第七話 受ける女、外さない男
第七話です。
ここから物語は加速します。
今回は「倒す」ではなく
「動けなくする」という選択。
派手さより、生存。
「大型だ」
依頼書を見た瞬間、ヴァルカが言った。
ギルドの奥に貼られた、赤枠の紙。
危険度、上位。
周囲がざわつく。
「三組が失敗」
「一人、帰ってないらしい」
空気が重い。
受付の男が俺たちを見る。
「……行くのか?」
ヴァルカが答える前に、ミレイアが俺を見る。
近い。
問いかける目。
俺は、依頼書の場所を見た。
昨日の洞窟より、奥。
崩落地点のさらに先。
(……いる)
奥に、重い“気配”。
桁が違う。
だが――
「行ける」
俺は言った。
周囲の空気が止まる。
「正気か?」
ベテラン冒険者が吐き捨てる。
「逃げた連中が?」
ヴァルカが振り向く。
「逃げたから、生きてる」
低い声が、酒場を黙らせた。
⸻
洞窟の奥は、昨日とは別の顔をしていた。
湿度が違う。
空気が沈んでいる。
「出るぞ」
俺が言う。
ヴァルカが一歩前へ。
地面が揺れた。
岩壁をこじ開けるように、
巨体が現れる。
腕が太い。
胴が厚い。
頭が低い。
重い。
ガルドが息を呑む。
「でかすぎだろ……」
ミレイアが、俺の袖を掴む。
「……どうする?」
俺は、視界を固定する。
重い。
だが、削れないわけじゃない。
ただし――
「正面は無理だ」
「は?」
ガルドが叫ぶ。
「ならどうする!」
「倒さない」
ヴァルカが笑った。
「面白い」
巨体が突進する。
地面が割れる。
「右、壁!」
俺が叫ぶ。
ヴァルカが横へ跳ぶ。
巨体が壁に激突。
岩が崩れる。
「今!」
ヴァルカの拳が、横腹へ。
重い音。
(……効いてる)
だが、まだ浅い。
巨体が腕を振る。
ヴァルカが受ける。
踏ん張る。
(……二回目は危ない)
「受けるな!」
俺が叫ぶ。
「跳べ!」
ヴァルカは反射で飛ぶ。
腕が空を裂く。
その瞬間、
俺は走った。
「レイ!?」
ミレイアの声。
俺は巨体の背後へ回り込み、
落ちていた鉱石の杭を拾う。
「ヴァルカ! 三歩引け!」
彼女が後退する。
巨体が振り向く。
「今だ!」
杭を、足元のひびへ突き込む。
ヴァルカが、全力で蹴る。
杭がめり込み、
巨体の重心が崩れる。
岩が割れ、
巨体が片膝をつく。
「もう一回!」
ヴァルカの拳が、同じ箇所へ。
鈍い音。
沈黙。
巨体が、動かなくなる。
洞窟に、静寂が落ちた。
ガルドが、呆然と呟く。
「……勝った?」
「倒してない」
俺は言う。
「動けなくしただけだ」
ヴァルカが振り向く。
汗が流れ、腹筋が深く刻まれている。
呼吸は荒い。
だが、立っている。
「……悪くない」
ミレイアが、俺の背中に触れる。
「無茶したね」
「分かってる」
彼女の掌が、確かに震えている。
俺は、ようやく息を吐いた。
周囲を見る。
全員、立っている。
それでいい。
読んでいただきありがとうございます。
次話では、この勝利が
ギルド内でどう広がるかを描きます。




