第六話 誰が限界か、分かる男
第六話です。
ここから、主人公の判断が“偶然ではない”と
周囲に認識され始めます。
派手な戦闘ではなく、
小さな成功の積み重ねです。
翌朝のギルドは、いつもより静かだった。
朝一番の依頼掲示板の前に、数人が集まっている。
紙の擦れる音。低い会話。
その中に、俺たちの名前が混じっているのが、分かった。
「……あれが、途中で帰った連中」
小声。
悪意ではない。
ただの事実。
俺は気にせず、掲示板を見る。
危険度の低い依頼ばかりだ。
だが、今はそれでいい。
「レイ」
ミレイアが隣に立つ。
いつも通り、少し近い。
「今日も、行く?」
「行く」
短く答えると、彼女は小さく頷いた。
その時、背後から低い声がした。
「次、組むぞ」
振り返ると、ヴァルカが立っていた。
朝の光の中でも、彼女の体格は目立つ。
鎧越しでも分かる腹部の硬さが、呼吸に合わせてわずかに動く。
「依頼は?」
「小型群れの討伐。
簡単だ」
“簡単”という言葉に、周囲が少しざわつく。
ヴァルカが簡単と言う時、それは普通の基準じゃない。
ガルドも遅れてやってきた。
「……おはよ」
顔色は昨日よりいい。
だが、俺の視界ではまだ完全じゃない。
(……半分)
「無理はするな」
俺が言うと、ガルドが苦笑した。
「分かってるって。
今日はお前の言うこと聞くよ」
それは冗談半分だったが、
周囲の空気が少し変わった。
⸻
依頼の場所は、街道近くの浅い洞窟だった。
昨日とは違い、光が差し込む。
湿気も少ない。
「三、いや……四」
俺は呟いた。
「何が?」
ミレイアが小声で聞く。
「……影の数」
奥から、足音が近づく。
軽い。速い。
ヴァルカが前に出る。
ガルドが少し遅れて構える。
「右、先」
俺が言う。
ヴァルカは迷わない。
踏み込む。
一撃。
小型の獣が倒れる。
すぐに二体目。
ガルドが受ける。
だが、動きが少し遅い。
(……まだ重い)
「ガルド、左に半歩」
俺が言うと、彼は反射で動いた。
次の瞬間、爪が空を切る。
「おお……」
ガルドが目を見開く。
「今の、危なかったな」
俺は何も言わない。
ミレイアが後方から光を広げる。
淡い。
でも、確実に戻る。
戦闘は、短かった。
三分もかからず、終わった。
誰も傷を負っていない。
ヴァルカが拳を払う。
「……早いな」
「数が少ないだけだ」
俺が答える。
「違う」
彼女は首を振った。
「外してない」
その言葉に、ガルドが笑った。
「ほんとだよ。
さっきの半歩、なかったら俺、またやられてた」
ミレイアが、少しだけ誇らしそうに微笑む。
「ね。
レイの判断、助かるでしょ」
俺は視線を逸らした。
評価されるのは、慣れていない。
だが、確実に――
空気が変わっている。
帰り道、ヴァルカが隣に並んだ。
「なあ」
「何だ」
「お前、誰が限界か分かるな」
疑問形ではなかった。
俺は答えない。
ヴァルカも、それ以上は聞かなかった。
ただ、一言だけ言った。
「便利だ」
それが、彼女なりの評価だった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第六話では、
「信頼の芽」が少しだけ見えてきました。
次話では、
回復役ミレイアとの距離が、もう少し近づきます。
よろしければ、引き続きお付き合いください。




