おじさんは頑張ってます。
「おい、お前」
それがおじさんが馬車から降りたと同時に言われた賢者様、ジーク ライン様の一言でした。そんな彼の声色を聞いておじさんは思いました。……これ、この人に“なかなか強い”って認めさせるの不可能じゃね? と、一瞬でもそう思ってしまいそうなほどの気迫が声から感じ取ることが出来てしまったの。
でも、おじさんは強い子。内心で愚痴を吐き出せば弱音なんか吐かないわ!
めげたりなんかしないんだから! おじさん、ふわふわしてるけど……、なかなか根性据わってるの。気迫だけで弱音なんか声に出したりしないのよ!
「来い、早速修行だ」
……マジか……。流石のおじさんもキャラ崩壊しかけた驚愕な一言だった。
あれかなぁ、疲れてても魔物は唐突に現れるんだぞ的な感じなのかなぁってそう思うことにしないと、今日の修行は絶対に苦行だわ。おじさんね、まだ乗り慣れてない馬車に与えられたダメージの名残が残ってんのよ。お分かり?
長時間の間ずっと馬車に乗ってたからお尻痛いわ、急に立ち上がったからふらふらするわ、車酔いして気持ち悪さの名残が残ってるわで、精神的には五十代なおじさんには結構きついものがある訳よ。ね、それでも貴重な時間を頂いてまでも賢者様に指導して貰える身であるおじさんは、文句なんて言えないの。
もう根性でやるしかないわ、なんて考えてたら賢者様は幻想的な湖の前に止まってこう仰ったの……。
「……ここで一ヶ月過ごせ、調味料や最低限のものならそこにおいてある。ここの魔物は何があっても人を襲わない、だから安心して一ヶ月の間湖の中で生活し続けろ。一ヶ月後になったらお前の従者と共に迎えにくる。それがお前への修行内容だ」
と、確かに賢者様はそう仰った。魔法を使いたいならば自然を感じろ、と言う方針なのかなぁ。思ったよりはおじさん向きな感じで良かったの。
いきなり魔力を感じろって言われたらどうしようかと思っちゃったよぅ。あっ、一ヶ月後に野生化してたらごめんね、あは!
と、内心思いつつ、
「了解しましたぁ〜」
用意されていた水着に素直に着替え、何処かに去る三人の姿を見送った。
――水着、サイズぴったりだわ。流石賢者様、事前の情報収集も手抜きなし。と、全く関係ないことを考えながら、おじさんは鼻歌をしつつも準備運動をするの。……溺れたら大変だからねぇ。
満足するまで準備運動をした後は足だけを湖へと入り、体を水の冷たさにならした後、おじさんは湖の中をのんびりと優雅に泳ぎ出すのだった。
◇◆◇◆◇◆
湖生活一日目。とりあえずはぷかぷかと浮かんで過ごす。
一時間くらい浮かんでたら、そんなおじさんが心配になったのか、紫色のイルカもどきが近づいてきて、しばらくの間遊び相手になってくれた。
今日は馬車に酔った名残があってか、気持ち悪かったから食事はしないで、空気を入れて浮かぶボートがあったため、湖でぷかぷか浮きながらの就寝。海では波で流されてしまうけど〜、小規模な湖だから流される心配もない。なかなか寝心地が良かった。
湖生活二日目。すっかり、昨日のイルカもどきさんとは仲良くなった。勝手に愛称として「ムラサキさん」と呼んでるけど〜、キューイと可愛らしく返事をしてくれたからそう呼んで良いってことだよねぇ。
さてさて、今日は魚を捕まえる予定です。その話をムラサキさんにすれば、おじさんに何度か丁寧に手本を見せてくれたの。
おじさんはムラサキさんの泳ぎ方をなるべく真似して魚を追っかけたけど〜、息が長くは続かない。当たり前ね、人間だもの。海の生き物なムラサキさんのようには上手く魚を捕まえることは出来ないよね。
人生は上手くいくばかりじゃないのよ。おじさん、明日も頑張る。
今日は魚、捕まえること出来なかったの。だからワカメと貝を見つけ、スープを調理し食べたの。なかなか美味しかった。




