第五話 生きて帰るだけで、勝ち
第五話です。
この話で、洞窟編はいったん一区切りです。
成果はありません。
評価も上がっていません。
それでも、物語は前に進みます。
ギルドの扉を開けると、いつもより視線が多かった。
それは期待でも歓迎でもない。
ただの好奇心だ。
――奥まで行かなかった連中を見る目。
受付の前で、俺たちは足を止めた。
埃を払う音が、やけに大きく響く。
「……未達成、だな」
受付の男が、依頼書を確認しながら言った。
声は淡々としている。
責めるでも、慰めるでもない。
「鉱脈の確認は、途中で中断。
報酬は半額。
評価は……据え置きだ」
ガルドが小さく舌打ちする。
「分かってる」
男は俺たちを見る。
一人ずつ、順に。
最後に、俺で止まった。
「全員、生きて戻ってるな」
「……はい」
俺が答えると、男は少しだけ眉を上げた。
「最近、死人が多い。
同じ洞窟でな」
その言葉に、空気が一瞬、張りつめた。
ミレイアが、無意識に俺の袖に触れる。
近い。
彼女は緊張すると、距離が縮む。
「次は、もう少し慎重に行くといい」
それは助言でもあり、
皮肉でもあった。
俺は頷いた。
「そのつもりです」
受付の男はそれ以上、何も言わなかった。
⸻
酒場の隅で、俺たちは腰を下ろした。
報酬は少ない。
酒も、薄い。
だが、誰も席を立とうとしない。
ガルドが杯を煽り、苦笑した。
「……俺さ。
正直、奥まで行けなかったの、悔しい」
「分かる」
ミレイアが答える。
「でも、今日は――」
「生きてる」
ヴァルカが、短く言った。
それで、会話は一度、終わった。
しばらくして、ガルドが俺を見る。
「レイ」
「何だ」
「お前さ……
ああいう判断、いつから出来た?」
俺は答えなかった。
答えようがない。
言葉にすれば、嘘になる。
代わりに、ヴァルカが言った。
「聞くな」
ガルドが目を瞬く。
「は?」
「結果を見ろ。
今日、誰が立ってる」
ガルドは黙り、杯を見つめた。
ミレイアが、俺の方を向く。
「……ありがとう」
「何が」
「無理をさせなかったこと」
俺は少し考え、言った。
「無理をしたら、終わる」
それだけだ。
ヴァルカが、俺を見て言った。
「お前、評価は上がらないな」
「だろうな」
「でも」
彼女は、杯を置く。
「死なない」
その言葉は、妙に重かった。
酒場の喧騒の中で、
それだけが、静かに残る。
⸻
その夜、宿で一人、天井を見つめた。
今日、倒した獣。
崩れた通路。
撤退の判断。
俺の視界では、
“減り”が、ゆっくりと戻っていく。
完全ではない。
だが、明日も動ける。
それで、十分だ。
強くなる必要はない。
派手である必要もない。
ただ――
次の日を迎えられればいい。
そう思い、目を閉じた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
第五話では、
「評価されない強さ」を描きました。
次話からは、
この判断が、少しずつ“噂”として広がっていきます。
よろしければ、引き続きお付き合いください。




