やはりマイペースなおじさんです4
姫様のお見合いの場に立ち会っていて、お疲れであろうシィを出迎えるためにその会場の近くまで、おじさん行ってんだけどね?
その時見た光景を見て今の若者達はマセているのねと改めてそう思ったの。
だってねぇ、サエキ エルティさん以外の婚約者達から、姫様は口から砂糖を吐き出しそうになるくらい、聞いている此方としては鳥肌が立つくらいに甘すぎる言葉で口説かれていた光景を見てしまったから。
当たり前だけど、何人も同時に口説かれることの経験の少ない姫様は、遠くからわかるほどに表情は戸惑っていたけど〜……、生憎おじさんはそんな姫様を助けに行くつもりはない。
――これで懲りたなら、口説くような言葉の流し方を覚えることね。
強かな王女になりたいなら、覚えていた方が良いわ。……まあ、教える義理がないから教えないけど。
使用人と宰相、一部の人以外はおじさん達が使用人に紛れていたことに気づいてはいないみたい。
まあ、バレたらバレたで厄介なことになりそうだからおじさんはただ、何ごともなかったようにキリシア家の長男として、愛想笑いを浮かべながら話しかけることはせず、遠目からその光景を傍観することに徹していた。
おじさんはただ、頑張ったシィを迎えに来ただけなんだもの。
ちなみにノーリはいつも通り、竜騎士と魔法騎士の方々の治療のお手伝いに行っているから、尚更今はあの状態の姫様達に関わりたいなんて思わないわぁ。
まあ、厄介なことに政略結婚を成立させたいからと言う理由ではなく、姫様に甘すぎる言葉で口説いている婚約者達の目は完全に恋する人の目だからねぇ。
今、関わったらこれから先ずっとライバル視されるなんて勘弁よ。
なんて考えていると、怒ることを諦めたように苦笑するシィがこちらの方へとサエキ エルティを連れて、おじさんのいる方向へと向かって来た。
「シィ、おかえり〜」
「うん、ただいま。今回ばかりは助かったから怒らないでおくけどさ、次回やっら怒るからな?」
メイドとして潜入していたことを遠回しで注意してくるシィに対して、おじさんは一応「はーい」と返事をしておけば、いつも通り抱きしめられる。
そんなシィの行動に、驚いたような表情をした後にサエキさんはこう言う。
「……あの子が好きなのではなかったのか、シキ。他の人を抱きしめたりして怒られたりはしないのか」
と、あまりに生真面目な顔をしながら話すものだから、おじさんは内心では爆笑したくて堪らなかったけど〜……、至って真面目な話をしているサエキさんにとっては失礼かなと思ったからぁ、その感情を何とか堪えて営業スマイルを浮かべたまま、無言を貫く。
今、サエキさんに喋りかければ口が滑ってしまいそうなので、毎回誰かと初対面で話した時のお決まりの説明はシィにお任せすることにしました。恐らく、この方もおじさんのことを異性だと思っている可能性が高いので。
シィは空気を読んだのか、サエキさんに対してこう説明してくれた。
「こいつがクラです。
前、何度か話したことがあったでしょう? だから、浮気にはなりませんよ」
「……! この子がクラトル キリシア?
随分と、……少女的な顔をしているな。
この子の雰囲気が穏やかでのんびりしているのもあって、……よく女性だと間違えられてしまうのだな」
と、そう話しているサエキさんの顔は明らかに安堵の表情を浮かべている。
生真面目な表情をしていたのは、おじさんを異性だと勘違いして気を張っていただけだったのか、とそう思えてしまうくらいに不機嫌そうな雰囲気がなくなっている。……これが不器用で優しいと評価された、理由と言う訳だろうねぇ。
ん? そう言えば、さっきサエキさんが“あの子が好きなのではなかったのか?”的なことを言っていたよね。ってことは……、そこまでシィ達に信頼されている人物ってことかぁ。
確かにねぇ、十五歳とは思えない風格だよね、サエキさんって。
威圧的とかそう言うんじゃないのよ? この人なら自分の命を預けられる、そんな安心感があるの。
初対面なおじさんでもそう感じさせたんだから、相当なカリスマ性を兼ね備えた人だとそう思うわぁ。
なんて、おじさんは考えているとシィは苦笑しながらこう言った。
「サエキ先輩は本当に優しいですね、でも気にすることないですよ。
クラは、あまり女性だと間違われることを気にしてはいませんから。
フォローをしなくても大丈夫です」
確かにそうね、シィの言う通りだわぁ。
あまり、女性だと間違われることをそこまで気にしたことはないねぇ。
と、そう考えた後、おじさんはサエキさんに対して、こう言うことにした。
「シィの言う通りです~。おじさんはあまり気にしていませんよぅ。
でも、フォローありがとうございます~。誉め言葉として受け取っておきますね」
と、そう言えばサエキさんは何度か瞬きをさせた後、クスリと笑った。
次の瞬間だった。
姫様は顔を真っ赤にさせて声を荒くさせ、大声でこう叫んだ。
「貴方に言われる筋合いはないわ!
私は誰に言われようと……、この国の女王となると決めたの! 例え、どんなに困難な道になろうとも、女王であり続ける覚悟はそう決めた時から出来ている!」
ここで、冷静さを失うならまだまだだわぁ。今の対応の仕方は……、女王としてはあまり良いものではないね。
――まあ、おじさんは口出しはしないけれど。する理由がないからね?
なんて、考えているとサエキさんは小さな声でこう呟いていた。
「意気込みだけは良い。……だが、今の対応ではな。我儘姫のままだ」
その呟きに内心では同意しながらもその感情を隠すために、おじさんは営業スマイルを浮かべ続ける。
確かに意気込みだけは良いのよね。……まあ? それで空回りしているのまた事実なのだけどね……。
姫様の部下からすれば、婚約者に一番なって欲しいのはサエキさんなんだろうねぇ。だって、姫様が持っていない“何か”を補えるのは彼くらいだろうし?
姫様を良く思っていないだけで、おじさんはこの大陸が好きなのよ。
――だから、姫様が人を見る目がありますようにくらいは祈っているわ。
「ほんと、姫様を見るクラの目は……、見たことがないくらいに冷たい」
「父上は姫様を許したわ。でも、おじさんは忘れられない。父上を失うんじゃないかってそう感じたあの時のことを……。だからこそ、おじさんだけは姫様を許さない。それを受け入れても尚、姫様は女王となろうとしているのだから少しだけ強かにはなってきていると思うけどね」
と、シィの言葉にそう返事を返せば、切なそうな表情を浮かべた。
そして、シィは悲しそうな小さな声で呟くようにこう言ったの……。
「…………それ以上の復讐はするなよ、身を滅ぼすだけだから」
そう言い終わってからのシィの表情は、しばらく無表情のままだった。
◇◆◇◆◇◆
お父様に呼ばれているからと、張りついたような笑みを浮かべながらそう言った後、シィは心配そうに見つめているナナセくんを連れて何処かへと行ってしまったため、姫様達とはなるべく関わりたくないおじさんだから、サエキさんの隣で無言のまま過ごしていればこう話しかけてくる。
「悪く思わないでやってくれ、あの子も辛い思いをしてきたんだ……。
俺が言うべきことではないから、事情だけは言わないでおいとくけど、ああ言ったのはお前のためを思って言ったことであることは忘れないでやってくれ。
……壊れかけていたナナセの心を繋ぎ止めるきっかけを作ったのも、ナナセに対して偏見を持っていない人以外の他人に対して、一線も二線も引いたような態度をして接していたシキを変えるきっかけを作ってくれた君に、……俺は心より感謝をしているよ。……ありがとう」
サエキさんはそう話した後、ゆっくりとした足取りでシィ達が向かって行った方向へと、歩いて行ってしまった。おじさんは後ろ姿が見えなくなるまで、呆然とその姿を眺めた後、
「ほんと、不器用で優しい人だねぇ」
そう呟き、一人でこれ以上居れば巻き込まれそうな気がした。だから、やっぱりあの時出会う前からシィはナナセくん中心に無意識的に考えていたんだなぁ~……と考えながらも、おじさんも足早にこの場から立ち去ることにした。
背後から言い争う姫様達の声が聞こえてくるけれど、全くと言っても良いくらいに気にすることもなく、迷いのない足取りでノーリがいるであろう場所へと、おじさんは向かうのだった。
父上が心配で、王城で過ごすようになってから竜騎士の方々の治療はノーリが担当しているのよねぇ。
最近、おじさんと別行動する時は大体は竜騎士の方々専用の治療室にいることが多いから、探すのには時間は掛からない。ノーリの行動範囲は、ほぼ決まっているようなものだから。
竜騎士の方々、父上が鍛練をしている時には魔法騎士の方々の治療しているのだけどぉ~……、そうしているうちにノーリの回復魔法の効力も強くなってきているし、回復魔法が効き始めてくるスピードだって早くなってきてる。
それに毎日のように回復魔法で治療をしているから、治療を担当する前よりも結構魔力量も増えているみたい。ちなみに、ノーリが頑張っている姿を見て、おじさんも“ほどほど”に頑張って、彼ほどではないけど魔力量は増やしたの。
おじさんと同じで、ノーリは物理攻撃よりも魔法攻撃を得意とするからね。
紫髪の少女がこれからどう動くかもわからない今、なるべく長時間魔法を使えるように魔力量を増やしたいところなのよねぇ、それでも大分増えてきてはいるのだけど~……。
魔力量が増えていても、努力は怠ることなく頑張らなくては!
と、そう考えているうちに竜騎士専用の治療室に着いていて、おじさんはノックをし返事を聞いてから、治療室へと入っていけば案の定、ノーリはまだ治療が終わっておらず白衣を着て回復魔力をかけていた。
ここに来たタイミングが良かったのか、今治療している竜騎士の人で今日の役目は終わりなようで、ノーリは治療をし終わった後に「お大事に」とそう竜騎士に声を掛けた後、白衣を脱いでおじさんの方へとにっこりと微笑んだ。
そんな表情を見せたことで、さっきまで治療していた竜騎士の人は、微笑ましそうな光景を見るような穏やかな表情を浮かべながらこの治療室から出て行く。
ノーリにいつもの習慣で挨拶代わりに抱きしめられた後、数分くらいでその腕から逃れることを許され、一メートルくらい後ろに下がれば、彼の表情はとても穏やかな表情へと一変し、こちらへと向けられているこの視線はまるで溺愛する弟を見ているようだとそう思った。
あくまでもノーリは婚約者一筋であるものの、親友であるおじさんを優先してくれているのよ……。
おじさんはその優しさに依存しているわぁ、このままでは駄目だとわかりながらもね。この心地好い空間を手放すことはもう出来ない、……ノーリに何か言われない限りは……。
「おかえり、クラ。シィを迎えに行ってたんだろ? シィはどうしたんだ?」
と、ノーリはおじさん以外の人がいる時には絶対に聞かせることのない穏やかで、とても優しくて、まるで甘やかせようとしているような声でそう言った。
ノーリのその声を聞くたびに、お互いにこの友情にどれだけ依存し合っているのかと毎回自覚させられる。
もし、ノーリがいなければ父上が片腕で生活することになったと言う事実に、姫様に復讐しようと狂っていたかもしれない。……姫様に復讐しても、最後に残されているのは新たな復讐の火種だけだとわかっていながらも。
おじさんはマイペースで、どんなことがあってもわが道を行くと思ってた。
……だけど、師匠のあのことがあってから自分が少しだけ病んできているように最近感じ始めて。
勘違いしないでほしいんだけど好きだから、閉じ込めたい……そんなことは思ってはいないんだよ?
でもね? この友情に依存していないと……、自分らしく居られないような気がしてならないんだぁ。
と、そう考えながらも、恐らく安堵した表情を浮かべているだろうなぁと同時にそう考えつつ、こう言う。
「すっかり忘れてたんだけどぉ、シィってばシィの父上に呼ばれてて、話に行くみたいなこと言ってた」
「ほんと、そう言うところ抜けてるよな」
と、おじさんの話に穏やかな微笑みを浮かべながらノーリが言った言葉に対して、「そんなことないよぅ」とそう否定をしてみれば、再び穏やかな微笑みを浮かべながら「そんなことある」とそう言われてしまったのだった。




