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だから私は!!  作者: 海蛇
最終章.冒険者たち

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#79.ひゃくぱーせんとしんじつしかでないうらない


 地上世界にて。

早朝の内にセリエラに戻ったセシリアは、すぐさま屋敷に戻り、アルテと再会。

事態の打開のため、街の住民が活動し始める前にグラフチヌスの揺り籠へと向かった……のだが。


「――ラァッ!!!」

「ぐぁぁぁぁぁっ!?」

「くそっ、こいつら強ぇぞっ!! うわあああああああっ!!!」


 道中、林に入ったところで他の冒険者らしき者達の襲撃を受けていた。

それも、一人や二人ではなく、十人近い大集団である。


「おいおいおいっ、こんなに沢山冒険者がいるなんて、聞いてない――ぜっ!」

《シュッ――ドスッ》

「ぐぇっ!?」

「イービルドレイン――」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ、やめっ、やめろぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」


 それほど強い集団ではなかった。

まず真正面から斬りかかってきた前衛は大半がセシリアの斬撃を前に打ち倒され、後方に回り込もうとした者達も、シェルビーにあっさり看破され投げナイフの洗礼を受ける。

辛うじて生き残った者も攻撃に移る前にアルテの闇魔法によって生命力を奪い取られ、そのまま頬をやつれさせ意識を失っていった。


「――こいつら、よその国のモンだな。ご丁寧に外套に国章なんてつけてやがる……」

「他国から派遣されてきた冒険者の一団か……あるいは――」


 冒険者のフリをした、他国の騎士団か。

大したことない連中だったので、そうではなかったと思いたいセシリアだったが、いずれにしても違和感がぬぐえなかった。


「新たなフロアの発見などがない限り、攻略済みのダンジョンに攻略部隊をわざわざ送る意味なんてそうはないはずだが……もしかして、周辺国にまで『願いをかなえてくれる神の魔物』っていう噂が広まっちまってるのか……?」

「可能性は無いとは言い切れないな。そして、本当かどうか調査し、可能ならば独占しようともくろんでいた……?」

「あるいはそのルートづくりのための先遣隊なのかもしれませんね。いずれにしても、こんな連中がうろついているようでは、この先も……」


 少なくとも、安全な旅とは言えないのがはっきりとした。

ただならぬ状況は、何もセレニアの街中だけではなかったのだ。

あるいはここより先の全てが。

そういう可能性も考え、三人ともが気を引き締め……不意に『カコン』と、近くの樹の裏から物音が聞こえた。

シェルビーですら気付かなかった何者かの存在。

すぐに全員が意識を向け武器を手に、「誰だ」とセシリアが声を掛けた。


「――いやあ、すごいお手並みでしたね~」


 そして、姿を現したのは……フードを被った占い師だった。

無害な事を示す様に両手をあげながら。

いつも一緒にいる小鳥は見当たらなかった。


「占い師さん……? 何故、このような場所に?」

「というか、さっきの連中、占い師さんの『お友達』だったのかい?」


 とりあえずの危険性はないようだと判断したアルテとセシリアだったが、シェルビーは彼女の現れた『方向』を注意深く見ていた。

集団が現れた方向からほとんど変わらず、そして、全滅した後に現れたのだ。

油断できない存在だと判断できてしまえる条件がそろっていた。

だが、占い師は「いいえ」と、ニコニコしながら首を振る。


「同道させていただきましたが、探していたお友達ではないですよ? セレニアから目的地までが同じだったので、付いてきていたのです」

「……んじゃ、そのお仲間を倒しちまった俺らとはどうするつもりで?」

「んー……どうしましょう?」


 困ってしまいましたね、と、フードに隠れた耳をピコピコさせながら、迷ったように唇に指を当て視線を上向ける。

わざとらしい、という事も無く、本当に困ったようで、一同しばし、待ってしまっていた。


「とりあえず、この方々が最初に攻撃を仕掛けたのが原因ですし、セシリアさんがたは何も悪い事はしていないのですよね? 全員、生きているようですし?」

「これが賊の集団なら容赦はしていないが、冒険者の一団とあってはな」

「ダンジョン内なら目的の競合次第でそうなるかもしれねえが、外なら襲われる理由もねえしな」


 本当に不幸な誤解から襲われただけだったなら。

その可能性を考えるなら、そして相手が賊ではなく冒険者だというなら、殺すまで行くのはやりすぎの感があった。

少なくとも、セシリアたちはそれができるだけの実力の差を感じていたのだ。

だから、戦った誰一人、意識を失ってはいても死ぬまではいっていない。

時間が経てば、また彼らは立ち上がるはずだった。


「そもそも、こいつらはなんで俺らを襲い掛かってきたん? 占い師さんは知ってるのか?」

「んー……私は特には。ただ、『早くいかないといけないのに』と、何かに急かされている感じはしましたね。貴方がたを見つけて、止める間もなく攻めていきましたから」

「なんだそりゃ……先を急いでたのに俺たちを見つけて仕掛けてきた……?」

「何か、私達を止めないといけない理由があるのでしょうか? その上で、自分たちも急がなくてはいけない理由……」


 考えても答えが見つからないほどに謎が多い行動だった。

占い師も、耳をぴこぴこさせながらセシリアらを興味深そうに見ている。


「私にも理由は解りません。ですが、私にとっては同道する方がいなくなってしまってとても不安なので……よろしければ、またご一緒させてもらえないでしょうか?」

「私は別に構わないが。君の目的地は? 我々は『グラフチヌスの揺り籠』というダンジョンに用があるんだ。その道中や近くまでなら――」

「あらあらそれは好都合です♪ 私もそこ(・・)に用があるので♪」


 近場なら、くらいに考えたセシリアに、占い師はにぱぁ、と可愛らしい笑みで以て応えた。

だが、行先としては少女一人で向かうには明らかに異常な場所で、流石にシェルビー以外も違和感を覚える。


「……なんでそんなところに向かうんだ?」

「そんな所に住むような変人だから、でしょうか? まだ死んでいないなら、死ぬ前に会いたいなあって思いまして♪」

「あんなところ魔物や魔族くらいしか住んでないんじゃねえのか? そういう『お友達』でもいるのか?」

「うふふ、流石に私も魔物や魔族にお友達はいませんね。魔族なんてむしろ敵としか思ってませんでしたし」


 ロクな人が居ませんし、と、にこにこ笑顔で応対され、警戒しているはずなのに、徐々に違和感が薄れていく。


「私のお友達って、結構いろんなところにいるんですけど、変人が多いんです。洞窟の中に一人暮らしていたり、大きな樹のウロに住処を作っていたり、大河の近くで家を建てていたり」

「確かに変わり者が多そうだ……だが、ダンジョンの中はとても危険で……」

「ええ、解っています。ですから、冒険者さん達とご一緒していたのです」


 結局話はここに戻ってくるのだ。

そしてその『お友達』が誰なのか説明もされないまま、けれど「ああそうなのか」と、納得してしまっていた。


「もちろん、お邪魔になるようなことはしません。むしろ、『占い』によって普段では気づけない事に気付けるかもしれませんよ?」

「むう……危険な冒険に連れて行くのは心苦しくもあるが……」

「その占いがどのくらい役に立つのかは解らんが、少なくとも俺はこの占い師さんに、一度助けられてる」

「姉様、シェルビーさん。占いというのは、時として様々な事に気づかせてくれるものですわ。もしかしたら……」


 その占いにどのような効用があるのかなど、セシリア達には知る由もないが。

だが、シェルビーとアルテの言葉もあって、「このイレギュラーな出来事によって自分たちの計り知れない何かを受け入れるのは有用かもしれない」と、セシリアも考える様になっていった。


「……解った。なら、君を同道する仲間として受け入れよう。また、よろしく」

「はぁい♪ 道中は退屈させませんよぉ♪ どうぞよろしくおねがいしますね♪」


 手を差し出し、握手し。

再び、占い師の少女が仲間となった。

その小さな肩に、小さな青い鳥が留まり、見慣れた状態になっていた。




「――実は、占いで先ほどからよくない結果が出続けているのです。このままの道を進むのは、危険かも……」

「よくない結果って? そんな具体的なものが出るのか? 前に見せてもらった王様の奴みたいな?」

「いいえ、普段の占いで出るのはあくまで抽象的な結果の事が多く……今回も、やはり『それっぽい何かが起きそう』という、曖昧なモノしか出ませんねえ」

「どの程度の出来事がそれに該当するのか、かなり解釈が別れそうですね……」


 一緒に行動するようになって、まず真っ先に道中の危険性について占い師から言及があり、一行はそのルート取りに不安を覚え始めていた。


「例えば、道中であるなら、先ほどのように他のPTに襲撃を受けるだとか、賊から襲われるだかが考えられますよね?」

「ああ、そうだな。今みたいなのがまた起きるかもしれない」

「あるいは、不測の事故などで本来通るルートが通れなくなる、という事もあったり」

「悪天候の後は起こりやすいな。崩落とか倒木とかな」

「はたまた、仲間の方の急病や怪我などで、進行が不可能になったり」

「傷薬が少ししかないですから、そうなったら帰還も選択肢に入ってしまいますわ……」


 例として挙げられたものは、いずれもセシリアたちに「確かにそうだ」と思わせるものばかりであった。

概ね、予測もつかない、前もっての準備はできても回避できないかもしれないものばかり。

そして起きてしまった以上、その場その場で対処するしかないものだった。


「こういったものを回避するには、『そのルートを通らない』『普段と別の行動をとる』『一旦引き返して後日訪れる』といった行動でしか避けられない事もありますよね?」

「同じルートを通ると避けられないというなら、確かにそういう方向になるだろうな」

「でもよう、大体の場合そんなのは『もしかしたら』を考えられても、確定で起きるなんて思わないから、普通はそのまま突っ込んじまうよな」

「そうですね……これは『運命』というものの考え方に近い気がします」


 運命とはなんぞや、という哲学を考えるなら、様々な答えが人の口から生まれるが。

それを哲学ではなく概念として考えるならば、運命とは、日々そこで起きる現象と選択の積み重ねである。

占い師も「そうですねえ」と、指を立てながらにアルテの隣に寄り添い、その発想に同意するように頷いて見せる。


「普通は、『解らないもの』なんですよね。聞かされても理解できない。それとなく危険を感じて回避する事は出来ても、回避しなかった結果どうなるかなんて、結果から読み取る事しかできないんです」


 結局、起きた『現象』とそれに対して自分の選んだ『選択肢』から発生した『結果』からして読み取れない。把握できない。

結果を見て、「もしかしたら」を考えて選ばなかった、あるいは別の選択を選んだ結果を想像する事は出来ても、所詮それは、人間の持つイメージでしかないのだ。

現実が、そこにある訳ではない。

何故なら現実とは、起きている今現在を表す概念だから。

過ぎ去り確定した過去を意味する言葉だから。


「でも、それが仲間からの『危ないから別のルートを通ろう』という意見だったなら?」

「まあ、信頼できる仲間の言葉なら、その言葉を受けるだろうな」

「意地でもそのルート通らなきゃって理由でもなきゃなあ?」

「えぇ、きっと避けると思いますわ」

「ふふっ、そうですね。皆さん、仲間の方には恵まれていたようで」


 ほっとしました、と嬉しそうに微笑む少女に、セシリアらも顔を見合わせどこかほっこりとした気持ちになるが。

つまりは、それが『運命』を変える一言なのだと、はっと気付かされる。

それが伝わり、占い師は「そうなのです」と続けた。


「そう、運命を変える選択肢とはつまり、このような事で選ばれていくのです。占いも、きっとそれと同じで。貴方がたがどれだけ私の言葉を信じるかどうかで、選択肢は変わっていくのですよ」


 これまでと同じままか、あるいは全く違う道を選べるか。

そしてその先に待つ危機を、曖昧な『可能性』から、確実に起きるであろう『リスク』と認識できるかどうか。


「例えば……私の占いが、この先100%正しかったとして。それでも私の言葉を貴方がたが信じてくれなければ、私の言った結果がそのまま起きてしまいます」

「そんな100%当たる占いなんてものがあるもんなのかぁ?」

「あくまで例えですから……でも、私の言葉を信じた結果、何も起こらなかったとして、あるいは、許容できる程度のリスクで済んだ場合、どうなりますか?」

「『何も起こらなかった』『大したことにならなかった』と考えて、占い通りだと思うんだろうな、きっと」

「それが、全て貴方がたの選択によるものだったとしても?」

「占いという形で教えてくれたのが君なら、君に感謝すると思うぞ? 少なくとも私達はそうだと私は信じている」

「そうですね、姉様の言う通りですわ」

(……いい人たちだわ)


 人のいい者達だった。

とても善良で、そして、優しい。

警戒心の塊のようなシェルビーですら、セシリアたちに頷いているのだ。

きっと、その善性の塊みたいな感性に感化されているに違いない、と、少女は内心で嬉しい気持ちになる。


「……でしたら、私は貴方がたに危険の少ない道中を示せるかもしれません。この道をこのまま進むと危険ですので……次の分かれ道を、右手側から迂回しましょう」

「右手からか……初めて通るルートだな。シェルビー?」

「地図的にはちょっとばかし遠回りになる……迂回っていう通り、ちょいと回り込む形でダンジョン入り口に進むことになるからな。到着までの時間を考えると、一日遅くなる計算になる」

「大丈夫でしょうか? 姉様の分身、一週間くらいしか保ちませんのよね……?」


 制限の全くない旅ではなかった。

少なくとも一週間後にはセシリアの分身は消えてしまう。

消えた事による王城内の混乱も考えて、それが表面化するまでの間が実質的なタイムリミットと考えられた。

時間的な余裕は、ほとんどない。


「どうなんでしょうね? まあ、とりあえず、今はそのルートを通る方がいいと思います。まっすぐ進んだ結果、何日間も足止めを受けてしまう、なんて方がずっと困りますよね?」


 まるでそれが確定で起きるかのように言う占い師だったが、今の話を聞いては、今更「まさかそんな」と思えるはずも無く。

セシリアたちも「確かに」と頷かざるを得なかった。

彼女たちにとって、占い師とは最早、信頼できる仲間の一人だったのだから。

名前すら知らない、素性も知れないこの少女が、いつの間にか。


「ふふっ、楽しい旅路になるといいですね♪」


 どんな旅でも、その方がいいに決まっているから。

笑いかけてくる占い師に、誰一人悪感情など抱かぬまま。

ただなんとなく「せめてそうであったなら」と願うように、皆が小さく頷いていた。



 

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