ゴブリンがいっぱい(Plenty of Goblins)
さらなる森奥に進もうとするレオノーラたち、ホームレス崖っぷちなご一行。
「それにしても、ゴブリンがよく出てきますわね」
今日2桁に達したゴブリンの出没に、レオノーラが忌々し気に愚痴る。
「基準が分からんからノーコメント」
『右に同じどす』
ユウリとヤマトナデシコの温度の低い返答に、レオノーラがむっと頬を膨らませる。
「わたくしたちが狙っているのは、あんな雑魚ではありませんのよ。ゲストハウスを得るための、オークかミノタウロスですわ」
「ゴブリンは要らない子」
作物を荒らしたり家屋に浸入するなど有害なので駆除対象だが、ゴブリン自体は食用にも加工材にも使えない。なので大量発生すると〝ゴブリン貧乏〟なんて言葉が使われるくらい厄介な生き物。
「まったく、手間ばかり取らせて……困ったものですわ。わたくしたちが欲しいのは換金率の高い魔物ですのに」
「まあ、ゴブリンは……うん、外れガチャだな」
『外れどすな』
ヤマトナデシコの相槌が妙にしっくり来て、ユウリは苦笑するしかない。
実際、討伐部位を切り取れば幾ばくかの報酬が貰えるにもかかわらず、レオノーラもヒルデもゴブリンの死骸には見向きもしない。
「ゴブリン討伐ではした金を得ても、わたくしたちの評価への影響など皆無。そんなものに構っているヒマなどありませんわ」
「ゴブリンを討伐した報酬では、ゲストハウスは貸してくれない」
ヒルデの語る寒い現実に、レオノーラも「その通りです」と全肯定。
「いちいち雑魚に構っていては日が暮れてしまうわ。大儀の前の小事なんだから、ゴブリンなんて無視をしてしまいなさい」
「いや、無視って言っても……襲ってくるんだけどな、アイツら」
『向こうが勝手に来よるだけどす』
「もちろん、障害物は屠りなさい。邪魔だから」
そう言うと、ユウリにも「ヒルデだけに任せてはダメよ」と出動を要請する。
「え、オレも?」
「当然でしょう。男の子が女の子の背に隠れているなんて、みっともないわ」
「こんな時だけ男扱いをするか?」
腰に吊るしたショートソードを抜きつつ恨みがましくスカートの裾を引っ張ると、もどかしさからかヤマトナデシコが『ここが主の見せ所どす』とユウリの背中をどんと押す。
『妾を使って前に出れば、こんな雑魚なんて瞬殺ですわ』
が、やる気満々なヤマトナデシコに「それはダメよ」とストップをかける。
『へっ、なんでどす?』
不満顕わに訝るヤマトナデシコに向かって、レオノーラが「考えてもごらんなさい」と扇子を軽く振って当然のように言い放つ。
「あなたを振るったら、返り血が飛び散るでしょう?」
『……は?』
「ゴブリンの血なんて浴びたら、オークやミノタウロスの鮮度が落ちてしまいますわ!」
『鮮度?』「鮮度?」
突然降ってわいたワードに主従ふたり? の声がハモる。
「ええ、そうですわ。仕留めた獲物がゴブリンの血で汚れたら、評価が下がるに決まっていますでしょう?」
「そうなのか?」
「当然よ」
ユウリのツッコミをものともせず、レオノーラの横線は続く。捕獲するオークやミノタウロスの状態がいかに大事かを説き、最後に「だから」とヤマトナデシコを名指しする。
「アナタには〝本命専用〟になってもらうわ。雑魚の汚れた血が付いたら不衛生極まりないですからね」
『まあ、そういうことならば……仕方おへんなあ』
満更でもないようにヤマトナデシコが納得すると、レオノーラが「よろしい」と鷹揚に頷く。問題がひとつ片付いたと見るや「そういう訳で」と今度はユウリを見据えて口を開いた。
「だから、雑魚はヒルデと一緒にアナタがショートソードで片付けなさい。宜しくて?」
実質的な最後通牒。
口調こそ穏やかだか有無を言わさぬ圧力に、ユウリは首を縦に振って頷くしかなかった。
*
ゴブリンは魔物の中では強いほうではない。
身長が1メートル前後。あばらの浮いた難民児童のような体型の、不健康な緑色した肌と醜悪な容姿の小鬼である。
それがまたガラスを爪で引っ搔いたような「ギー!」という声で鳴き、人には分からない言語でゴブリン同士がコミュニケーションを取り集団で襲い掛かってくる。
1匹1匹は強くなくとも集団で陣形を作って襲ってくる厄介さが、有害害獣として登録されていて駆除対象となっている所以である。
「グゲェー!」
断末魔の叫び声をあげて、ゴブリンがつんのめるように膝をつく。裂かれた腹からは緑色した血飛沫が吹き出し、地面に小さな水たまりを作っていく。
『お見事!』
ユウリの剣捌きをヤマトナデシコが褒め称える。というか、素人のチャンバラレベルを露骨にヨイショしたというのが正解か。
「見事もなにも、今のはただ剣を振っただけだろう」
渋い顔をするユウリを、ヤマトナデシコが『そんなことおまへん』とさらに持ち上げる。
『振った切っ先に獲物が寄ってくる、これぞまさに達人の剣ですわ』
「……ホンマかいな?」
『モノホンな刀が真っ当な評価をしとるんどす。信じなはれ』
「いちばん胡散臭いヤツに言われてもなぁ……」
『ムッキー! 妾を胡散臭いと言うたな!』
「じゃれてないで、仕事をする」
「スミマセンでした」
ヒルデに窘められて、ユウリは再びゴブリン駆除に剣を振るうが、脳裏になにかモヤッとしたものが引っ掛かる。
「グゲッ!」
「ブギッ!」
「ヴオェー!」
耳障りな叫び声をあげて次々とゴブリンが屠られる。3人合わせて今日だけで20匹は仕留めただろうか?
『それにしても、ようけ出てきますな。物陰でゴブリン見かけたら、周りにその5倍はいるんやおまへん?』
「なんだよ。その、ゴキブリ理論」
戯言を抜かすなと一笑に付したいが、わらわらと現れるゴブリンを前にして笑うに笑えない。
違和感を感じたのは、なにもユウリだけではない。
「確かに多いですわね」
しょぼい魔法を行使しながら、レオノーラも湧き出るゴブリンの多さに閉口しつつ「それに」と付け加え。
「数が多いだけでなく、明らかに弱いのが腑に落ちないわね」
『雑魚やから。ちゃいますの?』
ヤマトナデシコが訝る中、ユウリは「違う」と即答。理由はカンタンだ。
だってオレたち、そんなに強くない。
「先日ゴブリンと遭遇した時はレオノーラの魔法が暴走して、どうにか辛勝したレベルだったんだ」
『で、ユウリはんは?』
「ほとんど、なにもしていない」
醜悪な小鬼とはいえヒト型、屠るのに忌避感がないと言えばウソになる。
『それやったら隠れた才能が開花した。的な?』
「いや、違うだろう」
連中はユウリたちなど見ていない。盲目的に真っ直ぐ突っ込んで来るから、ド素人なユウリの剣捌きでも斬ることができるのだ。
「自分の実力は自分がいちばん分かってる。自惚れるつもりはねーよ」
『なるほど、おのれの分は弁えてはるんや。そういうヒトは強なる素質もってはりますえ、真摯で謙虚やさかい』
「真摯でも謙虚でもなくて、オレはところかまわず刀を振り回すようなサイコパスな高校生じゃねーの!」
「でも、いまは振り回すとき」
ヒルデの静かなツッコミに、ユウリは「そうなんだよなー」とショートソードを構えながら器用に肩を落とす。
「こいつ等、わらわらと溢れすぎ」
「そうね。動きが鈍く連携がない、突っ込んでくるだけで、攻撃の意志すら感じない」
「まるで逃げている?」
なんとなく口走ったユウリの声に呼応するかのように、次の瞬間。森の奥から強烈なプレッシャーが放たれてきたのであった。
読んでいただきありがとうございます。
『面白い』『続きが気になる』と思われましたら、是非ブックマーク登録をお願いします。
また、↓に☆がありますのでこれをタップいただけると評価ポイントが入ります。
本作を評価していただけるととても励みになりますので、何卒ご愛顧のほどお願いいたします。




