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だから私は!!  作者: 海蛇
最終章.冒険者たち

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84/88

#84.だましあざむきはしぇるびーのとくいわざ

「――らぁっ! オラオラオラァ! かわしてばっかじゃつまらねえ、ぞぉっ!!」


 ダンジョンに戻り。

騎士団長とシェルビーの戦いは、一応は継続していた。

案の定というか、騎士団長も相当な化け物で、シェルビーの攻撃などものともせず、ほぼ一方的に攻撃を繰り出すのを、シェルビーがなんとか(・・・)回避して成り立っているだけの戦いである。

足止めが目的でなければ、時間経過で体力が尽きるか運悪く一撃貰って終わる、ほぼ負け確定な戦いである。

シェルビーは口先でひぃひぃ言いながら、なんとか冷静に頭をフル回転させていた。


(こんなんまともに喰らったら死ぬっ! なんとかっ、なんとか時間を稼ぐんだ……っ)


 考えながらの目先に迫る一撃はほぼ即死、良くて重傷の鋭さと重さである。

風切り音が高音ではなく低温、それも轟音となってダンジョンに響くのだ。

一薙ぎごとに壁に傷がつき、一突きごとに暴風が吹き荒れてゆく。

いくら広めになっているからと、走って逃げ回れるほどのスペースはない。

常に紙一重。ぎりぎりの位置取りで、けれど身体の至る所に斬撃による切り傷や受けた訳でもない打撲痕が走る。


「――こんなもんじゃっ、一時間と足止めできねえ、ぞっ!」

「ちぃっ、んなもん解かってんだよっ、セシリアがあいつを黙らせるまで、五分もありゃ十分だっ」


 それでも、少なくともセシリア()が目標を見つけるまでに、なんとか耐えなくてはならなかった。

今倒れれば、今まで稼いだ時間は、恐らくこの騎士団長が全力で駆け抜けるだけで無駄になる。

そんな予感がしたのだ。

無茶な軌道に痛み始める身体の節々を無視し、全力で目の前を見据え――一瞬、騎士団長の剣が、完全に見えなくなる。


「なっ……背中、かっ」

「ふぬぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

《ごばぁっ》


 背筋に隠された大剣が、瞬時に振り下ろされ。

その風が、シェルビーの左肩を薙いだ。


「ぐぇっ……ぐ、ぐ……あああああああっ!!!」


 直後、空気が横にブレるのを感じ。

痛みに軋む肩を無視し、団長に向け高く飛んだ。

天井部分の尖り岩に激突するスレスレまで飛び。


「ちぃっ、避けたかっ……むんっ」

《ずぉっ》

「やべっ」


 軌道から、着地狩りされるのが見えた刹那、右手を頭上の岩に拳を叩きつけ、無理矢理軌道逸らしによって避ける。

……が、着地した直後、左足首にずき、と、激しい痛みが走った。


(ちくしょ……(けん)が切れたか……)

「よく避けた……と言ってやりたいところだが、足をやっちまったようだなあ? えぇ?」


 肩にとん、と、大剣を置いた団長は、にやり、口元を歪めながら即座に一撃を見舞おうと腕に力を込めた。


「ちぃっ、まだかわすのかよ」

「へへへっ……もうちょっと、付き合ってもらおうと思ってさぁ?」


 左足で無理ならば、と、まだまともに動く右腕をバネに器用に飛びのいたシェルビーは、壁に手をつきながら「これだ」と、考えに至る。

その場にしゃがみ込み、切り刻まれたせいで砂状になっていてたものを一握り。


「騎士って奴ぁ、ほんとに堅いし速いし体力化け物だしで、絶対に敵対したくねえくらいに強いけどよぉ――」

「ふん、しゃべくれるだけの余裕ももうねえだろっ、いい加減黙りなぁっ」

「――俺達にも目的があるんでさあっ! 卑怯な戦いも許してくれよなぁっ」

《ぶぁっ》

「なっ――こいつっ!?」


 握りしめた砂による目つぶし。

単純すぎるほどに単純で、「まさかそんな手を使うのか?」と思わせるほどには卑怯で、そして、効果的だった。


(こいつは、少なくとも今は眼で俺を捕えようとしている。感覚じゃねえ、眼だけだ。とにかく眼がいいんだな、だから効くんだ)


 それでも尚戦意はそのままで、目をつぶりながらも大剣を振り下ろしシェルビーを裁断しようとしていたが。

シェルビーは、それよりも早く動けた。

一気に肉薄し、その真横を残った足だけで一気に跳躍し、すり抜ける。


「逃がす、かよぉぉぉぉぉっ」

「ちぃっ、もう少し固まっててくれてよかったのに、よぉっ」


懐から取り出すのはワイヤー。

罠を張る時に使うものだが、シェルビーはこれを一気に容器から引っ張り伸ばし、後ろへと落とした。


「うぉっ、とっとっ……無駄なごまかしをっ」


 その辺に散らばったワイヤーは薄暗いダンジョン内ではとても見えにくく、団長は何かが投げられたのは解っても、ワイヤーそのものを回避する事はできなかった。

足に絡みついた違和感に、否応なしに足元へ意識を向けさせられる。


「へへへっ、俺ぁ追いつかれたら完全アウトだからなあっ、時間、稼がせてもらうぜぇっ」

「――なめんなおらぁっ!!」


 叫びと共に、こんがらがり、ぎちりと締まったワイヤーを無理矢理に引きちぎろうと、足に力を籠める。

少しでも距離を離そうと、シェルビーはわき目も振らずセシリア達の後を追った。


(普通の奴ならあんなことしたらただじゃすまねえ、だが、あいつなら――)


 無論、合流するつもりなどではない。

今回の彼の役割は、時間稼ぎ。足止め。

邪魔が入らないようにするための、捨て駒である。


「見えたっ、あれだっ」


 一本道になった洞窟。

その最奥には、扉があった。

そう、扉である。

そこ(・・)に誰ぞかの死体がなかったので、セシリアたちは少なくとも無事通過したのが分かる。

ほっと息をつきながら……迫ってくる足音が聞こえた。


「ふんっ……どうしたぁ? 正しい道には入らねえのか?」


 ダンジョンの正しいルートは、既に冒険者ギルドを通して王国に伝わっていた。

団長も、目の前にあるこの扉が正しいルートではないことくらいは知っていたようだったが。


「へへへ……なんでだと思う? 当ててみなよ。当てられたら温泉旅行にでもご招待しようじゃんか」

「そいつぁ面白れぇ。だが、お前を斬り捨てる方がよっぽど速い――ぜっ」

(やっぱこいつ、罠については知らねえんだな)


 大きく振りかぶり、大剣を振り下ろす。

もう、彼には避けるだけのスペースは残されていなかった。

そのまま、斬られるしかない。

生き延びたければ、さっさとセシリア達と同様、正解ルートに進むべきだったのだ。

だが、彼はそうしなかった。

背を低く、いや、地べたに身体をつけ、そして――


「ぐべぇぁっ……!」

《がきぃっ》


 ぐしゃ、と、いう音と共に、斬撃を背に受けた。


「受ける面積を最小限にして即死だけは免れたって感じか……? 判断としちゃ正しい。だが、これじゃもう、時間稼ぎなんて――んっ?」

「そのまま下向いてなぁっ」


 そう、目の前の扉は、罠である。

扉だと思い手を触れれば最後、ジャキィ、という音と共に針が飛び出し……団長の身体を貫いた。


「ぐふぉっ……なっ、に……」

「はーっ、はーっ……へへへ、やっぱあんた、ミノスよりは弱いんだな。安心した」


 突き出してきた針はすぐに引っ込んだが……身体の正面にいくつもの穴が開いた状態で、団長はそのまま膝から崩れ落ちた。

横顔が並び、にやり、笑う。


「てめ、え……この罠を、知って……」

「へへ、へ……騎士様なら、時間経過でそのくらいの傷は回復するだろうけどよぉ……足止めは、確実にできるぜ……?」

「……死ぬつもりで。そうまで、セシリアを……なんで、だ?」

「ああ? なんでかって、そりゃ、役目の為さ。こういう役なの。俺は」


 解ってた事なのさ、と、その場で目を瞑り。

そして、血だまりになっていく中で、次第にその存在がおぼろげになっていく。


「……なんだと? てめえ、まさか――」

「悪ぃなあ団長さん。騙しちまって」






「――本物はこっちにいるからなあ?」

「どうしたんだ突然?」

「いんや、なんにも?」


 セシリアたちを先導するように、『本物』のシェルビーはそこにいたのだった。


 

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