全ては貴方の意志のままに2
屋敷中が静まり返った午前二時、動き回る足音が全く聞こえなくなった今、眠る必要もなくおじさんは静かにベッドから起き上がった後、影の精霊に愛された者の加護を持つ者として、ここまで影が満ちている今、絶好の機会でありスノーを作り出し情報を集めるまでもなく、影に身を潜めながらさっきまで眠っていた客室から物音一つ立てずに出た後、些細な音すらも立てずに紙と鉛筆を片手に屋敷の中を徘徊していた。
今回の企みを実行するためにはまず、一番重要なのはナナセくんをどう説得するかなんだけど……。ついつい癖でねぇ、今回の企みを実行するために必要もないのに、知らない場所に来ると屋敷内の設計図を確かめたくなっちゃうのよね。念には念をってことで、大まかな部屋数は把握しておくことにしましょ。
前世、情報屋での経験がここで役立つとはねぇと考えながら、一時間かけて屋敷中を歩き回った後、直ぐに一時間前までは自分が眠っていた客室へと戻り、影に紛れ込むのをやめてベッドへと些細な物音一つ立てずに戻った後、計算通りと考えながらここの部屋に向かってくる足音を聞いて、ニヤリと不敵に笑う。
ノックもせずに、ドアが開く気配がした。……予め、ノックをしなくて良いと言ってあるため、そうしたと言うことはこの時間に会うと約束しておいた人物であると確信し、ベッドから上半身を起き上がらせ、満面の笑みで出迎えた。
おじさんの視線の先にはやっぱり、……アイリスさんの姿があり、上半身がベッドから起き上がったのを確認すれば、彼女は無言のまま近づいてきて物を収納出来る魔法具を渡した後、立て膝の体勢になり口パクでこう言った。
「…………全ては貴方の意志のままに」
おじさんにそう言葉を伝えてきた後、アイリスさんは何を企んでいるのかも聞かずに無言のまま立ち去って行った。そんな彼女の背中を見て、何を企んでいるのかを聞いてきても良かったのに……と考えながらも、どう言う気持ちでそう判断したのかわからない以上、何かを言うことは出来ず立ち去るその背中を静かに見守ったのだった。
◇◆◇◆◇◆
企みを実行するため、今日は竜騎士科の訓練メニューをこなさず、おじさんが案内された客室で朝方、朝の挨拶をしにきたノリトくんと共に、アイリスさんに頼んでおいた物を確認しておいた後、どう言いくるめて街に買い物に出掛けるかどうかを考えていれば、肩を叩かれそれと同時にこう言われた。
「足りないものがあるから買いに行く、それがごく自然的で良いんじゃないか? そこまで街に買い物に出掛けるために、理由を深く考えた方が逆に不自然に怪しまれると思うぞ」
「それもそうだね」
と、ノリトくんの提案に対してそう同意をした後、いつここに人が来ていいように、アイリスさんに頼んでおいた物を直ぐに片付けた後、身支度を整えて街に買い物に出掛けることを頼むために、シキくんを起こしに行くことにした。
夜中のうちにこの屋敷の設計図をおおまかに把握しておいたものの、まだ屋敷に来てから一日しか泊まっていないと言うのに迷わず目的の部屋に行けてしまうのは怪しまれてしまうからねぇ、昨日客室まで案内してくれた使用人のユウシさんに頼み、シキくんの居る場所へと連れて行ってもらえば、その場所は武道場のような場所だった。
シキくんは大雨に濡れたんじゃないかと思うほど、大量の汗を掻きながら素振りを行っていた。少なくても三時間は素振りを行っていたんだろうねぇ、僅かに武器を振る勢いが少しずつであるけど〜……、衰えてきているように見える。
「無理しない範囲でシキ様も鍛練を行っていますから、そろそろ鍛練をするのをお止めになるかと思いますので……、少々お待ちになっていて下さい」
おじさんの心を読んだかのようなタイミングで、ユウシさんはそう言った。
基本、マイペースな性格ではあるものの、気長な面もあるから待つことは特に苦ではないのよ? こちらの都合で来てしまったのだし、それに合わせろだなんて図々しいとおじさんはそう思うからねぇ……と考えながら、素振りを続けているシキくんの姿を呆然と眺めていた。
――毎日鍛練を続けないと感覚が鈍るしねぇ、おじさん達も何処か場所を借りて鍛練をしようかしら?
……なんて、考えているうちに鍛練をするのを止めていたようで、爽やかに笑みを浮かべながらシキくんはおじさん達に近づいて来た後、こう聞いてきた。
「クラトル達も鍛練しに来たのか? 良かったら場所貸すし、自由に使って」
「本当? ありがとう。今日は残念ながら違うんだ、おじさん達毎日鍛練ばかりしてたからあまり屋敷から遠出することなくてねぇ。折角だから、あんなに大量に昨日買い物頼んでおいたんだけどぉ、おじさんってば書き忘れちゃったものがあって買い忘れちゃったのよ。だから、そのついでに観光に行きたいなぁって思って案内して欲しいのよ〜、駄目かなぁ?」
と、貸してくれるかどうか聞く前に、鍛練する場所を快く貸してくれたシキくんに対して、おじさんは買いたい物もあるし、街案内をして欲しいとそう頼んでみれば、爽やかな笑みから表情を変えることなくこう言ってくれる。
「ああ、構わないよ」
そう言ってくれたことに一安心しながら、一安心したことを表情に出さないように微笑みを作った後、シキくんに再びお礼を言えば「別に構わないって、こっちも都合に合わせてもらってるし、街案内くらいなら喜んでさせてもらうよ」とそう言った後、何処かへと向かって行ってしまったのだった。
◇◆◇◆◇◆
シキくんの身支度が整った後に朝食を皆で摂り、身支度が整っているか確認した後、使用人さん達が用意してくれた馬車に乗り込み、街へと向かう。
少しだけ街に着くまでに時間が掛かると言うことで、おじさんが住んでいる領地との違いについて考えてみようと思う。ここはどちらかと言えば、田舎でもなく都会でもない印象で、でも買い物をする際には少しの間、馬車や馬で移動すれば街についてしまう。
で、おじさんの住んでいる領地はと言うと、田舎過ぎる訳ではないが、どちらかと言えば田舎の方と言えて、空気は新鮮だし自然がとても多いのは魅力的だけど、一番近くの街まで行くのに最低でも馬車で一時間、馬では約一時間半の時間が掛かってしまう。
それが普通だと思っていたおじさんは、知識では知ってはいたものの、実際に目の当たりするとシキくんが住んでいる領地の違いにとても吃驚したわぁ。
……なんて考えているうちに街へと到着し、おじさん達は馬車へと降りれば視界に入る限り、店がいっぱいあったことで思わず目を輝かせていれば、シキくんから苦笑されてしまう。
一方、そんなおじさんを微笑ましそうな視線で見守りながら、アイリスさんはこちらの方へと近づいてきて、優しく穏やかな声でこう言った。
「シルバー様からの伝言です。馬車が苦手なクラトル様はあまり出掛けたことがないからと、心配で持たせた範囲のお金で名一杯楽しんで来いと言うことです。クラトル様、ノリト様、遠慮なく楽しんで下さいませ。ここは幸い、安く良いものが揃っていると有名な街でございます。三ヶ月の間、残りのお金で充分に観光が可能ですよ」
と、アイリスさんにそう言われたことで、女性並みに買い物が好きなおじさんは表情を隠すことなく、目を輝かせながらはぐれないようにシキくんとノリトくんの腕を組み、スキップをするような足取りで街へと歩き出したのだった。
「……覚悟しておいた方が良い、クラトルの買い物の長さは女性並みだ」
「……観光案内すると言った以上、最後まで付き合うつもりでいるさ」
そう二人が会話してることなんて、買い物を楽しみにしているおじさんの耳に届くことはなかった。
◇◆◇◆◇◆
おじさんはまず、シキくん達を連れて服屋へと行くことにした。
ちなみにナナセくんは人酔いするからと、屋敷でお留守番をしているよぉ!
センスの良さそうな服屋を見つけ、直ぐさまおじさんは服屋の店内に入り、服に無頓着なノリトくんに似合いそうな服を選びながら、自分が着るための服の候補を次々と選んでいく。
……その時のおじさんの顔は何時になく真剣だっただろうねぇ。
ノリトくんってば服に無頓着すぎるから、いつもおじさんが選んでいるの。
でね、ノリトくんに似合いそうな服がたくさんあって選ぶのが大変だったわぁ。……楽しかったけど!
結局、候補に選んでおいた服の中で八割を購入したんだけどぉ、赤字にならないのかと買う側であるおじさんの方が怖くなるほど、とても安い値段だった。
そのお店の店員のお姉さんと仲良くなったおじさんは、オススメのアクセサリー店を聞いた後、すでに疲れ始めているシキくんの案内の元、……そのオススメされた店へ向かい、アクセサリーを数個購入した。
「あのアクセサリー、女性ものだよね」
「ああ、そうだな。クラトルは才能の関係上、女装をするからな。鍛練ばかりしていてあまり出掛けられないから、こう言う機会に買っておきたいんだろう」
と、二人はそう会話をしていたのを、おじさんが物を収納する魔法具に買った物を入れながら眺めているとは知らず、シキくんは「似合いそうだもんな」とそう呟いていたけど、長い買い物に付き合わせるんだもの、今回だけは聞かなかったことにしておいてあげようとそう思った。
その後、アクセサリー店をもう一軒はしごした後、花屋、古本屋、魔導書店、画材店を何軒ずつはしごした後、ノリトくんの武器や防具を何点か新調し、買い物は終了した。
おじさんの買い物の長さに慣れている、ノリトくんは困ったように笑っていられるくらいの余裕はあったが、案内をしてくれたシキくんはと言うと……、腕を組んで支えてあげないといけないくらいにとても疲れていたようだった。
「あの……。何かごめんね、シキくん」
「……いや、良い経験をさせてもらった。楽しんでくれたようで何よりだ」
と、そう会話をした後、振り回しすぎてしまったことを許してくれたシキくんのためにも、今企んでいることを何としてでも成功させなくては、とそう思ったおじさんなのだった。




