第六話 あらわしながら・2
「あ。地震だ」
普通に雑談していたら突然笙子がそう言ったので優作は怪訝な顔になった。
「今、揺れた?」
「揺れたよ。鈍いね」
「鈍い。揺れたとしてもどうせ震度1とかだろ」
「震度1は気づくわよ」
「気づくかぁ?」
「明日、震度7の地震があるって話あるけど、本当かしら」
優作は呆れた。
「それ今日も生徒が言ってたけど、君も気にするタイプなんだね。占い好きなのは知ってたけど」
「知ってしまった以上、気にならないではいられない」
「馬鹿馬鹿しい。そんなことを気にするぐらいなら防災に力を入れるべきだ」
「防災のいいきっかけになればいいんじゃない?」
「”予言”がいいきっかけって、おれが知らなかっただけでこの世界は結構ファンタジーなことになっていたんだね」
「それにしても遅いわねぇ。混んでるの分かってて入ったのが悪いんだけど」
ファミレスで二人は夕食を取ることになっていたのだが、タブレットで注文して以降、料理が来る気配がなかなかなかった。
優作は呆れた気持ちが続いたまま言った。
「華金だからね」
「バブルな言い方ねぇ」
「プレミアムフライデーって言っても教師やデザイナーには関係のないことだ」
「あら。楽ができる人がいるのはいいことじゃない」
「おれが楽がしたいよ。笙子ちゃんだってそうだろ」
「世界が平和にならないわけだ」
「何だよ」
「お待たせしました」
と、ウェイターが料理を持ってやってきたので、二人はようやく来たかとホッとする。
「若鶏のヨーグルト焼きのお客様」
「あ、こっち。――古屋じゃないか」
そのウェイターが雅哉だったため、優作はちょっと驚いた。
「先生。こんばんは」
「ここでバイトしてたのか」
「そうです。入学してすぐ始めました」
「働き者だなぁ」
「早く自立したくて」
そんなやり取りをしている二人を笙子は訝しむ。
「どなた?」
「おれの教え子だよ」
「あ」一気に顔が綻ぶ。「どうもこんばんは~谷本笙子です~」
「こんばんは。古屋といいます」言いながら雅哉はハンバーググラタンを笙子の前に置く。「木下先生にはいつもお世話になってます」
「木下先生だって」
「何だよ。でも古屋、学校の後の部活の後のバイトなんて、大変だな」
「いやぁ。今日はバンド練習に参加できてよかったです。シフト制だからなかなか自由に動けなくって」
「ごめんよ仕事中に。食べたらすぐ出てくから」
「いや、いつまでもいらっしゃっててください。その方が楽ができるし」
「君は高校生なのに随分しっかりしてるわねぇ」
「仕事モードですから」
と、雅哉と笙子が笑い合っているのを見て、これまで家庭教師のアルバイトしか経験したことのない優作には二人が何を面白がっているのかよくわからないでいた。
「でも先生。この方はもしかして先生の――」
「おーい古屋くん」
と、店長らしき中年男性が雅哉を呼んだので、雅哉は、まずい、と慌てる。
「すみません。戻ります」
「引き止めちゃって悪かった。仕事頑張って」
「ありがとうございます。失礼します」
と言って雅哉はその店長のもとへと戻る。「ダメじゃないか話してちゃ」「すみません、担任の先生なんです」「忙しいんだから」「わかりました。仕事に戻ります」などとやり取りしているのが遠目にも二人にはよくわかった。
「ちゃんとした子ね~。大人っぽいし」
「そうなんだよ。自慢の教え子だよ」
「イケメンくんだし」
「イケメン」
「まさか嫉妬してないわよね」
「そうじゃなくて、相手は高校生の子どもだぞ」
「一応、デザイナーなんでね。きれいなものには敏感なのよ」
「まあ、確かに、わかるよ。笙子ちゃんの言ってること。古屋は人気者だ。こないだなんか、中間テストで全教科満点を取ったんだぞ」
「そういう子って本当にいるのね~努力とか才能だけじゃできないでしょう」
「本人はうっかり取っちゃったって言ってるんだけど、うっかりで満点が取れるかっていう」
「目立ちたくないとかなのかしら」
「わからんけど。でも、古屋は本当にいい子なんだよ」
「例えば? 何だか嬉しそうね。本当に自慢の教え子なのね」
そう言われ、優作は照れる。
「例えば、尊敬する人物は? っていう質問に、即答で『両親です。これこれこういうところがぼくの自慢です』って」
「仲良し家族なのね~。優作くん家とは大違い」
その冗談めいた一言に優作は猛烈に反論した。
「そんなことはない。うちだって普通の仲良し家族だったはずだ。兄貴がトラブルメイカーだっただけで、少なくともおれにとってはうちは普通の仲良し家族だった」
おれにとっては。
――おれにとっては。
「どうしたの」
「何でもない。ご飯にしよう」
「あーお腹空いちゃった。いただきまーす」
「いただきます」
そうして二人はそれぞれ食事に入る。
……何か引っかかった。
小津野さんのご両親としては『病気だから仕方がない』で、ちょっと止まっちゃってるんだろうね。
数時間前に気になった雅哉のそのセリフが、今一度頭の中をよぎる。




