第八話 忘らるる想い・2
やがて病院に戻ったらすぐに川上親子が呼ばれ診察室へと向かったことで、剛と彪は二人きりで待つことになった。と、そこに亜月の姿を発見したので剛はそちらと向かっていく。
「よう」
スマホをいじっていた亜月も剛に気づいた。
「大和田くん」と、スマホの操作を終えてカバンにしまう。「ここで会うの、習慣になっちゃったね」
「そうだな。お前は大丈夫なのか」
「うん。心が病んでいる、というより、そうならないために、という感じで通ってるだけというか、一応念のため」座って、と、二人にそう促す。「気に病むことは多いから」
長椅子に座りながら剛は言った。
「もうちょっと女子高生女子高生してたいだろう」
亜月はくすと笑う。
「そういう”女子高生女子高生”みたいなキャラの子って、実際にはあんまりいないよね。クラスで二、三人とかだし。どうしてそういうことになるのかしら」
「テレビとかメディアとか漫画とかでそう描かれることが多いからなんじゃないのか」
「実際の女子高生としてはちょっと迷惑」
「実際に困るような出来事が?」
「そういうわけじゃないけど、ネットでJKJKって一まとめに言われるとやっぱりダメージなんだよね。しかも実像とかけ離れてるし。本当に、どうしてそういうことになるのかしら」
「そうだな……」と、剛はオレンジジュースを飲んでいる彪の方をちらりと見る。「表に出ないからなんだろうな」
亜月はちょっと軽くため息をついた。
「出るとしたらテレビとかメディアとか漫画とかで」
「そう。そういうのに”普通の人”は出てこないし」
彪のことを言っているのだろうな、と推測し、亜月は考えた。
「みんながみんな海川航平みたいな力を持ってるわけじゃないし」
「さっきもそんな話をしてたんだけどな。知り合いと」
「ふうん」
「実際には、メリットや得することより、困っていることの方が圧倒的に多い」
「わたしの場合は……メリットも何も」
ちょっと無神経だったかもしれないと思い剛は頭を下げた。
「すまん」
「大丈夫」
亜月は彪を見つめる。
「もちろん――病気だから仕方がないっていうところは確かにあるの」
「そうだな。そう思うよ」
「何ができて何ができないか、どこまでができてどこからができないのか……そういう区別みたいなものは、たぶん誰にでもあるんだとは思うけど、でもわたしとか彪くんとかの場合、相当はっきりしてると思うの。病気だから仕方がないっていうところは確かにあって」
「うん。そう思うよ」
「でも、それだけでわたしを説明できるわけじゃないから」
亜月のまっすぐな瞳に、剛は大いに頷いた。
「もちろんだ。小津野はいろんなものでできてるはずだ。彪もいろんな彪がいる」
「わたしのプロフィールの、ある一つの項目を、それをわたしの全てだと思われるのは嫌だし、単純に――面白くない」
「……」
「親とか先生とか友達とか――感謝はしてるけど」
でもそれは確かな――怒りだった。
何と言えばいいのか剛には分からない。でも何か反応しなければならない。亜月のために。そして、何よりも、彪のために。
でも、考えるまでもなかった。剛は言った。
「おれも面白くない」
「ありがとう大和田くん」
「何が」
ふふ、と、亜月は笑って、そしてこう答えた。
「一緒に怒ってくれるんだもの」
――と。




