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『見えてはいけないもの(HP)が、見えている件』  作者: くろめがね


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第四話 逃げた方が強い日

第四話です。

今回は、はっきりと「逃げ」を選ぶ話でした。



崩れた通路の前で、時間だけが過ぎていった。


粉塵は落ち着いたが、空気は重い。

岩の隙間から、冷えた風が吹き抜ける。

奥へ進む道は、完全に塞がれていた。


「……どうする」


ガルドが言った。

声は低い。さっきよりも、ずっと。


「戻る」


俺は即答した。


「は?」


ガルドが顔を上げる。

ヴァルカも、ミレイアも、俺を見る。


「鉱脈は奥だぞ」


「分かってる」


「じゃあ――」


「今日は無理だ」


理由は言わない。

言えない。

だが、俺の視界では、この場にいる全員の“減り”が、確実に下がっている。


特に、ガルド。


座っているだけなのに、

じわじわと沈んでいく。

休ませても、戻り切らない。


(……ここが限界)


「今戻れば、全員歩ける」


俺は続けた。


「進めば、誰かを担ぐことになる。

 担げば、全員が遅れる。

 遅れれば――」


「来る、か」


ヴァルカが言葉を継いだ。


俺は頷いた。


「来る」


今は静かでも、

この洞窟は“動く”。

さっきの崩落は、前触れだ。


ミレイアが、ガルドの額に触れる。

ひんやりしている。

彼女は眉を寄せ、静かに言った。


「……戻ろう。

 今日は、ここまで」


ガルドが唇を噛む。


「でもよ……

 逃げたみたいじゃねぇか」


俺は一瞬、考えた。


どう言えばいいか。

どう言えば、分かるか。


結局、短く答えた。


「逃げた方が、生き残る」


沈黙。


その中で、

ヴァルカが笑った。


声を出さず、

ただ、口の端を少しだけ上げる。


「いいな、それ」


彼女は立ち上がり、俺の方を見る。


「進める時に進む奴は、いくらでもいる。

 引ける奴は、少ない」


ガルドが、ため息を吐いた。


「……くそ。

 言い返せねぇ」


ミレイアが、彼の腕を引く。


「帰ろ。

 約束、でしょ。

 生きて、酒飲むって」


「……ああ」


四人で、来た道を戻る。


暗い洞窟の中、

足音だけが響く。


途中、

背後で、また低い音がした。


石が擦れる音。

遠くで、何かが動いた気配。


誰も振り返らない。


「今は、来ない」


俺が言うと、

誰も異を唱えなかった。


出口の光が見えた時、

ミレイアが小さく息を吐いた。


「……帰ってきた」


「当たり前だ」


ヴァルカが言う。


「帰るのも、仕事だ」


外に出ると、

空気が軽い。


ガルドが空を仰ぎ、苦笑した。


「なぁ、レイ」


「何だ」


「今日の判断……

 俺一人だったら、間違ってた」


俺は答えなかった。


ただ、

全員が立っているという事実だけが、そこにあった。


その日の依頼は、

未達成扱いになった。


報酬は減った。

評価も上がらない。


それでも。


ギルドへ戻る途中、

ミレイアが、俺の隣を歩きながら言った。


「……逃げた日って、

 案外、悪くないね」


ヴァルカが、それを聞いて頷く。


「生きてるからな」


俺は、少しだけ息を吐いた。


今日は、

逃げた方が強い日だった。


成果も、評価も、ありません。

でも――

生きています。


この物語では、

それが一番大事です。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この話で描きたかったのは、

撤退は敗北ではない、という感覚です。


次話から、

この判断が、周囲からどう見られるかが描かれていきます。

よろしければ、次もお付き合いください。

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