私情最大の作戦
グレンダが3人(プラス一振り?)に提示した条件。
「ギルドのゲストハウス。B級相当の実力の持ち主であると証明されれば、無条件でお貸しできます」
その提示に対してレオノーラが「それほど難しくありませんわ」と言い切った瞬間、ユウリは思わず「おい、マジか」と頭を抱えた。
F級冒険者にB級並みを要求するなど、幼稚園児に大学生相当の学力を求めるようなもの。誰がどう見たって無理難題にもかかわらず、あろうことか造作もないと言い切ったのだ。
「安請け合いするにも程がある」
他に手がないにしても、ディールをして少しでも条件を緩和すべきだろう。それをみすみす丸呑みするだなんて、自意識過剰も甚だしい。
「さすがにそれは、もう少しなんとか……」
「ダメよ!」
グレンダ相手に交渉をしようとした途端、レオノーラが強い口調でピシャリと遮る。
それだけでない。
「自らの価値を下げるだなんて愚の骨頂。わたくしたち……いいえ。ユウリならば、むしろ当然狙うべき地位ですわ」
なんと、B級になるのが当然とまで言ってのけたのである。
これには、ユウリも「は? なに言ってるの?」と言いたくなる。
自らを卑下するつもりはないが、だからといって身の丈は弁えている。B級なんて狙うにしても、まだまだずっと先だ。
「ハードル高けーよ」
なので言外に時期尚早を込めてムチャを言うなとぼやいたら、返ってきたのは「そんなことはありません!」な斜め上のセリフ。
「ユウリは昨日までの姿を思い出して〝身の丈不相応〟などと言っているのでしょうが、今のわたくしたちはまったく持って別物ですわ」
「はあ、どこが?」
昨日の今日で変化などたかが知れている。というか違いがあるのは、帰り道にヘンな刀を拾ったことだけ。
無意識にヤマトナデシコの柄を触ったユウリに、レオノーラが顎をしゃくり「それよ」と指摘。
「ユウリが手にした直後から、そのヤマトナデシコからは信じられないほどの魔力が滲み出ている。純粋な魔力だったら大魔導士をも凌駕するわ」
「お嬢様の鑑定眼は間違いありません」
ヒルデが淡々と補足するが、ユウリとすれば半信半疑。いや、疑念の塊と言っても過言ではないだろう。
精神年齢5歳の我がままで自己中なヒトの話を聞かないアレが大魔導士レベル?
「冗談でしょう」
鼻で笑うユウリだったが、あろうことかグレンダまでもが「確かに、高い魔力を感じますね」とレオノーラとヒルデの妄言を受け入れたのである。
「えっ、マジ?」
「魔力に関して私は素人ですが、それでも感じるとなれば高いと言わざる得ません」
『ふふん』
驚くユウリに鼻もないのに鼻高々なヤマトナデシコを、ヒルデが「あからさまに魔力を感じるようになったのは、ユウリに拾われて付き纏うようになってから」と注釈を加える。
「それじゃまるで、このオレがボンクラ刀を覚醒させたみたいじゃないか?」
『妾をボンクラ呼ばわりって、酷いやおへんか』
ずいぶんな言い草にヤマトナデシコが拗ねるが、構うとウザいので当然スルー。
ユウリが話をする相手は言い出しっぺのレオノーラ。主語抜きで「どうなの?」と訊き直せば、即レスで「ボンクラね」と言ったうえで「けれど」と話を続ける。
「ガチャガチャと少々喧しいけれど、あの刀は本物の〝魔剣〟で間違いないわ。ならば換金率の良いオークやミノタウロスのような食用魔物も狙えるでしょうし、難なく仕留めればB級相当と胸を張れますわ」
そうレオノーラが断言すると、その意見に納得できるのかグレンダも「そうですね」と同意する。
「本来であれば〝コンスタントに〟と但し書きが付くのですが、状態の良いオークかミノタウロスを2匹以上卸して頂けるのであればB級相当と認めましょう」
「承知しましたわ。これから仕留めてくるので、部屋を空けて待っていなさい」
納得したレオノーラが踵を返すと、ヒルデがそれに付き従う。ユウリは「ま、そうなるわな」と消去法で諦観するが、此処で空気を読まない人物というか刀が一振り。
『いよいよ妾の秘めた力を開放する時が来ましたわ。刀として生を受けた以上、血沸き肉躍る場にいてこそ存在価値があるというものやわ』
「……魔力はあるけど、知力は薄そうね」
部屋を出る間際に背後から、グレンダの困ったようなため息が聞こえてきた。
*
そうしてやって来た魔の森への入り口。
「改めて確認しますわよ」
レオノーラが森を背にして両手を腰に当てると、リーダーよろしく大上段に訓示を振りかざした。
「今回の目標はオークかミノタウロスを2匹以上仕留めること、それもできる限り状態良くよ」
そこで一拍置くと、指をぴしりと立てて「いいこと」と言葉に力を籠めた。
「ここでの成否が、今夜わたくしたちがベッドで眠るか、雨露凌げぬ野宿で震えるかを左右しますわ!」
ヒルデが無言で頷き、ヤマトナデシコも『おー!』とハイテンション。
ユウリは……まあ、死なない程度に。と醒めたテンション。野宿は勘弁だが、雨露さえ凌げれば別に安宿でも良い。
ま、この辺りが庶民と貴族の違いだろう。形ばかり迎合して拳を上げるが身の丈は弁えている、宿代(ビジネスホテル相当で御の字)プラス幾ばくかの小銭が得られれば十分だろう。
なので視点が嚙み合わないのは必至であるが、長いものに巻かれるのは庶民の処世術。
結果。
「おー?」
消極的賛成で迎合するのであった。
「では、行きますわよ」
レオノーラが満足げに頷くと、森に向かってくるりと踵を返した。
「狙うはオークとミノタウロス。障害となる雑魚はヒルデが倒しなさい」
どこの戦国武将かとツッコみたくなるように、レオノーラが床几の代わりに扇子で行く手を示してヒルデに露払いを命じる。
その無理難題をヒルデが「畏まりました」と二つ返事であっさり了承。いつものメイド服のまま袖口に黒光りする鉄鋼籠手を嵌めると、両腕を軽く叩いて無言で臨戦態勢をアピール。
森の中に美少女(含むパチモン)が3人も紛れ込むのは魔物にとって魅力的な捕食対象になるのだろう。さほど進まぬうちから「ギー」という耳障りの悪い声が聞こえてきた。
声のする方向に「あちらからよ」とレオノーラが扇子で森の奥底を指し示すと、まるでタイミングを計ったかのように緑色な皮膚をした醜悪なゴブリンが徒党を組んで数匹出現。
「ヒルデ!」
「承知」
命じられた通りにヒルデが一撃で撲殺。
ぐちゃっと鈍い音がしたかと思うと、ゴブリンがあらぬ方向に首を曲げて大地に伏せる。
「すげー」
『ホンマどすな』
ユウリとヤマトナデシコが同時に感嘆の声を漏らす。
レオノーラが「よろしい」と満足げに頷きつつも「しかし、まだ甘いですわ!」と短く叫ぶと指先を虚空にかざす。
すると指先から超高速の炎の矢が飛び、ワンテンポずれて樹上から毒虫がポトリポトリと落ちてくる。
「成りが小さいとはいえ、刺されたら無事では済まされない。ヒルデなら石礫で仕留められるはず」
「…………」
「容赦ないなー」
『ホンマどすな』
部屋がかかっているだけにレオノーラの気迫が違う。
「では、先へ進みますわよ。ヒルデ、引き続き前衛をお願い」
「畏まりました」
ヒルデが一礼し、再び一同が森の奥底に進んでいく。
「何としても依頼を成功させて、ふくふかのベッドで眠りますわよ」
「動機が不純すぎるけど」
『ホンマどすな』
「オマエ、それしか言わないのか?」
『ホンマどすな』
読んでいただきありがとうございます。
『面白い』『続きが気になる』と思われましたら、是非ブックマーク登録をお願いします。
また、↓に☆がありますのでこれをタップいただけると評価ポイントが入ります。
本作を評価していただけるととても励みになりますので、何卒ご愛顧のほどお願いいたします。




