空をかける(偽装)少女
魔剣ヤマトナデシコが示唆したサイクロプスへの突破口。
『いかに図体がデカかろうが目ん玉がひとつしかなかろうが、突き詰めればアイツはヒト型の魔獣。せやったら弱点はヒトと同じですえ』
ヒトの弱点と同じところ。
だとしたら。
「剣で狙うとしたら、頸動脈ね」
『よろしおまんな。斬りつければ大量失血できま』
とはいえ、相手はガン〇ムサイズ。斬りつけるには圧倒的にリーチが足りない。
「どうする?」
『そんなん、跳ぶしかおまへんやろ』
だよねー、言うと思った。
トンデモ発想なヤマトナデシコの戯言はなおも続く。
『妾の力を信じなはれ。狙う場所が決まったなら、あとはそこに太刀を向けるのみ。跳ばにゃいけんのなら、妾にお願いをすれば万事解決しますえ』
「ホント?」
『もちろん!』
「でも、どうやって?」
『妾に力を委ねなはれ。魔剣の力を引き出しますのや』
「分かったわ」
素直というか、馬鹿正直なのか。ヤマトナデシコの導きに従い、ユウリは己が力を魔剣に委ねる。
『よろしおまんな……ほな、いきますえ』
言うやヤマトナデシコの刀身が再び白く輝き、まるで身悶えるような恍惚とした喘ぎ声を発する。
『ああ……来てる、来てるわぁ……ユウリはんの力が、妾の中に流れ込んできてる……』
「またそんな、卑猥な言いかたをしている」
『卑猥やおへん。これはユウリはんのエネルギーと妾のエネルギーを交ぜとる際中どす。混ざり合ったらユウリはんに纏わせますんやえ』
「うわっ、なんか嫌だ……」
『四の五の言いなさんな! 跳びますえ!』
一発逆転を狙うべく、ユウリはサイクロプスめがけて跳びあがったのだった。
*
大地を蹴って高く飛翔するユウリの姿に、アレクサンドリアが釘付けになる。
「なんと! 冒険者とは、あんなに高く跳べるものなのか?」
「まさか」
目測ではあるが跳んだ高さは優に2メートルを超える。それだけでも驚異的だが、ユウリの跳躍はそれだけではない。器用にも飛翔中に体勢を90度捻ると、そびえ立つ大木の幹を蹴り上げて再び跳躍したのである。
「浅学ですのですべてを知るわけではないですが……こんな荒業、見たのは初めてですわ」
レオノーラも驚きを隠せず、ふだん無感情なヒルデですら「スゴイ」と呟く。
身長160センチ半ばの小柄な男の娘が、義経の八艘跳びよろしく巨木を飛び移りながらドンドンと高さを稼いでいくのだ。ふたりが驚きのあまり言葉を失うのも当然だろう。
「ふつう、ヒトはこんなには跳べない」
「ですわね。名うての軽業師でも、このような芸当は出来ませんわ」
「では、魔法で飛んでいるのか?」
アレクサンドリアの問いにレオノーラが「いいえ」と即答。
「如何に魔法が世の理を超えていようとも、ヒトが空を飛ぶほど破天荒ではありません」
「それでは、如何にして?」
「背中に負った魔剣が力を貸しているのではないかと?」
レオノーラの推測に、アレクサンドリアが「魔剣とは、そこまでの力を与えるのか?」と真顔で驚く。
「確たる証拠があるわけないですが、事実として魔法以上の力を示してますわ」
論より証拠。というか、他に説明のつけようがない。
現に跳躍するユウリの高度は、既にサイクロプスの身長にも匹敵する。しかも周囲の巨木を足場に、次々と飛び移る離れ業までやってのけているのである。
「彼女のあまりの素早さに、サイクロプスが追い付いてこれていない」
「ええ。サイクロプスもユウリを捕まえようと躍起ですが、空を飛ぶが如きユウリの早さには敵わないのでしょう。きりきり舞いしていますわ」
「まるで木々を飛び交う小鳥のようだ。小鳥との違いは単に美しいだけではなく、不用意に手を出せば手痛い一刺しがあることか」
「ええ。きゃつが隙を見せたところを、必ず刺しにいくでしょう」
レオノーラがキッパリと断言する。
*
高い、高い、高い、高い。高過ぎるーっ!
見た目こそ勇壮なジャンプだが、ユウリの内心はビビりまくり。
サイクロプスの頸動脈を狙うのだから、巨木を登り伝って高所での待ち伏せは想像できたが、まさか実際に跳びあがるなんて想像の埒外だ。
「堕ちる! 堕ちる! ヤバい、堕ちるって!」
悲鳴を上げながらジャンプするユウリを、ヤマトナデシコが『煩い』と一喝。
『わーわー喚きなさんな。妾が力を貸しとるんや、堕ちる前に跳びゃあ宜しいねん』
「跳ぶ前に堕ちたらどうするのよ!」
『……諦めなはれ』
「諦めるなーっ!」
『せやったらガンバル。ホラ、サイクロプスが手を伸ばしてきまっせ』
「うがーっ!」
叫びながらユウリは巨木の幹を蹴る。
地上十数メートルでの滑空戦は見た目こそカッコいいが、当事者からすれば高所で足場がないと恐ろしいことおびただしい。しかもユウリを捕まえて食さんと、サイクロプスが上から下から腕を伸ばしてくるのだ。回避するのも一苦労。
全身を捻って軌道を反らすが、ともすればそれは失速落下との戦い。一歩間違えれば地面に向けて真っ逆さまなのを、これまた幹を蹴り上げる跳躍力でどうにか踏みとどまっているのだ。
「ヤバい! ヤバい! ヤバい! ヤバい!」
『ヤバいと思たら避けなはれ。カンタンな話どす』
「カンタンじゃないわよ!」
『ほな。ややこしく、やっておくらませ』
「うわっ、また手が来た! 近い近い近い!」
『ほな、もっと高う跳びなはれ。このままやったら頸動脈に届かへんどす』
「わかったわよ!」
ヤマトナデシコに無理やりケツを叩かれユウリは頂上近くの枝を掴んで大車輪、枝のしなりを反動に「こうなりゃ自棄だ!」とひときわ高く速く跳び跳ねた。
想像の埒外な空中戦法、いきなり眼前に現れた小さな刺客にサイクロプスが狼狽える。
「でも、もう、遅い!」
ユウリはヤマトナデシコを上段に構えると、迫りくる腕を踏み台にして再度跳びあがり、サイクロプスの耳の後ろから首筋にかけてを袈裟斬りに振り下ろす。
バシュッ!
脳内に時代劇でおなじみの肉が切れる音が響き、両腕に肉が切れる手応えを感じる。
後ろを振り返ると緋色の縦筋が一本、ユウリと交差した部分に細く長く描かれていた。太刀筋が綺麗すぎて、まるで何事もなかったかのよう。
しかし……
『ふっ、ふふふふふ』
ヤマトナデシコが不敵な声で笑うと、緋色の縦筋からまるで間欠泉が湧いたかのように血がどくどくと溢れ出す。その量は巨人の体躯と相まって、まさしく血の雨のよう。溢れ出た血が地面を濡らし、たちまち小さな血の池を形成する。
「やった?」
『大金星どすえ』
倒した実感がないのか、半信半疑なユウリにヤマトナデシコが称賛の声をかける。
『太刀筋、間合い、残身、全てにおいてカンペキ。さすがは妾が見込んだお方や。けど……』
「けど、なによ?」
『このままやったら妾たち、あの血の池に落っこちまっせ』
「それを先に言いなさい!」
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