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終わりと始まり

 どんなに魔力が枯渇しかけ、防衛反応で気絶しようともスノーの可能性を広げようと、毎日何度も気絶しようとおじさんの出来ることなら、全て頑張った。

 スノーの件でかけられる期限として、ジークさんに与えられたのは四ヶ月。

 おじさんは無理をしつつ、そのことをノリトくんに怒られつつも、三ヶ月でスノーのみで行動出来るようにした。どんなに気絶しようとも、意識を取り戻した後どんなにだるくても、一日でも多く、魔法での攻撃強化に時間をかけなければと思ったから。

 おじさんも、ノリトくんも二人揃いも揃って戦闘向きではない。

 ノリトくんに至っては防御系、回復系に片寄ってしまっているし、他の代表者とはぐれてしまう可能性がない訳でもないから、魔法での攻撃に優れているのはおじさんで、なるべく弱点をなくすことは不可能だろうけど、ほぼない状態にしなければいけなかった。


 魔法での攻撃強化にかけられる時間は、……たったの半年だった。

 死にもの狂いで、どんなに魔力が枯渇に近い状態になり、何度も気絶することになろうとも、この世界で生き抜くために必死に厳しい修行にも耐えきってやろうってそう思ってた。

 半年で、魔法の発現するまでの時間は半年前よりも半分になった。多分、これが最低限かかる時間であり、これ以上の時間は短縮は出来ないと思う。

 毎日、修行しては気絶するそんなことを繰り返していたおかげか、……修行前と比べて魔力量はかなり増えた。

 それでも戦闘面で“なかなか強い”以上の認識になるのは、おじさんには無理だろうと思うわぁ。

 おじさんは戦闘向きじゃないし、目立つことすらも苦手だから、この世界を生き抜ければそれで良いとそう思っていたのに……。


 ジークさんによる一年もの修行後、スノハル学園に入学するまでおじさんの家に居ることになったノリトくんと自宅へ帰ろうとしていた時、ジークさんの様子は明らかにおかしくて。

 まるで、愛しい息子と永遠の別れをするかのように、おじさんの頭を優しく撫でながら、温もりを確かめるように抱きしめられた。そんなジークさんの様子に嫌な予感しかしなかったけど……、何も聞くなと言わんばかりに最後は素っ気ない態度で家の中に入って行ってしまう。……聞き間違えだろうか、その直前、涙が床に落ちるような音が聞こえたような気がした。

 だけど、その涙の音が聞き間違えではないことだったと、気づかせられたのは二日後に自宅に着いた後、父上が珍しく苦痛そうな表情を浮かべながら今日の新聞と、ジークさんからおじさんに宛てられた一通の手紙を渡され、その二つに書かれた内容を読み終えた時のことだった。

 新聞に書かれていたことは、賢者であるジークさんがあの協会にある“紫色の水晶”を壊し、紫髪の少女を連れ去って何処かに消えて行った、と言うような内容が書かれていた。


 新聞紙を読んだ後、悲痛な気持ちになりながらもジークさんがおじさんに宛てた手紙を読む。その手紙には一字一字丁寧な字で、こう綴られていた。

 クラトル、ノリトが家に着いた頃には俺は逃亡者になっているだろう。

 俺がしたことは、お前らにとって裏切りのように感じるかもしれない。

 そう感じたなら、裏切ったことを許せとは言わないし、恨んでも構わない。

 それでもこれだけは覚えていて欲しい。お前達三人は俺にとって、大切な存在だったと言うことを。

 こんな俺の言葉は信じられないと思うかもしれないが、これだけは嘘偽りのない、本当の気持ちだ。

 そんなお前らだけに言っておこう。この手紙を書き終えてからの俺は“詐欺師”であると……。全ての言葉に、全ての行動に嘘が隠されている。

 これを期に、俺はこの使命を終わらせることにした。……だから、全ての使命を終え、全てを終わらせるまで、俺が牢屋に閉じ込められるまで信じないで。

 シルバー、お前には感謝している。こんな俺を、信頼して大切な息子を預けてくれたことを。楽しい思い出を与えてくれたことを、最後までこんな俺と友人でいてくれたことの全てに、ありがとうと直接お前に伝えたかった。

 そうすることが出来なかったこと、そしてクラトルやノリトの成長が見れなかったことが唯一の心残りだと思っている。成長した弟子達、老いても容姿は変わらないであろう友人にまた会える日を、心より楽しみにしている。

 そんな手紙を書き残す、ジークさんを裏切ったなんて思えるはずなく、おじさんはこの感情をぶつけて良いのかわからず、ひたすらに声を殺して泣き続けることしか出来なかった。


 おじさんは唇を血が出るくらい噛みしめ、泣いていることをお構いなしに、父上の方を向いてみれば、天井を仰ぎ見て、片目から涙を流していた。

 そんな父上の様子をしばらく呆然と眺めた後、ノリトくんの方に顔を向けた瞬間、包み込まれるように抱きしめられた。そうされたことで、やっと噛みしめていた唇を離し、すがりつくように抱きつきながら、大声で泣いた。

 おじさんは声がかすれるまで泣いた後、ノリトくんに抱きつくのをやめ、顔を見合わせながら決意を込めた声でこう言う。

「……ノリトくん。僕、ジークさんの使命について調べるよ。全てが終わった後、ジークさんが捕まることを望んでいるなら、僕の手で捕まえる。そうすることで、元のジークさんに戻るなら……、どんな苦労をしたとしてもそれを成し遂げてみせる、絶対に」

 と、そう言葉にすれば、ノリトくんは頬についた涙の痕をなぞるように、おじさんの頬に触れていた。

 そんなノリトくんの行動を止めることなく、彼の目を見つめていれば……。

 ノリトくんの片目から一筋の涙が流れた後。おじさんと視線を合わせるように顔を向ける。今まで見たことのないくらいに真剣な表情でこう言った。


「俺を頼って、クラトル。大切な親友だけを苦労させる訳がないだろう?

俺達二人で、ジークさんを捕まえよう。元の不器用で、優しい師匠に戻すために」

 と、そんな言葉に、おじさんは涙を浮かべながら微笑みを浮かべた。

 そんな表情を眺めている、ノリトくんの表情はまるで「俺は絶対に、クラトルを裏切らないから」と言っているような気がし、そんな彼に再び、自分の顔を埋めるように抱きついた。


◇◆◇◆◇◆


 それから七ヶ月後。

 おじさんとノリトくんはルノーンの森に来ていた。知識上では霧に包まれていると知っていたが、こんなにも濃い霧に包まれているとは思っていなかったから、少しだけ驚いた。

 が、おじさんは直ぐに我に返り、ノリトくんにこう声をかける。


「引き締めて行こー!」

 にこやかにそう言えば、

「クラトルが一番引き締まってないけどな。まあ、ふわふわしてなかったらそんなの逆に怖いけど」

 と、責める声ではなく、微笑みながら、穏やかな声でそう言っていた後、霧が濃いため、はぐれないように手を繋ぎながら、集合場所に向かうのだった。



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