紫髪の少女との戦い2
宣戦布告をされてから1日が経ち、父上が移動魔法で紫髪の少女が占拠している大陸の近くまで飛ばしてくれることになった。竜騎士科に通っていた頃の称号者達と異世界転移者四人、父上やトール達とおじさんを合わせて少人数の部隊で城へと乗り込む予定だ。その他の王族直属部隊はそれぞれの大陸へと行き、占拠されている状態から解放するのが役目らしい。
ある意味この方法は賭けだ、確かに少人数で行けば犠牲者も減るだろう。だが、この勝率は五分五分、もし城内にとどめて戦えなければ国民達の命だって危ない危険性があるから、これを決めた姫様の運の良さを試される訳だ。あの方に運命を委ねるなど思ってもみなかったから、おじさんの心情的には不安と不満しかないけれど。
だけど、紫髪の少女はこの大陸の戦力をなめている節がある。だが、今までの大陸と比べられても困る、この日のためにちゃんと戦力を温存しといたから。
おじさんは戦うのは得意じゃない、だって余計な物ばかりを壊しちゃうの。
でも、今回ばかりは遠慮はしないよぅ? ノーリ達の命がかかっているから、けして容赦はしない。
――指揮役として必ず役目を果たす、ただそれだけよとそう考えながら魔法陣の上へと立って、紫髪の少女がいる大陸へと向かったのだった。
一瞬で景色は変わり、目の前には外堀がまるで廃墟のように壊れていた。
この大陸に存在するのは廃墟と、紫髪の少女が占拠する城だけだった。
「……酷い」
そう呟いたのはアンリみゃんで、その言葉に対しておじさんは無表情をし、何も答えることなく無言のまま、紫髪の少女がいる城に向けて歩みを止めない。
ここまでさせるほど追い詰めたのは間違えなくこの世界の人間である。ここまでさせる前に、彩人の妹さんよりもっと早く強い力を持つ紫髪の少女を認める存在が現れていればこんなことにもならなかったかもしれない。お互い世界に対して絶望し合っている二人が悪い意味で共感し合ってしまったことで、こんな事態を引き寄せてしまったのかもしれないわぁ。
だから、あえて『酷い』とは言わない。紫髪の少女に対して昔生きていた人が化物だって言わなければ、レベル六の才能があったナナセくんが力に負けず制御し、好きな人と思い合って生きていけたかもしれない。そもそも罵るようなことを言わなければ、彼女はこの世界に復讐しようなどと考えなかったはずで。
追い詰めさせて、こんな事態を引き寄せた原因が例え言っていなくともない訳ではないから、おじさんはこの状態であることを『酷い』だなんて言いたくなかった。……きっと、紫髪の少女はこれから先も悪役として語られ続けるはずであり、純朴だった頃の記憶などなかったようなことにされてしまうんだろう。
もう紫髪の少女には救いの手を差し出すことは出来ないから、せめて次強すぎる力を持った子が現れた時のためにも、おじさんが生きているうちに現れてくれれば良いけれどそうならないと困るから、その予防線として師匠の死刑だけは避けられたから良かった。……今度こそ、その子が闇に堕ちなくてすむはず。
何かを踏まないように気を付けながらも、気配を消しながら城へと進む。
ノーリの契約竜が音を立てずに扉を凍らせ、雪が舞うかのように分厚い扉が壊れていってしまった。
契約竜の強さを引き出すためには、契約者の強さも関係する。ノーリはおじさんが誘拐された後から急激に実力を上げ、父上と同等……いや、本気を出せば父上以上むしろ師匠と同等くらいの実力を持っているとも言える。あまり目立ちたがらないノーリ、まあ独身って言う時点でもう目立っているのだけど、普段は本気を出すことはない。
分厚い扉が音を立てずに粉々に壊れたと言うことは本気モードと言うこと。
勝算はどれだけノーリとナナセくん、アンリやリースの力が通用するか、そして異世界転移者の四人が殺気の中、どれだけ殺気に耐えて本来の実力を出せるかどうかだ。
父上とトール、そしておじさんはなるべく倒すべき“本命”にたどり着くまで以下に他の皆の魔力を使わせずに行かせるか、その役目を担っている。
おじさんはどちらかと言えば、一対一の対決はあまり向かないことが最近わかり、この役目を自分に当てはめることにしたのだ。銃の的中率も上がり、魔力消費量も減ったことで魔力が残っていれば“本命”との戦いにも参加するつもりよ。足手まといになるくらいになくなっていれば、一度大陸へと帰って魔法具の通信機械を使って、実際の戦闘映像を見ながら指揮を取るつもりではいる。
「おじさんのことを気にせず、紫髪の少女と戦うことに集中して。良いわね、特にノーリとシィ!」
そう口パクでそう伝えれば、渋々といった様子で二人は頷いた。
その確認を取った後、躊躇うことなく気配を消しながら城内へと入った。
おじさんは城内の兵士だろうか、複数の足音をとらえながら出会わないようにルートを変えながら城内を歩き、中心部に着いた時だろうか戦闘はやむ終えない状態になり、合図で一発目の銃声が聞こえたら行く方向を指しながら、敵が近づいてくるのを待つ。
そして、一番撃ちやすい範囲に敵が入り込んだ瞬間、おじさんは迷うことなく銃を撃ち、ノーリ達は後ろを振り返ることなく城内の奥へと走って行った。
一回戦闘してしまえば相手側にも気づかれてしまうため、精神的に疲れないためにも一回戦闘すれば気配を隠さないようにとそう伝えてある。
おじさんはノーリ達が向かっているルートを確認しながら、兵士達を次々と倒していくうちに違和感を覚えた。戦闘に慣れているはずの兵士達にしては不自然な動きで戦っているため、違和感を感じ、一旦聴力に神経を集めればかすかに糸が擦れるような音がして、自分が今まで集めた情報に今の状態に一番当てはまる魔法を探した結果、恐らく禁忌魔法である精神魔法であると判断し、一点を狙って銃で撃った。
そうしたことで現れたのは、銃弾がかすったのか痛みで顔を歪めた十二歳くらいの少女が現れた。
「お兄様、お父様ここは任せてください」
と、トールは真剣な表情を言われ、確かに相性が良いのは彼かも知れないと思ったおじさんは頷き、引きずるように父上の手を取りながら、ノーリ達の足音を追って走り出したのだった。
「彼女が使っていた魔法は脳を乗っ取り、精神を壊させることによって自分の体のようにその人間を操る魔法です。本来なら禁忌魔法と指定されている魔法ですが、昔から生きている紫髪の少女がこの魔法を知っていて、彼女に教えたと言う可能性が大きいでしょう。この魔法には弱点があります、それは人を精神魔法で作られている糸で操っていると言う点です。
禁忌魔法だとは言え、魔法には完全と言う言葉はありません。操っているあの糸は操ることしか能がないんです、つまりは意図も簡単に多少の攻撃で切れてしまうんです。だから、操られている人間本人ではなく糸が弱点だと早い段階で気づけば……、あの少女はトールに勝てることはまずないでしょう。そして、その弱点を気づいた段階でこちら側にとって一番相性が良いのがトールなのです」
と、そう走りながら父上に説明すれば、彼は感心したような声を出した。
そんな反応に、おじさんは思わず苦笑をしてしまうのだった。




