紫髪の少女との戦い1
『声を張り上げて
歌を歌おうよ
未来の道標の歌を
たくさんの悲しみ
たくさんの苦しみを知った君の想いを
届いて、心の声を
痛々しい涙の跡
弱音を言えなくて、独りで泣いてた
夢の中でさえ、あの子の言葉が何度も何度も繰り返されて
眠れない夜もあった
過ぎ去る日々の中、
誰かに理解されない苦しみを
どれだけ苦しいことか身をもって知った
見えない未来に不安に感じて
狭い世界で一人、先を標してと願いながら歌を歌う
声を張り上げて
歌を歌おうよ
未来の道標の歌を
たくさんの悲しみ
たくさんの苦しみを知った君の想いを
届いて、心の声を
挫折を知って痛めた心
消え去りたいと何度願ったのかな?
声に出さないと、その願いを実現しそうなくらい壊れてるから
何も言わないで
時が流れるのは早くて
挫折して失った物を数えては
過去を引きずって、未来が見えなくなる
見えすぎた過去を忘れること
出来なくて一人、嘆くようにこの歌を歌う
心からの歌を
この歌を歌おう
過去の忘却を願う歌を
苦しみを知りすぎた、
たくさん傷ついた優しすぎる君に
気づいて、お願い
いつか消されてしまう
傷ついた記憶
でも、心は覚えてる
君が傷ついたことも
抗って生きたことも
覚えているから、どうか
生きて、命が燃え尽きるまで
声を張り上げて
歌を歌おうよ
未来の道標の歌を
たくさんの悲しみ
たくさんの苦しみを知った君の想いを
届けて、心の声を
どうか届いて、
たくさんの人に。
届いて、心の声よ』
良く月が見える、おじさんの秘密の場所でアンニュイな気分になりながら、久しぶりに歌を歌った。
まさか、彩人がこちら側にいることを選択するとは思っていなかった。
何がそう彩人に選ばさせたのかはわからないが、紫髪の少女の結末も近くなっているんだろうとしか、神ではなく人間であるおじさんにはわからない。
今まで完全有利だった紫髪の少女。……だけど、彩人がそう選んだことで明らかに流れがずれた。
あと数年でこの世界が一度滅びるのか否か、それが決まるような気がする。
……その予感が、ただの予感だけじゃなかったなかったと気づいたのは別の機会の時だと言うことに今のおじさんは気づくもなにも、考えてすらもいなかったのだった……。
彩人が妹と戦うと決めて明らかに、鍛練する目が変わってから三年経った。
おじさんはハルスノ学園を卒業し、竜騎士として本格的に活動し始めた頃、事態は動き出した。
――宣戦布告……。
リノアノ大陸と戦うと言うことを、紫髪の少女とその隣には彩人そっくりな男装をする妹さんの姿があった。
彼女……いや、彼はこちら側に自分の兄がいることに驚きの表情をしていた。しかも、妹である自分に敵意をぶつけてきているから余計に驚いたんだろう。
「兄さん……」
魔力で作られた、恐らく生放送であるこの映像越しからでもわかるくらいにはっきりと、映像に写った彼は声には出さなかったものの、口を動かしていた。
それでも彼は紫髪の少女から離れることをしようとはしなかった。
きっと彼……、彩人の妹さんの選択肢はそこで完全に決まったんだと思う。
彩人達四人は、現代から来た当時と比べれば月とスッポン以上の実力の差がある。洗練された戦い方が出来るようになり、実戦経験を抜けばおじさんは彼ら四人に勝てない。
まあ実戦経験を抜きにした話であり、それを入れれば本当の実戦で出せる実力はおじさんの方が上だろう。ノーリやシィとの連携技の精密さは実戦では充分に有利な手となるはずだからだ。……実戦で連携技が上手く出来なくなるほど、おじさん達は実戦を経験してない訳じゃないからね。
それに父上だって、トールだってこの戦いに参加すると言っていた。
――勝ち戦だって油断してたのなら……、負けちゃうかもよ?
と、おじさんは紫髪の少女に対してそう考えながら視線で挑発すれば、明らかに顔色が変わるのがわかった。
こっちには防御魔法の天才であり、尚且つ秀才でもあるノーリもいるし、多種多様な武器を使いこなし、攻撃魔法に長けたシィだっている。……それにね、紫髪の少女に勝てる可能性があるほどの実力者になったナナセくんがいるんだよ? そう簡単に勝てると思われては困るわぁ。
「この世界を守るため、力を合わせて紫髪の少女との戦いに勝利を!」
そんな姫様の掛け声で騎士や魔法使い達の士気は高まっていく一方。
姫様の部下として参加することに気に食わないおじさんは……、
「これは大きな借りですからね、姫様」
そう誰にも聞こえないように耳打ちをすれば、姫様は顔色を変えずに、
「わかっています。
貴方の望みはジークという賢者を永久的に死刑判決に変えないこと、私はその条件を飲み、貴方に戦への協力を依頼します。引き受けてくれますね?」
何処からその取引方法を聞き出したんだか、とそう考えながらおじさんは引き受けますと素っ気なく言って、ノーリの元へと戻れば苦笑されてしまった。
「上手くいったわね」
「そうだな、クラ。あとは師匠を生きて捕まえることだけだ」
そう会話しながら、周りの士気が高まる中、おじさん達だけ冷静にその様子を傍観していたのだった。
◇◆◇◆◇◆
「……あれは俺の妹だった。わかっていても堪えるな、これから自分の妹と戦うとなるとさ……。
それでも俺は戦うと誓った、例え自分の手で捕まえることになろうともこの決意を後悔することはない。大切な妹だとは言え、甘やかしてばかりでは大切にしているとは言えないから」
たまたま、しのくんと彩人が会話しているところを通りがかり、思わず影へと潜んで話を聞いてしまった。
そう話す彩人を見るしのくんの目は、おどおどしてはいなかった。真剣な目をしていて尚且つ、大切な人を思うそんな気持ちの込もっていた。
……そうか、彩人があえて“妹さんと戦うこと”を選んだのは隣に親友であるしのくんがいたからなんだね?
おじさんはそう考えながら、影から影へと移り、自分の部屋へと戻るのだった。




