おじさん、初めての魔物狩り1
「霧が深いよぅ、ノリトくーん! テンションが上がるねぇ。ふふ!」
他の科を合わせても一番に到着し、竜騎士科の集合場所で大人しく待ちつつ、何時になったら引率の先生が来るんだろー? と、考えながらもそんなことをおじさんは言っていた。
そんなことでも、にこやかに微笑みながらノリトくんはこう言ってくれる。
「そうだな、霧が深いね。テンション上がるのは良いが、怪我するなよ?」
と、そんなノリトくんの言葉に、にっこりと微笑んだ後抱きついた。
――やっぱりノリトくんは見た目も男前だけど、性格も男前だよね!? と、考えながら大人しくおじさんは、ノリトくんに頭を撫でられながら、誰か来るのを待っていると……、だるそうに歩きつつ、面倒くさそうに頭を掻きながら、こちらの方へと男の人が近づいてきた。
おじさんはついつい、“記憶”してある“情報”でこの男の人が誰なのか、推測をし始めてしまう。
だるそうに歩きながらも、周りの警戒を怠っていない。……と言うことは、この時点でもかなりの実力は持っていると思われる。おじさん達に近づいてくる時の足音がほぼしない。と、言うことは、恐らく暗殺、隠密行動を得意とする人物かもしれない。そして、こちら側に来ると言うことは竜騎士科の引率である可能性が、極めて高い。
この男の人を竜騎士科の関係の教員と仮定して、当てはまる人物は……。
「ルト エーテルさん」
と、つい推測結果を、口に出してしまったおじさんは思わず手で口を塞ぐ。
そんなおじさんの様子を気にもせず、面倒くさそうな顔のまま近づいてきて、その男の人に髪型がまるで鳥の巣になるまで、勢い良く撫でられた。髪型をそうした本人は懐から取り出した煙草を吸った後、こう言った。
「確かに俺はルト エーテルだ。だが、“さん”ではなく先生と呼べ。
さん付けされると何か照れるし、一応今回お前らの引率を担当するからな。
まあ、他の教員と違って、まだ引退はしてないけど。今は怪我のリハビリをしつつ、生きていくために教員として働いている訳だ。あーそうそう、自己紹介はする必要ないぜ。お前らの顔と名前、覚えてるからな。まっ、正直吃驚されられたぜー。まさか、俺が誰だか当てられるとは思っていなかったからなぁ」
と、だるそうな仕草をしながらも、意外とお喋りなのか、長々と一人喋っていた。この人も、おじさんと同じく表情を作って情報を隠すタイプか……なんて、ルト先生が喋っている間、そんなことを考えながら、話を聞いていた。
考えごとをし続けていたため、なかなか現実に戻らず、数十秒経ってからおじさんはこう言った。
「おじさんは強者で有名な方、将来強者になりそうな人の戦闘の際、やりがちな攻撃パターンや良くする動きなど、実際に戦闘している映像を見て、音や映像を、一人の人物に対しても何百通りの戦い方を記憶しています。まあ、これだけ覚えていても実戦でどれだけ考えつつ、早く対応出来るかが問題なんですけどね。
……それに、師匠であるジークさんが行方不明になってからは強者で有名な人、将来強者になりそうな人の足音、人それぞれ違う歩き方の特徴も“記憶”しました。おじさんは自分でも戦闘向きではないと自覚しています。こう言う手段を取らなければ……、この世界では生きていくことが出来ないですからねぇ」
満面の笑顔を浮かべながら、おじさんはいつも通りふわふわとした口調でそう話した。だるそうな仕草をしながらも、真剣な表情をしながらこの話をルト先生は聞いてくれていた。
きっと、ルト先生は面倒くさいことが嫌いでも、面倒見の良い兄貴分みたいな性格なんだろうなと、おじさんは考えていると、先生は煙草を握り潰し、煙草を粉々にした後、だるそうにこう言う。
「あの人の修行に良く耐えられたな。ジークさん、誰に対しても容赦ないって有名だったぜー。……だから、未だにあの事件を起こした訳がわからねぇ。
あの人は世界を破滅に導こうとするほど、冷酷な人じゃねーのは確かだ。
必ず、ああするしかない理由があったはず。だが、理由を推測するためにはヒントが少なすぎて、どこから情報を引っ張り出してくるかを推測することも出来やしねーしよぅ。かと言って情報は手当たり次第、探すもんでもねぇしなぁ」
ほら、やっぱりそうだ。面倒くさがりながらも、気になったことについて、ついつい首を突っ込んでしまうお人好しであり、自分がこうだと思ったら強い意志で突き通す人なんだろうなと、そう考えながらおじさんはルト先生の言葉を聞いていた。
そんな話を聞いているうちに他の科にも、ちらほらと生徒が集合場所に集まり始めていたことに魔力の気配で気付き、周りをキョロキョロと霧で視界がはっきりしない中、観察をした後、もう一度視線をルト先生へと戻した。
ルト先生はボサボサした髪をしながらも、割りとキリッとした鋭い目付きで男前の中で言ったら、平凡寄りになってしまうが悪い顔はしていない。なかなかの高身長で、なかなか体格も良いけどぉ、身嗜みがだらしない。それで台無しになっている、勿体ないねぇ。
と、これ以上、この話について何かを話すつもりはないおじさんは、無言のままそう考えていた。
ルト先生も、何も言わないおじさんに対して、何かを聞くこともせず、だるそうにため息をつきながら、面倒くさそうに頭を掻いているだけだった。この先生の、この対応は正直言って有り難かったわぁ。追及されちゃうと、このことはもう聞くなと遠回しで言わなきゃいけないしね~?
一方、全ての事情を知っているノリトくんはと言うと、無言のままニコニコと微笑みながら、鳥の巣状態になった髪を撫でながら、ついでと言う様子で手櫛で直していてくれた。
――そうだった、髪型が鳥の巣状態になっていたのすっかり忘れていたわぁ、とのん気にそう考えていると……、たまたま来たタイミングが合ったのか、他の代表者三人が揃ってこちらの方へと歩いてきた。
「情けないわねー。しっかりしなさいよ、アンタ! 男でしょー!?」
と、そう鋭い口調で言いながら、緊張しているのかぎこちない動きで歩くナナセくんの背中を、リースちゃんは勢い良く叩いている。はっきり言って痛そうだ、止めてあげて欲しい。見ているこっちも幻覚かな、正直背中が痛くなってきたから……。
そんな二人を、ふふふと微笑ましそうにアンリちゃんは笑っている。
女子二人に挟まれて、涙目になりながら小さな声でナナセくんはこう言う。
「……ご、ごめん……」
流石に可哀想になってきたよ。でも、おじさんはノリトくんに撫でられていて動けないし……と考えた後、視線をルト先生の方へと向ければ、視線に込められた意図を読み取ったのか、面倒くさそうに深いため息をつきながら、相変わらずだるそうな声でこう言った。
「ほら、そこの三人。メンバー揃ってんだから早くこっちに来い」
そんなルト先生の一言で三人は揃って、すみませんと謝り、この集合場所に駆け寄ってきたのだった。
◇◆◇◆◇◆
「皆、揃ったね」
「そうだな」
と、霧で視界がはっきり見えない中、はぐれないための予防線で手を繋ぎながら、ノリトくんとそう話していた。
すると、これ以上怒られたくなかったのか、ナナセくんはおじさんらに駆け寄ってきて、八歳とは思えないくらい背の高いノリトくんの背中に隠れた。
「か、匿って下さい!!」
と、そう言うナナセくんはまるで、小動物のようで微笑ましかった。
そう思っていたのはノリトくんも同じなようで、優しい声色でこう言った。
「別に構わない」
と、そんなノリトくんの一言で、ナナセくんは安堵の表情を浮かべていた。
こう集まっていることで皆とはぐれないし、一石二鳥だよねと考えつつ、おじさんはノリトくんの対応に対して、特に意見を言うこともなくぼんやりしながら、理事長先生による魔物狩り開始宣言まで過ごしていたのだった。




