第二話 富の「……」・5
地域活動支援センターすずかけ。
「――あんまり自由って感じじゃなかったんですねぇ」
職員の佐都紀の反応に、利用者である栄吉は、うん、と頷く。栄吉の方が佐都紀よりも年上だったが、栄吉にとって彼は兄貴分のような存在であった。
栄吉は言う。
「うちの親は子どもを育てたいように育てたい人たちだった。子どもが、自分たちが育てたように育つものだと思ってたんだよね」
「そんな無茶な」
「だから、育てたいように育たないぼくが面白くなかったと思うんだよねぇ」
「酷い話ですねぇ」
本音のところはさておき、職員として福祉士としてそう同意してくれる佐都紀が栄吉にはありがたかった。
「だから――結局のところ、ぼくに自我が芽生えることが、実のところ面白くなかったのよね。その分支配できなくなるわけだから。でも……ぼくは昔っから我の強い奴で、好きなものは好き、やりたいことは何としてでもやる、みたいな」
「それが音楽だったり小説だったりに繋がってるんですねぇ」
「だといいけれど」
栄吉は笑う。こうやって自分の言っていることに「それはお前が間違っている」などとは決して言わず、ただただ同意してくれる佐都紀がありがたかった。それが結果的に内省へと繋がっていく。血族の連中が決して持ちえないテクニック。そしてそんなテクニックを彼らが持たなかったのは、むろん専門家ではないからではなく、自分に対して最低限のリスペクトがないからだと、今の栄吉はそう認識していた。
そして続ける。内省と共に。
「だから……親としては育てにくかったと思う。結局、ぼくの相手をするにはうちの親じゃ力不足だっただろうし、向こうは向こうで、育てにくい子どものぼくを育てるのはハードモードだっただろうし。まあ、親ガチャ子ガチャというか、要するに、親子のミスマッチだよね。伝説上の話で言うと、コウノトリさんが輸送先をミスったんだと思うの」
「もうちょっと歩み寄ってくれてもよかったんでしょうに」
親が悪い、親のせいだ、と言う自分を、佐都紀は決して否定しない。本音のところはどうかはわからない。内心、そんなこといちいち気にするなと思っているのかもしれない。でも、それを決して表に出すことはない。それはひとえにプロだからかもしれないが――至極単純な話のように栄吉には思えた。
それは佐都紀と自分の間に、ある程度の”距離”があるからだ。
それは、親たち血族の連中が決して自覚できない――自他の境界線。
『家族だから、言いにくいこともあえて言うんだよ』
だからこそ……容赦が、ない。
「子どもには心がないと思ってたんかなぁ、って」
「さすがにそれはないと思いますけど、でも……」
「うん?」
佐都紀は優しく声をかける。
「辛かったですねぇ」
そう言うことが佐都紀の仕事であることはわかっていた。こうやって共感や同情を示すことで彼は川上家の生活を維持している。
だからこそ「ウィンウィンの関係」なのであった。
栄吉からすれば結果的に、それで今のなんとか自立した生活に繋がっているのだから。
――それは、血族の連中には決してなしえなかったこと。
やがてそのうち、利用者仲間でありとても仲のいい友達の直亮や丈がやってきて、ますます自分の居場所であるすずかけの居心地が良くなっていくことを実感する栄吉なのであった。




