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だから私は!!  作者: 海蛇
最終章.冒険者たち

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#92.さくしろうらお


 西への旅路、二日目。

街道というにはやや心もとない、細い道を進むセシリア一行は、国の西側に位置する小さな町、セニアに到着しようとしていた。


「セニアでは、私の仲間達が合流する約束になっているんです。他の、説得が必要な人たちも可能なら一緒に――」

「どこまで来るかしらねー? 仔猫ちゃんに聞いた感じだと、生き残りの中でも話の分かりそうな奴らって、ほんと限られた奴らでしょー?」

「もう、ローレンシア。話の輿(こし)を折るような事は言わないで」


 セシリアたち向けににこやかぁに説明していたケットシーだったが、ローレンシアの横入りに、むっとした顔で反応する。

自分たち相手の時は可愛い顔ばかり見ていたので、そんな風に感情的になるケットシーは新鮮だな、とセシリアらは思っていたが。

視線が自分に向いていると解るや、「あっ」と我に返り、フードの中に隠れる様に顔を縮こまらせ、しゅん、としてしまう。


「どしたん? そんなに縮こまっちゃって」

「うぅ……お恥ずかしい所を皆さんにお見せしちゃったと……」

「いやまあ、確かにあんま見ない顔をしてたとは思うが」

「私はかわいらしいお顔だと思いましたわ」

「私もだ。『こんな顔もできるんだなあ』と、少し得をした気分だが」

「はぅぅ……それが嫌なんですよぉ。はぁ、もう、ローレンシアの所為なんだから」

「えー、私が悪いのー? 私別に何も悪いことしてないけどなぁ? ね? 大天使ちゃんもそう思うでしょー?」

「寄るなっ、鬱陶しいっ、大天使って呼ぶなっ」


 どうにもローレンシアとケットシーはあまり相性が良くないようで、その上でローレンシアは大天使にも絡むものだから、小さくてかわいい二人から同時に邪険に扱われてしまっていた。

だが、ローレンシアはそんな事全く気にしないのだ。


「ふふーん♪ もうちょっとダンジョンにいたいなあって気分もあったけど、町もあるならそれはそれで楽しめそうだし旅も悪くないわねー♪」

「絶対禄でもない事企んでる……人間に何かしたら殺すから。封印じゃない、殺す」

「はいはいはーい。解かったってばー。しないわよしない。神の魔物らしいことなんて何もしませんー」

「サキュバス的な事も否定しろ」

「……」

「黙った! やっぱりこいつはダメ! 今すぐ殺すべき! セシリア様!!」

「はっはっはっ、楽しいにぎわいだなぁ」


 ローレンシアをなんとかする為に城を出た時は、悲痛な覚悟を抱いていたはずだったが、そんなセシリアですら今は笑っていた。

城に残ったコピーセシリアはもう消えているだろうが、騎士団長に頼んで城に居るテレサらに「逃げろ」と伝えたので、少なくとも城で捕まっているという最悪の展開は免れたと思うようにしていた。

セシリアが離脱したことを聞いた王と王子がどういう気持ちになるかは置いておくとして。

とりあえず、今はこのローレンシアを連れて西のレーゲンヴェリエまで行くという目標ができた事で、一同また、新たな冒険に明るい表情になっていた。


「それにしても、まさかセリエラに帰るまでの道のりで話してた『西への旅』がこんな感じに実現しちまうとはなあ」

「ははは、確かにそうだな。私もまさかと思ったよ」

「私も……実現したとしても、大分先のお話だと思っていました」


 何もかもが王子のプロポーズで崩れた、それまでの楽しい旅路での会話。

それを思い出しながら笑いあうセシリアとシェルビー、そしてアルテだったが。


「なんですのそれ? 私、そんなお話聞いてませんわ!」

「ボクも聞いてない……ケットシー、そんなに前の時からセシリア様たちをたぶらかしてたの?」

「たぶらかしてなんて……ただ私は、夢のあるお話をしたいなあって、そう思っただけで……もうっ、大天使はいつまでそんな怖い顔で私達を見てるんですかぁっ」


 その時の会話にはいなかったシャーリンドンや名無しがぷりぷりとした顔で話題に加わる事で、間に挟まれる形でケットシーが居心地悪くなってしまっていた。


『……ふふ』

「ありゃ? フーレちゃん、楽しそう?」

『知らぬ』

「いつもクールに大物ぶってたもんねえ」

『黙りゃれ』


 そしてフレースベルグはローレンシアにからかわれながらも、そんな光景を悪くは思っていないようだった。




 セニアの町は、王国の西側としてはあまり重要な拠点ではなく、時折旅の商人などがセレニアなどへの中継地点として立ち寄る為に宿などはあるが、あまり華やかとは言えぬ田舎町であった。

とはいえ、今はセレニアに向かう者も多いのか、田舎町としては賑わいも見せていて。


「――いいかっ! 他国に後れを取ったが、我々もこれよりグラフチヌスの揺り籠へと向かう! 噂に名高きセレニア騎士団の迎撃も考えられる。各隊、油断するなよ!!」

「はっ!!」


……そして、冒険者姿をした軍人たちの姿も、まあまあ見られた。


「噂に名高きセレニア騎士団、だとよ。大人気だなセシリア?」

「はぁ……まだしばらくは、ああいう(・・・・)手合いがダンジョンに向け集まるんだろうな……」

「もうもぬけの殻なのにねぇ。ご苦労様だわぁ~」

「ああいう連中がいる以上、ローレンシアは目立たないようにしないと。変なことしないでよ?」

「えー? 変な事ってなぁによぉ仔猫ちゃん? お姉さん純情だから分かんな~い♪ シャーリンドンちゃん、おしえてー?」

「ふぇぇっ!? わ、私ですのっ!?」

「シャーリィさんを変な事に巻き込まないでくださいっ」


 トリッキーなローレンシアの言動に真っ赤になるシャーリンドンだったが、アルテが間に入りこれを阻止する。

とても怖い眼になっていた。


「やぁん♪ アルテちゃんこわーい♪ ま、親睦は後で深めるからいいとしてー♪」

「深めない。いいから黙ってろ」

「貴方はもういい加減黙ってて」

「うわ、大天使ちゃんと仔猫ちゃん二人同時にダメだしされたわ。流石に真顔は怖いってー」


 冗談通じないわねー、と、手をひらひらさせながらへらへらと笑って済ませる。

そんなやりとりを眺めながら、「人数が多いとこういう時楽だな」と、セシリアは多人数PTの良さと、面倒くささを同時に味わっていた。


「――ふぉふぉふぉ。楽しそうな一団が来たものじゃのう。キャラバンには見えぬが、はて」


 そして、PTが宿屋の前に来たところで、仮面をつけた老爺を思わせる人物が、一同の前に現れる。

すぐに反応したのはケットシーだった。

声を聞くや老爺の前に立ったのだ。


「おじいちゃん! 先に来てたのね。ティアマートさんは?」

「ティアマートはもう来ておるよ。ケットシー、よぅここまで来てくれた」


 抱き合って頭を撫でる様はまるで孫と祖父といった感じだったが、会話から、セシリアらも『この人も神の魔物なのか』と、ただものではない雰囲気も感じ取っていた。

好々爺のような口調ではあるが、仮面といい、人ならぬ何かを持っているように思えたのだ。

ちら、と、ローレンシアを見て、老爺は「うむ」と小さく頷き、またケットシーの頭を撫でる。


「ふにゃっ……えへへへ~」

「無事説得できたようじゃな。よしよし。こちらもな、幾人かは既に送り出したところじゃった」


 頭を撫でながらにセシリアらを見て、また小さく頷く。


「……善き仲間と巡り会えたようじゃな? ケットシー」

「うんっ! この方たちのおかげで、無事に目的を果たせたのっ」

「そうかそうか、ならば礼を言わねばなぁ」


 ありがとうよ、と、その場で腕を付き出し、独特な礼の姿勢を取る。

この辺りでは見ない作法ではあったが、セシリアらもこの老爺が、自分たちに謝意を見せてくれているのは伝わっていた。


「でも、急がないといけないみたいよ? この町にも、私を狙った軍隊が冒険者のフリをして訪れてるのを見たわ」

「そのようだのう。正直、人間たちの争いにこの子が巻き込まれてないか心配ではあったが……道中を考えると、ゆっくり旅を、とはいかんのも解っておる」

「馬車でも借りられりゃ、いくらか旅が速くはなるだろうけどなぁ」

「流石にこの規模の町では、この人数が乗れる馬車を用意するのもちょっと難しそうですわ……」


 シェルビーとアルテが言うように、このセニアは町とはいってもそれほど繁盛している訳でもなく、馬車を売る店などがある訳でもない。

馬くらいは馬喰(ばくろう)が居れば買う事ができるかもしれないが、普段の旅でセシリアらが使うような大きな馬車などは用意できるはずもなかった。


「馬車など要らんわい」


 しかし、老人は問題にすら感じていなかった。

馬車などなくとも旅はできる。

その言葉の裏に、どんな意味が含まれているのか、セシリアたちは、まだ読むことができなかった。

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