第七話 約千をこえて・3
すずかけ。
「音楽って、何だかんだ若い人たちのものなんだよなー、って」
友達の直亮、丈と会話をしながら、ふと栄吉はそんなことを言ってみた。
「そう?」
という丈に、「と思う」と栄吉は答える。
「やっぱりアラフォーのおじさんの感性じゃ若い人には刺さらないだろうなって。丈くんは新山一斗を目指しているみたいだけど、新山一斗が成功しているのは新山一斗だからであって、誰かが成功しているから自分も、とはならないよ」
「それはそうだと思うけど励みにはなるよ」
「まあ、そうねぇ……音楽を目指せているのは羨ましいと思うよ。ぼくはもうやめちゃったから」
「今からでもやればいいじゃん」
ふふ、と、栄吉は微笑んだ。
「好きで好きで堪らなかったからね。生半可な気持ちで諦めたわけではないから」
「ふーん。好きならやればいいのに」
「本当に好きだったから、もう、やらない」
「よくわかんない」
「それはさておき、直亮くん、最近はどう」と、栄吉は話を直亮に振った。丈とこれ以上諦めた夢の話をしていても仕方がない。「別の地活にも行ってるみたいだし、最近元気みたいね」
「うん。ひなたね。最近元気」
「心も体も弱いのだから」
「ただ最近は調子がすこぶる良くて。ひなたの利用者のおかげかなぁ」
「?」
と、顔に疑問符の浮かんだ栄吉と丈に直亮は説明を始める。
「一世くんって子がいるんだけどね。その子の影響で」
「まあ誰かと関わることで運気が上がるってことはあるだろうけど」
「スピリチュアルだ」と、丈。
「でも実際そんな感じ」と、直亮は言った。「当然、病気の人で、体の方もきついっぽいんだけど、経過がいいみたいで」
話題が完全に変わっていったので、もう音楽と夢と挫折の話を丈としないで済むと思った栄吉は直亮の話を突き詰めて聞いていこうと思った。
「ああ、良くなっている様を目の当たりにして自分も良くなるっていうのは、いいね。統失?」
「うつ病だって言ってたな」
「ふむ」
「B型も居心地いいみたいだし、何より家族が協力的なんだって」
「へえ~。直亮くんもそういう子に影響受けるんだね」
「おれは親とか死ねーと思うタイプなんだけどさ。それは確かに。でもその一世くんは凄い朗らか~に家族のことを褒めるんだよね。おれも単純なところあるし、影響受けちゃうのわからなくもないっていうか」
「ふむ」
「家族仲良しの子で、特に弟大好きマンなんだよね。いつも弟は凄い弟は凄いって言ってて」
「ブラコン?」
「っぽいね何か。頭のいい弟さんみたいなんだけど。でもごめんね栄ちゃん」
「何が?」
「そんなのって栄ちゃんのことだから嫉妬しちゃうでしょ。弟大嫌いマンだしあなた」
栄吉は苦笑した。
「大人だからね。そんないちいち」
「まあ。経過のいい人を見ていて自分の経過も良くなっているような気がするっていう」
「気がするのは大切」
「だよね。でも家族が協力的っていうのは羨ましいことこの上ないと思ってしまうな」
「家の中がOKなら大概のことはうまくいくしね」
「そうだね。ホームがアウェイじゃ、わけがわからなくなっちゃう」
だから昔は何もかもがうまくいかなかったし、何もかもわけがわからなくなっていた。
でも、今は何とかうまくやれている。
なぜなら、一人暮らしだから。
……合わないものは合わないのだ。無理って言うなとかじゃなくて無理なものは無理なのだ。同じように傷ついている仲間たちとの談笑の中、いろいろなことを、つくづくそう思う栄吉なのであった。




