おじさん、初めての魔物狩り10
センリ先生の雰囲気には癒されたものの、未だに精神的なダメージが大きく、体にダルさを感じているとノリトくんは小柄で、八歳児の平均身長よりも低いとは言え、おじさんの体を軽々と持ち上げた後、「こうした方が早く着くから大人しくしてて」とそう言われてしまうと、ちゃんとした理由があるばその申し出を断れないのを知っているはずなのにそれでも尚、あえてそういう言い方をしたんだろうしぃ、それに感情や人の心理の変化に敏感な彼は恐らく、かなり精神的な疲れを抱いていることを感じ取って、気を使ってそう申し出てくれたのだろうし、今回ばかりはその言葉に甘えておくとしよう。
ルト先生が頑なに自分が“化物”と思わせてしまうナナセくんに、そうではないと自覚させ、尚且つ傷だらけすぎて今にも壊れてしまいそうな心を癒していく手助けが出来るような言葉を、不器用さの目立つ優しい性格をしている先生に絞り出せる可能性の方が低いと思うしねぇ。
……それに出来るなら、ナナセくんが闇に見惚れないための砦になる存在は、そんなに歳が離れていない方が良いしぃ、そうなる存在が同性だったとしても、本人を照れさせるくらいに甘やかせようって思うくらいのブラコン気質、微ヤンデレ気質だったりする兄貴分じゃないと食い止めることは出来ないと思うから、どちらかと言えば常識的なルト先生にはその役目には向いていないもの。
今のナナセくんには、甘やかし過ぎがちょうど良いのよ。……ノリトくん以上に友人、親友に対して甘やかしすぎるようなそう言う人が彼には必要なの。
――ナナセくんの心が完全に壊れてしまう前にどうか、彼が心から信頼出来る人物が現れてくれますようにと、おじさんにはそう祈ることしか出来ないわ。
ナナセくんはね、おじさんの前世の弟に似ているの。顔じゃないのよ、雰囲気とか性格とかの話ね?
だから、ナナセくんの側にいるのはおじさんじゃない方が良い。
――普通の友人だったらなれると思うわ。……ううん、もうナナセくんのことは友人の一人だと思ってる。今の精神状態ではまだ、そのことを伝えるには早いと思うから、そう言うのはもう少し先のことになりそうだけど……。
ナナセくんとどう接したら良いのかわからないの。……前世の弟と雰囲気や性格が良く似てるから、あの時のようにまた心を壊してしまうんじゃないかって思っている限り、お互いに依存し合う関係になることに迷っている気持ちがある限り、ナナセくんが闇に見惚れないように食い止めることは出来ないと思う。
それに……、おじさんはもうノリトくんに依存し始めてしまっている。
恐らく、恋人が出来ない限りは変わることのないくらいの高い優先度で、これからもおじさんはノリトくんとの関係を優先してしまうのだろうと思う。
トールにも依存はしてたものの、前世の時ほどには依存しなくなったのよ。
……なんてそう考えているうちに、四時間くらい掛けて行った道をノリトくんはおじさんを抱えた状態で、およそ二十分くらいでルト先生達がいる位置まで辿り着いてしまった。
まあ、四歳離れた弟のトールと同じ身長で、同じ体重なのだから鍛え上げてきたノリトくんには、何も持っていないと錯覚してしまうくらいの重さなんだろうけどぉ、ジークさんの修行をおじさんの方が長くこなしていたはずなのに、ここまで体格に差がつくとは母親の遺伝子が強すぎたのね、きっとそう!
まあ。後から身長が伸びた方が背が高くなるって聞いたことがあるし、おじさんは男子ですから二十歳くらいまでなら身長が成長する可能性がある訳だしぃ、今は目の前にいる嵐の前の静けさくらいに静かすぎるルト先生達二人をどうにかしないといけない訳で、どうしたら良いのかなぁ?
ナナセくんに対しては、普段通りに接すると決めたものの……、そんな流れにするためにはどうしたら良いのかと言うのが問題な訳で、前世でもプライベートの交流関係がコタくん(現在ではトール)しかなかったおじさんにはどう空気を読んで良いのかわからないのよ。
……むしろ、あえて空気を読まない方が良いのかしらと考え込んだ後、ノリトくんに助けを求めてみたが、ほぼおじさんの側にいてくれた訳だから、こういう立場には彼も流石に慣れていないらしく、困ったような表情を浮かべていた。
ああ。誰か、この暗い雰囲気をぶち壊してくれるハルスノ学園の生徒がいないだろうかと、おじさんが遠い目でそう考えたまさにその瞬間のことだった。
「ナナセ シード! 今日こそは勝って見せる! いざ勝負だっ!」
何処から現れたのかはわからないけどぉ、そう叫ぶように言った男の子には意外にも、ナナセくんに向けるその視線にはライバルに向けるような感情が込められていないことに疑問を抱きつつも、気のせいだと思うことにした。
その男の子は燃える炎を連想させるような赤髪に、赤目で少しだけつり目の一見、見た目だけはクールそうに見える容姿。八歳の時点でも容姿と性格のギャップに萌える女の子は人数は少なくてもいるだろうと思う。
将来男前になるであろう騎士科の太陽の称号者しか着れない制服を着こなしているその男の子は、鈍感ではなかったらしくこの場の空気を読んでか、
「……何か、すまん」
そう謝った後、ナナセくんがあまりに暗い表情を浮かべるものだから、それ以上話しかけることを躊躇って、話しかけたこともないおじさん達の側へと駆け寄ってきた後、初対面なことを気にもせずに質問してきたから少しだけ驚いた。
が、その驚きを営業スマイルで直ぐさま隠し、彼の話に耳を傾けた。
「俺、シキ ユーランって言うんだ。二歳からアイツと知り合いなんだけど、一度も勝てたことがなくてな。ああ、そうそうこの話はおいといて。あのさ……、何があったの?
レベル六だから化物だって言われてきたナナセを見てはいたし、そうやって言われて傷ついてきたナナセにどう接して良いかわからないから、俺は勝負を挑むことでまたお前かって呆れさせることでしか気が紛れる方法がわからなかった。
だから、勘違いしないで欲しい。俺はアイツがレベル六だからと言って、好奇心で戦いを挑んでいる訳ではないんだ。ナナセがちゃんと手加減出来るって信じてるって照れが邪魔して言葉では言えなくて、そう行動で示すしかなかった。
だから、ちゃんと訳を話して欲しい。そしたら今日こそはちゃんと言葉で伝えるから、……理解されなくても諦めずに何度でもわかってもらえるまで」
と、シキくんはそう言った。さっきと違って落ち着いたような雰囲気を出すものだから少しだけ戸惑いを感じつつも、ナナセくんとの接し方がわからなかっただけで悪い人じゃないってわかったから、おじさんは自分達の自己紹介をした後、簡単に今まで起きたことを説明した。
その直後に、シキくんはナナセくんの側へと駆け寄り、こう言ったの。
「……ナナセ、ここにはお前を化物だって思ってる奴は誰もいないよ」
「……嘘、だ」
と、シキくんが話しかけたことにより、やっとナナセくんが声を出した。
ナナセくんが声を出したことにより、ルト先生は安堵の表情を浮かべたのが見えたけどぉ、今はそれよりもああ言ったナナセくんに、シキくんがどう言うのが気になっている。
そんなシキくんは八歳だと言うのに、全てを包み込むような穏やかな微笑みを浮かべてこう言う。
「嘘じゃないさ。あのなぁ、お前がちゃんと手加減出来てるって信じてるからこそ、勝負を会うたびに仕掛けるんだぞ。それにナナセ、怖がらずに良く見てみろ。クラトルはお前に怯えているか、ノリトはお前を化物だと見下すような視線を向けてるか? 悪意の込もった視線から耐え抜いてきたお前ならわかるはず、俺が言っていることは嘘じゃないってな?」
と、穏やかで優しい口調でありながら何処か厳しさもありつつも、ナナセくんを友人だと想っていると言うことが感じ取ることが出来る言葉だなと思った。
そう言われている本人じゃないおじさんでさえも、そう感じさせた言葉をシキくんが言った瞬間、ナナセくんは今まで堪えていたんだろう涙を、周りなんてお構いなしに声を上げて泣いていた。
そんなナナセくんのことを、シキくんは包み込むように抱きしめた。
――父上が知らなかっただけで、ナナセくん自身も気づいていなかっただけで思わぬ身近なところにちゃんと、信じてくれていた人がいたんだねぇ。
と、そう考えた後、ナナセくんが泣き止むまで静かに見守ることにしたのだった。




