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おじさんの修行な日常、再び1

 ジークさんに向ける、ノリトくんのあの真剣な眼差しの意味がわかるのは、まだ少しだけ先のことになることを。

 その事実を知ったと同時に、ジークさんがもう一度修行を行うと言った“本当”の理由を知ることになることも、今のおじさんには知れるはずもない少しだけ“未来”の話であることを、今のおじさんは知らなかった。


◇◆◇◆◇◆


 初めての社交場での疲れか、移動魔法でジークさんの家に着いた後、おじさんはソファーに横になり、眠ってしまったようだった。寝違えたのか、頭に響くような痛みを首筋から感じながらも上半身をゆっくりとした動作で、無理やり起き上がらせる。

 床に落ちた、いつ掛けてくれたのかも分からない毛布を丁寧に畳んでいれば、部屋の奥の方からジークさんが現れた。その数分後、同性でさえも思わず見惚れてしまうくらいの爽やかな微笑みを浮かべながら、ノリトくんが起きてきた後、皆と朝食を摂り、修行一日目のスタートでーす。


 一日目。まず、出された修行はルノーンの森の霧が晴れる直前~三時間前までの音を“記憶”し、聞き分けられるようになれるようになることなの。

 蓄音機のような形をした録音機に、前世で言えば“イヤホン”のような役割をする魔法具で、おじさんは流れてくる音だけに集中しながら、何百種類の音の特徴や変化を比べながら、そのことをノートに記していく作業を、何百種類の音を覚えるまで何回も、何百回も繰り返していく。

 そんな作業を初日から三ヶ月後まで、時には一日眠ることなく繰り返した。

 完全に覚えた三ヶ月後、おじさんの両手は一瞬これは手なのか? と、疑ってしまうくらいに赤く腫れ上がった状態になっていた。集中してこの作業をしていた時は痛くは感じなかったけど、腫れていると認識した途端に痛いと感じるハメになった。


 そんなおじさんの手をひたすらに医学書や、回復魔法と防御魔法の書物を読み漁る、三ヶ月を過ごしたらしいノリトくんが慌てて回復魔法をかけようとしたのをジークさんが制止し、横抱きにされた状態で連れて行かれたのは、一度目の修行で初めて修行を行った湖だった。

 一日休憩だと、そう言われてしまったおじさんは湖の中心部分まで、湖の上を歩いて移動した後に水と水の間に入り込むような感覚で飛び込み、水の流れに逆らわないように一日中、三時間に一度のペースで息継ぎをしながら泳いでいたのだった。


 何故、回復魔法をかけることもせずに湖に来させられたかと言うと、それはおじさんの後天的になった体質である、“人魚に近い体質”が関係しているの。

 “人魚に近い体質”は水の上に立つことができ、人より呼吸の回数が少なく長い間泳ぎ続けることが出来たり、水の形を変化させることが出来る体質でもあるのだけどね……。

 この体質は他にも怪我、病気……などなどの症状が出ている際に水に触れるか、水に入ることで自分の回復力を時間を掛けて徐々に高めることが出来るの。

 この回復方法の弱点をあげるとすれば、徐々に回復力を高めていく方法なため、症状が重くなればなるほどに回復にかける時間は長くなっていくことかな。

 だから、おじさんの適応診断の結果に造形、回復の分野のみ、レベル四と言える実力と記されていたんだと思う。

 まあ……。おじさんの場合、自分自身しか回復が出来ないんだけどね?

 深くない切り傷、軽い打撲くらいなら水に数十分触れるだけで治るけどさ。


 “人魚に近い体質”は結構珍しい体質らしくて、色々な条件が揃わないとなることが出来ないらしいよ。

 条件は三つ。一つ目の条件は水属性の魔法の適合がレベル三以上であること。

 二つ目の条件は湖、もしくは海での生活を十五日間以上すること。

 そして、最後の条件は湖、もしくは海の主と仲良くなることらしい。

 そのことをジークさんに聞いた時、おじさんは努力し続ければ体質も変わることもあるんだなぁ〜……と、のん気にもそう考えていたような気がする。


◇◆◇◆◇◆


 修行開始から九十二日目となった。一日休憩をしたことにより、すっかり手の腫れも治まり、最初からなかったことのように痛みも引いた。

 ジークさんの入れ知恵もあると言うことで、スノーの件にかける時間は四ヶ月と期限を決められてしまった。後の期間は、魔法の指導されることになった。


 ここの世界の一年は三百六十日。

 一年は十二ヶ月で、一ヶ月は三十日。一日は二十四時間、一分は六十分だ。

 つまりは早くて五ヶ月、遅くて約一年の間、おじさんは魔法の指導をされることになりそうなのよ。

 苦行だわ。……苦行だけど、とりあえず今はスノーの件を頑張ることにしよう。



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