紫髪の少女との戦い3
「……父上、それはただの表向きの言い訳です。姫様に報告する用に考えたものなので、そう感心しないで下さいよ。おじさんは取引をしてこの戦いに“姫様の部下”として働いています。普段の竜騎士としての時、おじさんは忠誠を誓わなくて良いと言う条件で王属専用の竜騎士を名乗っているのです。本来の目的を言う義理などありませんし、姫様もそれを黙認しておじさんにこの戦場の指揮を任せているんですから」
おじさんがそう言った言葉に、父上は無表情ながらも苦笑しているように見えた。恐らく強かになったなぁ―……としみじみとそう考えているようにも思えるが、元々から性格は強かなのは変わっていない。ただ、その強かさの強度が変わっただけ、誘拐されてから心身的にももっと、もっと強かになっただけなの。
珍しく真剣な声色で、軍師としての勉強しろと言われたあの日の選択は今でも間違っていなかったとはっきりと断言出来る。むしろ良く、その時他人の意見を取り入れたと自分の判断を誉めたいくらいだ。そうでなければ、流石のおじさんでもこの場では冷静さを失っていたかもしれない。
ルト先生のアドバイス通りに、素直に軍師の勉強をしていなかったら、父上の片腕、……そして師匠に重荷を背負わせたことに対する怒りのままに戦って、間違えなく死に、この戦いに負けていただろう。
「良いですか父上。おじさん達には果たさなければならない目的があります。
あの付近で足止めされる訳にはいきませんから、本当は父上が行っても良かったのですが、貴方には紫髪の少女との戦場に確実にいる状態にして欲しいのです。紫髪の少女は貴方から片腕を奪い逃げ去りました。憎しみが落ち着いてきた今となればそれは何処かおかしさを感じさせます」
軍師の勉強をし、今は冷静さを保っていなければならないことはわかっているはずなのにどうしても……、大切な人々を失うんじゃないかと思うと、手のひら震え出す。それは怒りなのか、悲しみなのか自分の気持ちが複雑に絡み合いすぎで自分のことのはずなのにどうして手のひらが震えているのかわからない。
父上は今回勝つために重要な位置にいる、それがわかったのは何時のことだったかは忘れた。あまり大切な人を作ろうとはしなかった師匠が唯一、親友として側においていたのが父上だった。紫髪の少女の前で重症な怪我を負おったはずなのに、なのに殺されることなく生かされた。それは幸運だったのか、意図されたことだったのかは本人ではないおじさんにはわからないこと。
この思いを父上に話すことなく、震える手のひらを隠した。
「紫髪の少女はわかっていたはずなんです。戦い自体は好まないものの、我々が住むリノアノ大陸は他の大陸よりも何らかの影響でレベル六や強い加護を持つ者が現れやすいってことをわかっていたはずなのに、あえて最初にリノアノ大陸を狙い、占拠することに失敗した。
……そして、父上の片腕を奪うことが出来たのならあの少女には負傷したたった一人の男の命を奪うことなど容易なことだろうにそれをしなかった、それが紫髪の少女との戦いに勝つための鍵になる……とおじさんはそう思ったからこそ、貴方には生きて紫髪の少女との戦いを見て、そして戦ってもらわなければいけないんです」
半分の真実を話し、おじさんは本当に浮かべたかった表情をいつも通りの営業スマイルで隠した。
……全てを話すことが勝利に繋がるとは限らないから。
今回は確実に勝たなければいけない戦い。引き分けなんてない、勝つか負けるかの究極な二択しかないの。
何処で紫髪の少女が会話を聞いているかわからない今、全ての知っている限りのことを話すより、あやふやな真実を話した方が焦らすことが出来るだろう。
そう考えながら、おじさんはノーリ達が今現在移動しているところに出るように最短距離のルートを走っていれば案の定、小走りで移動していた皆と合流することが出来た。
あの時、あの少女が現れて確信した。……ここには紫髪の少女がいると。
「クラ、トールは?」
「まだ戦闘する音が聞こえてる。安心して、二人の足音が聴こえてくるから今の段階では生きているわ」
と、普段通りのふわふわとした口調なのに我ながら何処か冷たく聞こえる。
それよりも怪我をしてないか? と聞いてこないところは流石よね、信じてくれているのかな、おじさんの実力ではあの兵士が相手にならないってこと。
まあ怪我してない訳じゃないけれど、回復魔法を使うまでもないし?
なんて考えていれば、
「そっか、良かった。まあいらぬ心配だろうな、トールの実力は学生にしては強力なものだ。魔法騎士としての訓練に本格的にしていけば、かなりの実力者になることは間違えない。
それより、クラ。奥に行けば行くほどに扉がなくなって行くんだ。
この城の構成をしっているのはクラだけだし、これからどうしたら良いのか迷っていたんだが、良いタイミングで合流してくれたから凄く助かった」
そんなノーリの言葉に、まあ紫髪の少女が城内の構成を変えていないと思うのはあまりに安易的だし、おじさんが城内の構成を知っていたとしてもそれは地図を覚えていただけで、皆と同じくここに来たのは初めてなのは変わらないのにね……と考えながら、恐らく紫髪の少女がいるのは王の間だろうと仮定し、他の大陸とは違う構成をしているこの城の隠されている“扉”を、不自然な音がしているところがないかを探しながら地図を思い出す。
そして三十分後、おじさんの耳は不自然な一つの音を聞き取った。
その音がする壁の前に立ち、おじさんは勢い良く蹴りを入れれば……、壁はそれはそれは簡単に破られてしまうことに少しだけ驚きに感じていた。
その感覚、この隠し扉は常日頃出入りがされていると言うことがわかり、無言のまま地下へと続いていく階段を勢い良く降りて行けば、何処まで続いていることすらもわからない階段が続いていくばかりなのだった。




