かけるみたいだから、一緒にどう?」
「え、美羽も行くー!
あと、由美子お姉ちゃんこの人だれ?」
にこにことしたまま、素直な疑問を口にした。
「美羽ちゃん、この人はね、
悠真くんっていって、修二くんの友達なの。」
「美羽ちゃん、はじめまして
悠真でいいぜ。気軽に呼んでくれていいからな。
美羽ちゃんも行くか?」
「うん!」
美羽はパッと表情を明るくして頷いた。
ピンポーン!!
部屋の明るい雰囲気を遮るように呼び鈴が鳴り響いた。
「すみませーん!
誰かいますー?」
「はーい。」
由美子が声の主を迎えるためドアを開ける。
「いたいた。お願いしたいことがあってぇ
あ、私は雲母って言います。
心霊研究家の人はえーっと…だれ?」
黒髪ロングに派手なピアスをつけた女性がキョロキョロと辺りを見回しながら修二を探していた。
「あ、俺です。
依頼ですか?」
修二は名乗り出るように席から立ち上がる。
「あ、そうそう」
「では、席に
話を聞きましょう。」
修二は部屋の中央にある対談の席に雲母を促し、席についた。
「由美子さんごめん、後で合流するから先行っててくれ。」
「わかった。
美羽ちゃん行こう。」
由美子は美羽の手を握り、外出しようとする。
「ごめんね、美羽ちゃん後でアイスでも奢るからさ…」
修二は美羽と同じ目線に立ち、少し申し訳なさそうに言った。
「しょうがないなぁ、またねぇ」
美羽はわざとらしくため息をつき、肩を落としながら言った。
「お、ならみんなで修二にゴチだな!」
「なんでそうなる…
まぁそれで良い。」
修二は少し頭を指で掻いて、悠真に承諾し、3人を見送った。
「すみませんでした。
話を聞きましょうか。」
「私もしかして、出直した方がいい?」
雲母は少し気まずそうに、聞いてきた。
「いえいえ、お気になさらず、
話を聞いたら後で合流しますので…」
雲母が気にしないように、少し口角を上げる。
「そう?
なら、最近夜景撮りに彼氏の誠と行ったんだけどさ、やばい人とあって逃げてきてさ、
マジで危なかったんだよねぇ、なにか持っててさ、
一応警察に連絡したんだけど、一応周囲の見回り増やすって言われただけで…
映像もあるし、出来たら調べて欲しいのよ。」
雲母はどこか軽く軽薄な物言いで修二に説明した。
「…えっとまず、その映像見せてもらってもいいですか?」
「あ、はい
どうぞー」
雲母はスカートのポケットからスマホを取り出し、修二のもとへスマホを差し出してきた。
「ありがとうございます。」
渡されたスマホに目をやり、動画の再生ボタンを押す。
その映像は街灯のない真っ暗な山道で休憩する2人のやり取りと地面が記録されていた。
ねぇ、誠〜
なんで、この山なわけ?
私疲れたんだけど…
そう言うなよ、そもそもお前が景色見たいって言ったのが悪いんだろうが…
でもさ、こんな大変だとは思わないじゃん…
はぁ!もう無理ー!疲れた!
誠おぶって!
はぁお前いい加減に、
コン!……コン!……コン!
なぁ、雲母何か聞こえないか?
え?
コン!…コン!…コン!…
あ、聞こえる!行ってみよう誠
お、おい!雲母!?
音のする方へ走る雲母を追いかけて、映像が少しブレる。
おい、雲母!お前本当いい加減に、
気がつくと音が止んでいた。
ザァ、ザァ、ザァ、
近づいてくる?
ザァ!ザァ!ザァ!
え?やばい!
雲母逃げるぞ!
映像は激しくブレて、終わった。
映っていたのは最初から最後までほぼ地面だったが、逃げる直前こちらに迫ってくる男の姿がはっきりと映っていた。
「これは…白装束ですか?」
「あ?あーそれそれ
あとさ、なんかハンマー?みたいなの持っててさ」
「ハンマー?もしかして、金槌じゃないんですか?」
「あー、そうそうそれ」
「わかりました。
その調査の件引き受けましょう。
映像を撮った場所を教えていただけますか?」
「はいよー、スマホで送って良い?」
「はい、ありがとうございます。
あと、調査は翌日の夜でも大丈夫ですか?」
「うん、急いでないし
遊ぶ予定立ててたみたいだしね。」
「ハハハ、まぁ
では調査の方承りました。」
「よろしく〜」
こちらに手を振って去っていく後ろ姿の雲母を見送り、3人に合流しに向かう。
ーー道中
今後の被害を減らすために俺はもっと"影"のことを知る必要がある…
だが、これ以上関わると由美子さん達に危険が及ぶ…
なら、俺だけで調査をするしか……
「…3人と合流前に口裂け女がいた小道に行ってみよう。」
ーー小道
「私、キレイ?」
小道には、悠真が逃げてるときに投げたり倒したであろう、ゴミ箱、ビンなどが転がっていた。
黄色いテープの向こうにあの日の光景を思い出す。
裂けた口をホッチキスで無理矢理縫い合わせたような口に、左手に持った鎌…
世間的にイメージされる口裂け女にほぼ近かった…
なら、ネットなどの媒体で姿形を作ることも可能なんじゃないか?
「やぁ、元気かい?修二くん。」
聞き覚えある声に咄嗟に振り向いた。
「時守…」
「寂しいなぁ、
色々教えてあげたのに、そんな態度とはね…」
小さく息を吐き、わずかに肩をすくめる。
「なぜ…あなたがここにいる?
…もしかして今回の事件はあなたが仕組んだことなのか!」
修二は時守を睨みつけ、今にも飛び掛かる勢いで語りかける。
「その質問には半分正解かな…
まぁ、僕も死人が出るとは思わなかったけどね。
でも、君の方にも進展があったようでなによりだよ。」
時守は少し楽しそうに修二へ語りかけた。
「お前…ふざけるなよ。
あれで俺の友達がどんな目にあったか。」
時守……返答次第では、今ここで。
「ああ、それはすまないことをした。
僕も人に取り憑く影が人に被害をもたらすまでいくとは思わなかったものでね。
だか、君の停滞してた研究も進んだだろう。
どうだい?僕と一緒に、」
時守は修二へ右手を差し出して、手を取るように語りかける。
「前に言ったはずだ。
お前とは分かり合えないと…」
修二の視線はさらに鋭いものになり、今にも飛びかかりそうだ。
「そうか、フラれてしまったか…
まぁいい、今後は人の認知がどこまで影響をもたらすのか…
調べてみようと思っているよ。
君はどうする?」
少し首を傾げ、肩を落としながら、修二へ語りかける
「俺のスタンスは変わらない。
お前を止める。そして、時守さん、あんたの知ってることを全て教えてもらう。」
そう、修二が右足を少し前に進めた瞬間。
「そうか…僕に協力できない以上、教えてあげるわけには行かないな。」
コートの胸元から見覚えのあるものを取り出した。
カチャ…
「それは…」
「君も知ってるだろう…拳銃。」
時守の目は、目が笑っていなかった。
きっと、本気で打ってくるかもしれない……だけど!
「だからどうした…
知ってることを教えてろ。」
こいつの持ってる情報次第では、姉さんが目覚めるかも知れないんだ。絶対に逃さない…
「そうか、なら仕方ないな」
片目を細め、狙いを定めるように引き金を引いた瞬間。
パン!
銃声が響き渡り修二の脳内には"死"が頭の中に過り、咄嗟に目を瞑った。
………
「あれ?何もない……」
静寂のなか、少しずつ目を開けると
そこには、カラフルな紙吹雪が舞っていた……
タッ、タッ、タッ、
時守の走り去る足音が遠ざかっている。
「マジックの小道具か…
くそ、舐めやがって。」
最初から遊んでやがったな……
時守のあとを追い、走る。
足音を頼りに追い続け、息も上がってきたころ
ブー…ブー…っとポケットに入れていたスマホが鳴っていた。
スマホを手に取り、名前を確認すると由美子からの着信だった。
「はぁはぁ、まずい…
すっかり忘れていた。」
スマホを耳に運ぶ。
「はぁ、はぁ、
もしもし。」
「大丈夫?息あげて、
修二くん、来れそう?」
「はい、今行ってるところです。
お待たせしてしまい、すみません。」
「そう、気をつけて来てね。
みんな待ってるから。」
「はい、ではまた。」
早く向かわないと……
「時守さん、お前だけは俺が必ず止めてみせる。」
そう、心に誓い3人元へ向かった。
時守が小道を抜けて大通りに抜ける。
「振り切ったか…」
時守は息を整えて、小さく呟く。
「ハ、ハハハ!やっぱり君は最高だよ
僕の予想通りの動きをしてくれる。
でも、君は僕を否定するけど、僕と君は似ているよ。」
時守は静かに微笑み、その場を去った。




