おじさんの修行な日常〜森編〜4
強くならなければな、と思っていたんだけど……ジークさんは、凄く言いづらそうにおじさんにこう言ったんだ。
「確かにクラトルは、この卵にいる子と契約した。だがな……、恐らく猫族寄りの遺伝子を持ちつつ、竜のように膨大な魔力を持っていたんだと思う。……卵の中にいるうちに魔力が暴走したのだろう。自らの身体を、自らの魔力で攻撃し続けていたのかもしれない。親猫の死と同時に……卵から生きている気配を感じなくなった」
そんなジークさんの言葉におじさんは絶望し、片方の目から涙を流す。
――嘘だろう? せっかく見れるはずだった世界を何も見れないまま、この子は亡くなってしまったのか、と考えながら。
――何故、魔力が暴走したのであればこの子の魔力を感じることが出来なかったのかと、次から次へと自分を責め立てるようなことばかりを考えてしまう。
おじさんはそう考えながら涙を流し、腰が抜けたように床に座り込んだ。
――兄さん、一緒に死のう? ……俺のこと、家族として愛してくれてるんでしょ。だったら俺のことをさぁ、一人になんかしないよね?
と、ふと脳裏に聞こえてくる……、おじさんが恋愛的な意味で誰かを愛することをやめるきっかけになった弟に言われた言葉を思い出す。……まるで今、過去の記憶だとは思えないくらい鮮明に。
あの時から弟は……、おじさんのことを避け始めたんだ……。
あの時からおじさんは一人称を、「俺」から「おじさん」もしくは「僕」へと意図的に変えたんだ。……この一言がおじさんを過去の記憶に縛られている原因じゃないと、自分自身に言い聞かせるために。
その時から誰かに縛られることを、苦手意識を持つようになってしまった。
その時から……、おじさんはほわほわすることで感情を隠すようになった。
まあ、元々からマイペースでほわほわしているような性格ではあったのだけど。
過去の記憶をこれ以上思い出さないために、無理矢理考えごとを止めたと同時にジークさんは……、
「……だが、」
手のひらを血が出るくらい握りしめているのか、ポタポタと床に血を流しながら、そうおじさんに話を切り出した。悲しそうな、悔しそうな声がする方向へ涙を流していることをお構いなしに向ければ、彼はこう言ったんだ。
「自分を責めたりなんかするな、きっとソイツはお前を責めたりなんかしていない。……今日だけは修行は中止だ、ベッドでゆっくりと休んだら良い」
◇◆◇◆◇◆
ジークさんの言う通り、今日のところはベッドで眠ることにした。
今日は父上に報告する日であるらしく、従者の二人は不在だった。
――本当にジークさんの言う通り、あの子はおじさんのことを責めていたりはしないのだろうか? と、そう考えながら眠りにつけば、いつもならぼんやりとしか覚えていない夢をこの時は、はっきりと鮮明に覚えていて。
――ありがとう。
と、そう言う竜の翼を持つ子猫。
おじさんが喋ろうとすれば首を振り、喋るなと言っているようだった。
――卵の中で僕がここまで生きられたのは君のおかげなんだ、君を恨めるはずがない。君の側に少しでも長くいたかったけど、最初で最期の契約者が君で良かった。……本当はね、君には会えなかったはずなんだよ。でも、君が天の気まぐれに溺愛された者の加護を持っていてくれたから、君に会うことが出来た。
と、子猫は青色の瞳を細めて微笑みながら、そう言った。
――僕はね、君の声を二度と聞くことは出来ないから名前を呼んで貰うことは出来ない。それは凄く、凄く残念だけど……、君の姿を見れて良かった。それだけで幸せな人生だった。
子猫はそう言い残して、彼を待っていた両親と共に幸せそうに笑い、少しずつ姿を消していったのだった。
完全に三人の姿が見えなくなったと同時に、おじさんは夢から覚める。
そして誓った。あの子の分まで、この世界を生き続けることを……。
「スノー、お幸せに」
あの子猫につけるはずだった名前で呼び、おじさんは彼の幸せを祈った。
おじさんの気のせいだろうか、ニャーンと返事をする子猫の声が……、聞こえたような気がした。
おじさんはリビングへと向かい、ジークさんに挨拶をする。
「……おはようございます、ジークさん」
挨拶をするおじさんの表情に安心したのか、ジークさんは口元を少しだけ緩ませるように笑っていたが、直ぐに無表情に戻ってしまった後、淡々とした口調でこう言う。
「修行、再開だ」




