二十七話 光と闇
ちょっと家を空けることになるのでその前に投稿します。
まぁ楽しんでいってくださいよ。
「「「魔の頂点に君臨せし者 魂は千霊を従えて冥界から舞い降りる 肉は百鬼が自ら差し出す すなわち 地獄の豪炎に焼かれし王は 再び地に足を下ろさん!!」」」
魔族と人間貴族による詠唱が完成され、祭壇の中央には黒い煙のようなものが大量に集まっていく。
それは生け贄にされた王女と、数名の妖精族の魔力。そして今まで全世界で死んでいった魔物、魔族たちの残り火である。
煙は人型に形を作っていく。脚、胴、腕、首、顔。そして胸の部分にぽっかりと空いた空間。それは今まさに届こうとしている魔王の心臓を待ち構えている。
「我らの繁栄の時は来た! 今こそ世界は闇に覆われる!」
その言葉を待っていたかのように漆黒の風が天井より舞い降りた。
その中心には、身体から離れたにも関わらず未だに鼓動を続けている生々しい心臓。
それにはかき集めた魔力とは比較にならないほどの魔力が見受けられた。
「人間崩し、ここに到る」
この場にいる全員が一斉に手を合掌するとともに、煙はさらに凝縮。心臓を取り込んでいる。
形成されていく骨、血、肉。粘土で作られているように脆く崩れることもあるが、着々と人間を造りつつあった。
祭壇を中心に周りに風が発された。
その風圧に倒れていくのは人間だけ。
「おぉ、やっと……やっとここまで…」
魔族が口々にそう言葉を発する。
心酔しているかのような目を煙の中の人物に向けていた。
魔族の王女は息も絶え絶えにそれを睨みつける。
(復活した……魔王アキトが………!)
その背中からはまだ魔力の粒子が放出され、復活した魔王の元へ向かっている。他の妖精族も同じように魔力の供給源とされていた。
このままでは死ぬまで魔力を搾り取られてしまう。
(助けて、誰か………お母様…!)
「あれはっ!」
「なんですか?」
アリサが声を上げたことにケイは反応した。
その目線の先にはバルケイトの城がある。
城には黒い霧が経ち籠っておりその姿をはっきりと捉えることはできないが、なにか異常事態が起こっているのは理解できた。
アリサが感じたのは魔族やエックスライを使える者だけが感じることができる変化。城の地下に巨大な魔力の塊が存在していることである。
「やっぱりあいつ等―――――ついにやられたわ」
「魔王が復活したのですか!?」
ケイの言葉に周りにいた冒険者たちは一斉に反応し首をケイの方へ向ける。その表情は狐につままれたような顔。
ケイたちはアリサに、なぜバルケイトまで来たのかを説明された。
それは、魔族の魔王狂信派の集団がバルケイトを乗っ取って、魔王復活を画策していることだった。
そのために使用されるのは人間族で禁忌の存在とされている魔法―――死者蘇生だった。
説明の途中、なぜ村などを滅ぼしたのだと聞かれた時にはアリサはあっさり答えた。
『確かに人間全員に魔力流してオーバーヒートで昏倒させたけど、村自体にはなにもしてないわよ。それも、急いでたから仕方なくであって…』
ケイは呆れた。
おそらく話を聴いた商人などが噂を肥大化させバルケイトまで伝わってきたのだろうが、それでも馬鹿馬鹿しすぎた。
そのせいでリョーカを遣わしたというのに。
「しかしあなた達は魔族でしょう。なぜ魔王復活に反対なのですか?」
「あいつ等のやり方が過激だからよ。言ったでしょう? 私たちの目的、正確に言えば王女様の奪還だって」
「ああなるほど。そういう奴らなのですね」
ケイは死者蘇生に対してある程度の知識は持っている。
その儀式には大量の人の言霊と、大量の魔力、そして召喚の対価である魂が必要である。その為に穏健派の魔族たちの王女が連れ去られたのだと、ケイは理解した。
淡々と話はしているが、それでもケイの心の中は魔族への嫌悪でいっぱいである。
「もし魔王が復活しているのなら、城に急ぎましょうか。丁度我らの準備も出来ました」
アリサが気づいた時には、大量の冒険者が門の前にあふれていた。
渋々だったが、自分の言うことだけは聞いてくれるネイラキッドを馬鹿なラングリーに付け、冒険者ギルドへ急がせた。
ラングリーのお蔭で普通の人が走るより数倍早くギルドに着いたネイラキッドが事情を説明してきたのだ。
その本人たちも現在はこの群衆の中に居る。
騎士団は王族の直属の組織であるから話は伝えていない。もし魔族の暴挙を知った上で傍観しているのだとしたら、今は人間族の敵であるから。
アイとマイは現在、冒険者側に付いてもらっている。勿論、ケイは双子に経済的被害を加えるつもりはない。この事は絶対に騎士団にばれないようにし、もし追い出されたらギルドで引き取ると言ってある。
「皆さん! 今まさに人間族の危機が訪れています! 召喚されたという魔王。その歩みを止めるのは他でもない、我々ギルドのするべきことです!」
ケイが高いところから叫ぶと、冒険者たちは男らしい声を上げた。
これだけでもケイがどれだけ慕われているかが分かる。アリサも驚いてしまった。
「さぁ、魔王の根城を化した瘴気の塊へ!」
ケイのゴーサインで冒険者たちは大通りを進み始めた。
それと同時に、城の方から全身が黒い異形の集団が溢れだしてきた。
「あれは魔王が創り出した疑似魔物よ!―――伝説の技《百鬼夜行》を見られるなんてね。全く嬉しくないわ。胸の位置に光る赤い結晶を壊せば消えるわ!」
「なら私が先行します」
ケイが強力な脚力で屋根の上に飛び乗り、冒険者たちを追い抜いて魔物たちに近づく。
「|第一門解除(Jaeliy Fankac Rin)」
短剣に赤いオーラを纏わせ、振るう。
それだけで胴が分断された魔物は軽く百を超える。
「すごっ………まともに戦わなくてよかった~」
アリサはその姿を見て、さきほど自分が最後まで戦っていたらどうなっていたか、容易に想像ができた。
「|降れ(Ranary)」
短剣を天に向けて掲げると、そこから赤いオーラは弾けて雨のように魔物に向かって降り注いだ。
「おらおらぁ! ケイさんに後れを取るなぁ!」
冒険者たちもその姿を見て気持ちが高揚してきたようで、それぞれ剣や槍、杖を持って魔物の軍団に向かっていく。
「ありゃりゃ、こりゃ私も負けてらんないなぁ」
アリサも急いで戦線に向かうのだった。
「お兄ちゃんっ! お兄ちゃんっ! うわああああああああああん!」
「だ、め……泣いちゃ。助けない、と」
大声を上げて泣き続けるリューシアをあやすミリーの眼にもすこしだけ涙が見られる。
耐えているのだ。この状況、しっかりしないといけないのは自分である、と。
これでも年齢は地球で言う中学生二年、14歳である。目の前で心臓がくりぬかれた人間が倒れていたら、地球の中学二年生はこんなにも冷静でいられないはずだ。
「まず、止血……? いや、こんな大きな傷……でも」
どんな対処をしていいのかも分からずに、取り敢えず止血のために自分が着ていた服を押し当てた。
しかし持っていかれた範囲が大きすぎて止め切れない。
(やっぱり無理―――――治癒魔法は、使えない。それに、今の状態だと、心臓がないまま、修復される)
頼みの綱である魔法も心臓がないのでは肉や皮膚を塞いでもすぐに死んでしまう。
「やだよぉお兄ちゃん! 死なないでっ!」
横で泣いているリューシアを一瞥した。
ミリーは思う。もうダメかもしれない。
治療も出来なければ、こんなところでは助けも呼べない。ならもう街に向かった方が良いのではないだろうか。その方がお父さんも喜ぶのでは?
徐々に負の感情が芽生え、眼を瞑って考える。
「……………街に行く」
「え……」
「早く、立って」
ミリーは無理矢理リューシアの手をとって立たせた。
「やだっ、お兄ちゃんから離れないっ! 絶対にお兄ちゃんは目を覚ますから、それまで私は、ミリーさんもここに………!―――――」
「もう無駄っ!」
リューシアはその声に圧倒された。
普段感情をあまり動かすことがないミリーの叫びは、それだけリューシアを驚かせた。
「アリシアが動いたってことは、街でもなにか起こってるはず。だから私たちは、行かないといけない………多分、お父さんもそうしてほしいと思ってる」
「うぅ……」
リューシアは静かに涙を流すようになり、ミリーにされるがままになった。
名残惜しそうにリョーカの方を見続けている。
「私だって、好きでお父さんを置いていく訳じゃない。分かって………」
「………うん」
「貴様ら、リョーカと言う奴を知らないか?」
不意に前から声が聴こえた。
咄嗟に顔を上げると、ミリーとリューシアの目の前に立っている男二人と女一人の姿を捉えた。
いつの間に近づかれたのか、ミリーにも分からなかった。
「え……え?」
「だめよぉ。女の子には優しい言葉遣いを~―――ぷにゃっ」
「お前はいつもしゃべるのが遅すぎるのだ。我が話すとしよう」
三人のうち、武士のような言葉を使っている人、いや魔族が近づいてきた。
流石のミリーも警戒し、剣の柄を握る。
「そう警戒するな。我らはリョーカという人間を探しに来ただけだ。お前らに興味はない」
「……あの人になんの用?」
「ほう、知っていたか。いきなり当たりだな」
魔族はミリーの言葉を聞いて満足そうな顔をした。
そして、ミリーのすぐ後ろに倒れているリョーカの存在に気付く。
「まさかアイツか?」
「お兄ちゃんに触らないでっ!」
リューシアが魔族とリョーカの直線状に、庇うように立ちはだかった。
それに魔族は目を細める。
「ほう、中々気の強い小娘だ。しかしなにか勘違いをしているようだな。我らはあの者に危害を加える気はさらさらない」
「じゃあ、なに?」
ミリーは未だに警戒心を解いていない。
「バルケイトに連れて帰るようにケイとやらに言われたのだ。そして我らのボスの命でここまで来た」
「ケイさんの?」
ミリーにも、驚きを隠せない。
あの最強の冒険者と魔族が知り合いなど、通常ならあり得ないことだ。だとしたら、そうする必要があったということであり―――――
「じゃあ、連れていく?」
心の中で、もう死んでるけど、と付け加える。
そう、リョーカは既に死んでいる。今更連れて行ってもなにも出来ない。
魔族はリョーカに近づいて行ってじっと見つめた。
「これは………しかしどういうことだ。魔力が吹きあがっているように感じるが………」
魔族の言葉にミリーは反応せざるを得なかった。
人間というものは死んだらなにも生み出すことはない。
そして意識が完全になくなった瞬間、魔力を自分に繋ぎとめる力もなくなり周囲に一気に放出される。
故に死体がまだ魔力を生み出していることはあり得ない。
だからこそ思った。願った。リョーカが生きていると。
「これで生きているとはな。どういう身体の構造をしているのだ」
「人間ってすごいのねぇ。また研究でもはじめましょうか~」
「実験のためとか言ってバラすなよ。人間と我らは協定を結んで魔王に対処しなければならないからな」
ひとりの魔族が興味本位でリョーカの身体に触れようとした瞬間、なぜだろう見えない壁に弾かれた。
その拒絶の光は、魔族の男の手にやけどのような痕を負わせた。
「なんだ……?」
「うわっ!」
その光が始まりだったかのようにリョーカの前身は光り出す。
その光を浴びている魔族たちは少し苦しそうである。胸を押さえ、女の魔族は膝をつく。
ミリーとリューシアはまったくなんともないのに。
『いやいやいやいや、そりゃ自殺行為っしょ魔族さんよぉ。気をつけないとぉ、腕どころか身体吹っ飛んじゃうよ?』
「「「「「へっ?」」」」」
その場に居た五人全員、その声に情けない声を上げた。
なんともふざけた言葉遣い。それがどこからともなく聴こえてきたのだ。当たり前である。
『よぉみんな。人間のふたりは、やっと顔合わせできたってわけだ』
光はリョーカの身体の上で収束し、形作っていく。
そしてリョーカの身体に腰かける形で人間のようになった。
「昔魔王を倒しちゃった元勇者、現在精霊やってます。桐嶋竜耶でーす。よろしくぅ!」
目の前に突如現れたなんとも情けない勇者に、全員沈黙するしかなかった。
思いっ切り現代っ子、勇者桐嶋竜耶の登場です。
その人が『異世界転生なう』の作者なんですよぉ。
そしてこれが改名した理由でした。




