第七話 約千をこえて・7
診察室。
栄吉と雪尋の、対話。
「いとこも音楽の専門学校に行きたかったらしいんですけど、親に反対されて」
いつものように血族のことを話す。
「君と同じだね」
と雪尋が返す。
「でもそいつは、親をリスペクトしてるっぽいんです。つまり……自分の夢や情熱や、あったかもしれない青春時代、可能性よりも、親を大切にしている。でもぼくは、自分の夢や情熱、やりたくてやりたくて堪らなかったことの方が優先順位が高くて」
「だから音楽なり小説なりを続けていられるんだね」
「まあ、そういうことになるんでしょうね」
ちょっと天井を見上げる。雪尋はキーボードを打つのをやめ、栄吉の次の言葉をじっくりと待つ。
やがて栄吉は話し始めた。
「やりたいことを何にもやらせてもらえなくて。不安だから、心配だから、大切だから、危険だから――って言って。その一方で、やりたくないことは無理やりさせられた。あなたのためだからと」
「あなたのため、は、自分のため」
「弟はやりたいこと何でもやらせてもらえてたのかな、だから親を大切にしているのかなって。そのいとこも、基本的にはやりたいことを何でもやらせてもらえていたから、音楽を奪われたっていうのに親を大切にしているのかなって。だから……ぼくが”異端”なのは、必ずしも生まれつきの問題だけじゃないんじゃないかな、とか」
「両方だろうね」
「だから、結局、音楽の学校っていうピンポイントなことが問題なんじゃなくて……あの人たちにとってぼくって何だったんだろうんって」
「大切な存在だっただろうね」
「それは分かるんですけど」と、栄吉は反駁した。「そうは思うんですけど。客観的に論理的に現実的に言えば大切にされていたって思うんですけど。でも、感情的にはどうしてもそう思えないのです。好きか嫌いかで言えば好きだけど、好きか嫌いかで言わないと好きだと言えない。でもそれこそ、憎んでいるって気持ちも確かにあって」
「愛だねぇ」
都先生も人の子の親だからこういうことを言うのだろうか、今、ちょっとイラっとした。栄吉の素直な反応だった。
それでも雪尋のその即答によって、栄吉の白黒思考が混ざり、そして新たなる自問自答が始まったのも、また、確かだった。




