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おじさん、初めての魔物狩り8

 二回目の仕掛けのある弾に、そろそろ全体的に魔力が回る頃だと考え始めたと同時に、魔物の足元だけ地面が泥となって、その巨体はゆっくりと確実に地面へと吸い込まれるかのように沈んでいく。

 そのことに気づいた魔物は、吸い込まれないように必死に足掻くが、その体格が仇となり、抵抗すればするほどに……魔物の脚は地面へと飲まれていった。

 ノリトくんが魔物と距離をおいたのは、自分の死を悟った時にふと冷静に物事を考えられるようになる魔物がいるから、それを恐れてルト先生がいる位置まで距離をおいたのよ。

 さっきまで混乱していた魔物も、抵抗するのを止めて視線だけをおじさんらの方へと向けた後、空を仰ぎ見るように顔を上げた瞬間、魔物の体内から大量の魔力が移動されていく音を聞き取り、思わず冷や汗が止まらなくなり、異常に喉が渇いたように感じた。


 ――その瞬間だった。

 魔物の頭上で溜め込まれていた魔力が、空気の一部と戻っていった。

 魔物も何が起こったのかわからず、戸惑ったような表情を見せていたその数秒後、魔物は…………。

 何が起こったのか、わからない状態のままピクリとも動かなくなった。

 地面に倒れる衝撃で、魔物は泥となった地面から抜け出し、まるで崩れ落ちるように地面へと倒れたその時、魔物の背後に立っていたのは……、闇魔法で作られた鎖で繋がれた巨大な二つの鎌を持ち、ポーカーフェイスのままその魔物を眺めている、ナナセくんの姿があった。


 紅く染まる地面。

 その地面を見て、吐くのを我慢するように血が出てしまうくらいに唇を噛み締めている、リースちゃんとアンリちゃんの背中を擦りながら、ルト先生はこの場から一旦離れようと、二人にそう言っておじさんらを残して何処かへ行った。

 その三人の足音を聞くまでは、まるで時が止まっているようにそう感じた。

 そしてこうも思っていた。

 ナナセくんは危ういのだろうと。闇に見惚れてしまったら……、きっと抜け出せなくなるくらいに溺れてしまうんじゃないかって、そう思ってしまった。

 闇に見惚れてしまい、溺れてしまわないように支える誰かが、ナナセくんには必要なのだろう。……その役目はおじさんではないような気がして、彼の心が完全に壊れてしまう前にその人が現れてくれることを、思わずそう祈っていた。


◇◆◇◆◇◆


 あれだけ、ナナセくんに対して強気な態度を見せていたリースちゃんでさえ、何処か彼に向けている視線は怯えたような、恐怖心を抱いているような感情が込もってしまっている。

 そんな視線の変化に、今までたくさんの視線を浴びてきたナナセくんが気づかない訳がなくて、怖がらせないように二人から……いや、変わらない態度でいるおじさんらでさえからも、距離を置いた位地に座り込んでしまっていた。

 恐がられるってことはきっと、ナナセくんは想定済みだったのだと思う。

 ……だって、ポーカーフェイスで本当は傷ついているのにも関わらず、ずっと隠しているつもりなのだろうけど、前世で情報屋をしていたおじさんは情報を盗まれないために、表情を隠し続けてきたのだから些細な変化でも、普通よりは見抜ける自信があるの。

 ナナセくんはね、ポーカーフェイスであるつもりなんだろうけど、本人は気づいてないみたいだけど、時折少しだけ唇を噛み締めているような仕草を見せる瞬間があったのよ。

 おじさんはこう感じた。……これ以上、ナナセくんの心を壊さないためにもこの魔物狩りの場にリースちゃんとアンリちゃんを居させるべきではないと。


「ルト先生、開始宣言をした会場に誰か他の先生がいるのでしょう? ノリトくん、おじさんと共に彼女ら二人を送りましょう。今、彼女らは冷静な判断が出来ない状態にあります。そんな状態の人を魔物狩りに参加させては……、はっきり言って怪我をする可能性を多くするだけです」

 と、おじさんがそう言えばルト先生は考え込むような素振りをした後、

「……わかった。開始宣言した会場にいる教師にそう連絡を入れておく」

 ルト先生はそう言った後、おじさんだけにしか聞こえないような小さな声で、ボソリとこう呟いた。


「……クラトル、お前には損な役回りをさせるが、きっちりと実力の差を、あれがこれから竜騎士としての仕事なんだと、あの子らにわからせてやってくれ」


 と、ルト先生からそう言われた後、おじさんはルト先生しか気づけないくらいに小さく、頷いたのだった。



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