おじさん、初めての魔物狩り6
霧猫と出会ってから、それっきりは全くと言って良いほどに、魔物とすれ違うことすらもしなかった。
ルト先生の判断により、早めの寝床作りに入ることになったのだが……、皆は寝床としてテントを張っているところ、幼い頃の修行での寝床がハンモックだったことから、テントで野宿するのとにあまり慣れていないおじさんは、寝床であるハンモックの準備をし始めた時、再びあの霧猫が現れた。
おじさんを、穴があくんじゃないかって思うくらいに見つめてくる。
しばらく見つめて満足したのか、今度は落ち着きもなくキョロキョロと誰かを探すような動作を見せる霧猫だったから、もしかしてノリトくんはいないのかって探しているのかもしれないとそう思った。
恐らく言葉がわかっているのであろう霧猫に一応、「ちょっと待っててね?」と声をかけてから、直ぐにノリトくんの元に駆け寄り、事情を全く説明せずにさっきの場所へと連れて行けば、可愛らしくちょこんと霧猫は座って待っていてくれる姿が見えた。
そんな霧猫に対して、
「何か用があるの?」
と、そう霧猫に聞いてみると、滅多に鳴き声を聴かせることがないと言われている霧猫が、まるで「そうだ」と質問に答えているのように、にゃーんと首を右に傾げながらそう鳴いた後、霧猫はおじさんらに背中を向けると、そこには正面を向いてしまえば見えないくらいの大きさのリュックサックを背負っていた。
まるで「中身を見ろ」と言っているかのように、霧猫はおじさん達の方へと少しだけ顔を向け、そう訴えているように見えたから、リュックサックの中を遠慮なく探って見ると、笛と鈴……そして、一枚の手紙が出てきたの。
この笛と鈴の使い方が全くわからないため、この手紙に書いてあるかもしれないと思い、まずは手紙の方から先に読んでみると……、そこには古代文字でこう書かれていた。
「我が息子を助けてくれた、二人の少年へ
魔物は傷が癒えるのが早いと言うのに、治療してくれて感謝する。
少年らが我が息子に、優しく接してくれたことにより、息子が傷けられた時の人への恐怖心を、多少なりとも和らげてくれたことに感謝しきれない。
そのお礼をしたかったのだが、生憎私達は契約を結ぶことは出来ない。与えられた役目を全うしなければならないのだ。
だから、願うことによって我々の力を多少弱くした効力を発揮する鈴と、短時間を条件に我々を呼び出すことの出来る笛をお礼として貰って欲しいのだ。
少しでも君らの力になることが、今の我々出来る精一杯の感謝の気持ちだ」
ノリトくんは単語だけだったら、古代文字も読み取ることが出来ない訳ではないのだけど……、文章になってしまうと内容を理解するのに、結構な時間がかかってしまうため、声を出して手紙に書かれていた内容を読む。
そんな手紙の内容を読んだ後、戦う際に動揺しないためにノリトくんがそうしてくれただけなのに……と考えながらも、霧猫族達の気持ちを断る訳にもいかず、おじさんは霧猫を撫でながら「こちらこそ、ありがとう」とお礼を言った。
任務? を果たせたことに満足いったのか、まるでスキップをするかのような軽やかな足取りで、霧猫は巣に向かって霧の中に消えていったのだった。
ちなみにノリトくんが鈴、おじさんが笛を持ち歩くことにしたのよぅ。
その日の夜、おじさんは些細な音でも、起き上がれるくらいの浅い睡眠をとっていると……、何処からか女の子の悲鳴が聞こえてきて、思わず飛び起きた。
聞こえてくる声で、その女の子のいる方向を探りながら、三十分くらいの間、真夜中のルノーンの森を歩いていると、深くまで地面が泥になってしまっている場所に、片足がはまってしまっている見知らぬ女の子の姿があった。
速足で駆け寄り、女の子を持ち上げ、横抱きで抱え、水魔法で泥まみれになってしまった脚を洗い終わったと同時に、月の光がおじさん達を照らした。
「大丈夫? 悲鳴が聞こえたから、心配になって来てみたんだけど……。ごめんねぇ、知らない男子に抱えられて余計に吃驚したよね? 大丈夫そうだけど、怪我はないよね?」
と、怖がらせないように微笑みながら、そう話しかければ女の子はほんのりと頬を朱に染めていた。
……ん? 照れさせるようなことしたかなぁと考えつつ、女の子を地面に降ろしてあげたと同時に我に返ったのか、少しだけはにかんでこう言った。
「あの……。初めての称号者顔合わせの時の……、ナナセくんを庇っていた竜騎士科の月の称号者に選ばれた、クラトル キリシアくんですよね……?
あの、……先ほどは助けて頂きまして、本当にありがとうございました。
私、魔法医者科の風の称号を持っている、リーシェ アリーと言います」
そんなリーシェちゃんの言葉に、何も言わずに再び微笑んだのだった。




