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おじさんの修行な日常、再び2

 睡眠時間を削る日々が五日間続き、流石に体に良くないと思ったおじさんは午後十時頃に切り上げ、眠ろうとしていた時だった。眠気に勝てなかったのか、ノリトくんは本を開いた状態のまま、いつの間にか眠っていた。

 流石に座ったままの状態では肩が凝るだろうと思い、膝の上にある本に栞を挟んで閉じた後、おじさんは自分より身長の高いノリトくんを起こさないように横抱きにし、体勢を仰向けにソファーに横にならせてから毛布をかけた後、いつも睡眠をとっている部屋へと向かったのだった。

 ……おじさんが体勢を横にしたって言ったら、過保護で心配性なノリトくんに怒られちゃうなぁ、と静かにクスクスと思わず笑いながらそう考えていた。


 それと同時に縛られるのは好きじゃないけど、依存し合う友情関係は悪くないなと思い始めていた。……一番自分を、過去の記憶で縛りつけていたのは自分自身だったのかもしれない、とも。

 ……誰かを愛することも、愛されることも悪くはないのかもしれない。まあ、好きな人が出来ても恋愛に踏み込むまでに時間がかかるかもしれないけど、立ち直れるまでは無理せずにおじさん自身で、過去の記憶で縛りつけることを少しずつ、少しずつやめていこうとそう考えながら布団の中に入り込み、眠気に逆らうことなく深い眠りにつくのだった。

 そう決意したその日の夜、弟と最後に会ったあの日の夢を見た。

 だけど、その夢はいつもと少しだけ違っていたような気がする。

 その夢は弟視点で、アイツは逃げるように風呂場から去っていくおじさんの背中を涙目で眺めながら、自分自身を責めるかのような声ながらも、蚊が鳴いたような声で嘆くようにこう言った。


「……ごめんなさい、兄さん。俺はまた兄さんを縛りつけた。

それでも味方で居てくれて、兄弟として愛してくれる、馬鹿みたいに優しい兄さんことが俺も大好きだよ。……でもね、俺は愛情表現の感覚が人とは違うから大好きだからこそ、大切な存在だからこそ兄さんを殺してしまう。

……大好きだからこそ、兄さんから離れることにしようと決めたの。だから逃げて、兄さん。もう俺には優しくしないで、苦労してきた兄さんだから誰よりも幸せに生きて欲しいから」


 と、弟が夢で口にしたその言葉は真実なのかはわからない。

 だけど、弟の声でそんな言葉を聞けたことで自分自身を縛っていた、過去の記憶と言う縄を弟が外してくれたような気がした。

 ……恨まれていた訳でも、嫌われていた訳でもなかったのかもしれない。と、そう少しだけ思えるようになったと同時に、おじさんは目が覚めたのだった。


◇◆◇◆◇◆


 修行を開始してから九十九日目。おじさんはどうやらまだ午前五時だというのにも関わらず、目が覚めてしまったようなの。リビングまで起きてきちゃったから、二度寝する気分にもなれないし、だけどスノーの件について考えられるくらいに思考回路が正常に働いている訳でもない。

 朝ごはん作るっていう手もあるけど……、おじさんの料理は不味くはないんだけどね、適当料理だから、ジークさんの料理の方が美味しいのよね。


 朝ごはんを作る案は脳内で却下した後、おじさんはスノーの件を考えるくらいまでに、正常に思考回路が働いていないけれど、参考になりそうな資料くらいは見つけられそうな気がする〜……と考えながら、ノリトくんがまだ眠っているかを確認した後、起こさないように忍び足を心掛けて書庫へと向かった。

 ジークさんの姿は見えないし、寝息すらも聞こえてこない。……こんな朝早くから何処かに出かけたのだろうかと疑問を抱きながらも、彼は賢者だし仕事の依頼でもあったのかもしれないとそう思うことにした。あまり人のプライベートを探るのは、あまり良くないような気がするし。

 ……なんて、考えているうちに書庫の部屋へと着き、ドアを開け、いつみても見慣れることはないだろうと思うくらいの書物の多さに苦笑した後、ふらふらと背表紙に印刷されているタイトルを眺めながら本棚に沿って歩いていると、本と本の間にボロボロになったノートが挟まっていた。


 貴重な物かもしれないとおじさんは興味を抱いてしまったため、いつも欠かさず持ち歩いている革製の手袋を身に付け、その本を丁寧に取り出した。

 丁寧に丁寧にページをめくり、読んでみればその内容に驚きを覚えた。

 この書物は恐らく、あの教会にいる紫色の水晶の中に封じられている、あの少女に関する話が書かれているのだろう、おじさんはいつ書庫に誰かが来ても本を元の位置に戻すことが出来るように、本だけに集中しないように気を張りながら先を読み進めていくのだった。


◇◆◇◆◇◆


 おじさんの前世の仕事は、情報屋だ。持ち主にバレないように本の内容を読み取り、本を元の位置に戻すことなんて容易いわ。これでも三十年近く情報屋としてしていたの、その年数は飾りじゃない。

 幸い、五十ページくらいの書物だったからね。根性で三時間くらいで大体の内容を覚えることは出来たけど……、恐らく重要なキーワードだけが黒く塗り潰されていたんだよね……。

 それを誰がやったのかは、安易に考えるべきじゃないと思うわぁ。

 おじさんとしては先入観を抱いてしまうことだけは避けたいからね。


 ……と、考えながら音を立てずに革製の手袋を外した後、パジャマの裏地にある二つのポケットに片方ずつしまう。……安心してね、不自然に見えないように修行を終えた後、アイリスさんに作ってもらったものだから、そんな風になっているとは言われなければ誰も気づかないはずだ。

 ……流石のジークさんでもね? なかなか前世の名残がなくならないのよね、三十年近く続けてきた職業だもの、仕方がないことなんだろうけど……。

 隠していたと言うことは読まれたくない可能性がない訳でもないからね。万が一のために、もしあの書物を読まれたってバレたら大変だし、今回は書物を借りていくことは諦めることにしよう。



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