おじさん、初めての魔物狩り11
三十分の間、ナナセくんは声を出して今までの分泣いていたおかげか、目を赤く腫らしていながらも表情はとてもすっきりとしていたが、シキくんに抱きしめられていることに気づいた瞬間、怒りからか照れからなのかはわからないが、離せと珍しく素直じゃない態度を見せていることに違和感を感じたが、誰かの心情を考えても答えが出る訳ではないのだから、何れ機会があれば聞いてみようとそう考えるだけで止めておいたのだった。
変装の才能があるおじさんは、身分を隠して活動する時があるかもしれないと言う可能性を考え、ジークさんが行方不明になった後、社交ダンスの女性パートやマナーを一通り習ってあるのだけど一瞬だけ、ナナセくんが女性的な仕草をしたような気がしたのは気のせいかなぁ? と再び、本人に聞かなければわからないようなことで悩み始めたが、いつか理由を聞かせてくれるだろうと自分に言い聞かせた。
取りあえずこの話は一旦おいといて、今の現状についてなのだけどぉ〜……、ルノーンの森の霧が晴れてから一時間半過ぎ、この森が再び霧に包まれるまで、あと残り僅か三十分となったのにも関わらず、いつでも戦える集中力を保ちながらも全くと言って良いほどに魔物は現れない。
現れない方が戦わずに済むから別に構わないのだけどぉ、ここまで魔物が現れないと不自然なように思える。ナナセくんとシキくんが殺気を放っていてくれるとは言え、明日の食料を確保に必死な魔物達の皆が皆、自分より強い相手がいるからと言ってここまであからさまに、この場所を避けるだろうか?
戦意が高まっているからこそ、戦闘力の高い相手の悪い相手を意識するほど、冷静さを保てているかと考えると、明日の仲間の食料が優先して必死になって探している魔物達があえてこの場所を避けてことはわからなくはないが、やはり何処か不自然に感じてしまうくらいにおじさん達の前には現れることがない。
しかも魔物だけではなく人さえもここを通らないこの状態を不思議に思い、何故だろうかと首を傾げながら考えつつも、答えの出ないこの不思議な現象に誰かはわからないけど魔力を使っているのはわかるんだけどねぇ、聴力だけに神経を集中させてみれば魔法を発現するために魔力が移動していく音が僅かに聴こえてくるしぃ、その魔法によって今の状態が作り出されているのでは? としか可能性はないだろうねぇ。
が、やっぱり気になることが多すぎるわぁ。前世が情報屋だと気になったことをとことん調べたくなっちゃうのよねぇ。まあ、今回ばかりはどれだけ調べても本人に聞かなければ出てこない情報だとは思うのだけど。
と、すっかりそう考え込んでいたおじさんだったが、そう悩ませていたことはシキくんの発言によって、意外にもあっさりと解決されることになる。
「ここまで大規模に幻覚魔法をかけると、流石に魔力量は結構消費するな」
と、爽やかににこやかに笑みを浮かべながらシキくんはそう言った。
そんな発言に一番驚いていたのはおじさんではなく、一番シキくんと付き合いが長いはずのナナセくんだった。
「……シキって幻覚魔法、使うことが出来たんだな。知らなかった」
と、少しだけショックを受けたようにナナセくんはそう呟いていた。
が、そんな様子を見せたナナセくんに対して、シキくんはと言えば、
「知らなくて当たり前」
と、そう穏やかで優しい声で言った後、シキくんはパチンと指を鳴らし、ここら辺を大規模に幻覚魔法をかけていた以外にも、何か魔法をかけていたのだろうか、指を鳴らしたと同時に魔法の効力を解いた。
それと同時に一瞬でナナセくんの髪は伸び、女の子らしい顔つきになった瞬間、重要な話をすると察したノリトくんは防音効果のある結界を張った。
「……俺が幻覚魔法を使えること、ナナセには一番知られる訳にはいかなかったからな。別に信頼してないからと言う理由ではないんだぞ、俺は幻覚魔法でお前を守らなくてはいけない立場だったから、言いたくても言えなかったんだよ。
ナナセはちゃんと勉強してたから、これから言われることを大体察しているだろうけど、レベル六と言う立場にあるお前は、本来は子供が出来る性別として生まれたんだが、王族に近いお父様が王様に頼み込んでその事実を隠した。
直接、赤子に近いから女性の方が“レベル六”の子供が生まれる確率が上がる。貴族の思惑に巻き込まれて感情がなくならないように生きてもらうために」
恐らくこれからも男装をして行くんだろうしぃ、呼び方自体は「くん」のままで良いかと考えながらシキくんの話を聞いていると、驚きのあまり体を硬直させているナナセくんの姿があった。
……そりゃ驚くよね、今まで男だと思っていたのに、幻覚魔法でそう見せられていただけだったと遠回しにそう言われれば、誰だって驚いていたと思うよ。
……でもね、ナナセくん。この嘘は裏切りじゃないよ、愛されていたからこそつかれた優しい嘘なの。
と、そう考えながらもナナセくんにこの言葉を伝えることはしない。
誰からの言葉でそう気づくのではなく、自分でそう気づかなければいけないから、そう言いたかったのをグッと堪えて、穏やかな視線で彼らを見守っていれば、シキくんは続けてこう言う。
「ナナセ、お前は両親から愛されてなかった訳じゃないよ、お父様から聞かされたんだ。ナナセの父親は事故でお前が生まれる姿を見れずに亡くなった。母親は元々体が弱くて長く生きられても二年だったそうで、それでも母親なりたくて、自分が愛した夫の子供を産みたいと願った彼女は、どんなに容態が悪くなろうとナナセを産んだ。
魔法の才能がレベル六とわかっても、流石はあの人の娘だわと感心して、二人の親友にして一番の信頼出来る立場にいたお父様にナナセを守ってくれるように頼んだ後、ナナセのことを愛してると呟いて息を引き取ったそうだ。
それなのにまだ、お前は自分を化物だと言い聞かせるのか? お前の母親はお前を化物だと思ってないぞ!」
と、最後はナナセくんを叱るように、シキくんはそう言っていた。
が、直ぐに受け入れられるはずもなく、ナナセくんな涙を流しこう叫ぶ。
「嘘だ!」
「嘘じゃない! お前の父親だって魔力の才能でレベル六があったって聞いた。お前の母親はな、ナナセと同じく魔法の才能でレベル六の実力があった男を愛していたんだぞ! それなのに娘だけを“化物”呼ばわりする訳がないだろ!」
と、新たな真実を知り、ナナセくんは嘘だぁと弱々しく呟いた後、驚きのあまり硬直させていた体が一瞬で力が抜けていった。
そんな二人の言い争いを見て、まるで恋人同士のようだと思ったわぁ。
青春ねぇ〜……と呟きたくなったが、ここでそう呟いてしまえばただの空気読めない子になってしまうから、そう発言しないように頑張って耐えたの!
……なんて、そう考えているとシキくんは深呼吸を数回した後、穏やかで落ち着いた声でこう言った。
「……今すぐ受け入れろとは言わない。そこまで誰かの言葉を信じられなくさせるほど、あの辛い時間を過ごさせたのは変えられない事実だから。だけど、これだけは信じて欲しい。ここの結界にいる人は、お前を化物だと思っていないことだけは信じて。不安になったら何度でも俺に聞けば良い、安心するまで何度だってそう答えてやるから」
と、同性までも思わず、カッコいいと思わせる雰囲気を出すシキくんのこの発言、八歳児とは思えないわぁ。成人したらどうなってしまうのかしらねぇ。
ここの雰囲気が一瞬で甘くなったしぃ、恋愛に慣れていないおじさんにはちょっと居づらいわぁ……。
◇◆◇◆◇◆
成人するか、好きな人が出来て結婚するまではやっぱり、ナナセくんは戸籍上では男性として過ごすらしいから、今まで通りに呼んでやってくれと頼まれたけどぉ、最初からそうするつもりだったから大人しく了承しておいた。
その後、代表者限定のハルスノ主催パーティーの時、何でナナセくんを助けなかったのか? と聞いてみれば、ライバル関係と一部の貴族に噂で広がってしまっていたため、お互いのことを考えると安易に助けることが出来なかったんだとそう話してくれた。
そう話してくれた後、ナナセくんには聞こえないようにこうも話していたわ。
「公の場では助けられなかったが、あとあとあの発言をしてナナセを傷つけた男子生徒を見つけて、全力の殺気をぶつけておいたからもうあんな酷いことをナナセに対して言わないんじゃないかな?」
と、その言葉を聞いて、シキくんはどれだけナナセくんのことが好きなんだと思ったけどぉ、本人は自分の気持ちに対して気づいていなかったから、あえて言わないでおいたの。
シキくんが抱いている感情は、きっと恋愛感情じゃないのかなって思ったけどぉ、本人が気づくまで言わないでおこうとおじさんはそう決めたのだった。
主人公はこれからも、彼女のことを“ナナセくん”と呼びますが、ナナセは男装をしているだけで男の子ではありません。ややこしいとは思いますが、よろしくお願いします。




