二十六話 ふたつの勢力
お久!
学校も始まり、疲労も溜まり、やる気もなくなり………
じゃなくて、ある意味今年一発目の投稿。
よろです!
南門
南門。そこではふたりの男が暴れていた。
「ん~? なんだ貴様ら、いつの間にのびたんだ?」
ラングリーが気が付いた時には人間族の軍団はほとんどが倒れていた。
自分は出来る限り細心の注意を払っていたというのに。
いつものように仲間を倒してしまったというのか、と考える。
「おぉ、すまんなぁ貴様ら。俺が敵を討ってやるぞ!」
眼前に立ちはだかる魔族はおよそ数百。ラングリーならば簡単なことだ。
しかし計算に入り切れていない男、つまり密かに暴れていた男がいた。
「ぬぅっ!」
突然足のバランスが崩されて咄嗟に手をついてしまった。
そして次はその手が払われる。
そのせいで完全に地面に突っ伏す形になった。
(今の俺をここまで倒すとは……)
「おもしろいぞおおおぉ!」
ニヤッと笑い、巨大な足を振り回す。勿論倒れている人間族には気をつけて。
その最中、巧みに足を避けている黒い影を見つけた。
ラングリーは完全にその影にターゲットを定め、今度は影の背後から手を振り下ろした。
しかしそれさえも見事に避けられてしまった。
影はそのわずかな間を狙ってラングリーに近づき、と同時に腹部へ拳を打ち込んだ。
「闇属性の肉体強化かぁ? そんなもの俺の前では無意味だ!」
腹に拳を打ち込まれたまま楽しそうにしゃべる。
ダメージが通っていないのだ。
しかし影は全く同様の色を見せない。
それどころか反撃をしてきた。
「血殺無双術―――【螺旋弾】」
「なにぃ!?」
腹に構えた拳を一旦引き、再び打ち込む。しかし今度は回転を加えて。
油断していたラングリーはそれをまともに受けてしまった。それにより、ラングリーは壁まで吹き飛ばされる。
「くそぉ、何者だぁ!」
「フンっ、俺の本領は強健な肉体による武術にある……それを油断するとは、馬鹿か?」
「グハハハハハ! よく言われるわぁ!」
身体には相当な痛みがあるはずだがそれを見せないほどに楽しそうに話せているのは、強者を見つけたことによる高揚。そしてアドレナリンの効果。
「さぁ、始めようじゃないか!」
「もう始まっているさ」
ククッ、と魔族の男は含み笑いをする。ラングリーはそれを不審に思ったが、ひとまず突っ込むことにした。
「おらああああああ!」
「突進か……そんなもの魔族には通じない」
徐々に接近していくラングリー。その姿はまるで地球のブルドーザーのようで、普通なら止められるものではないはず。
しかし魔族の後ろに控える魔物たちにも、そして魔族自身にも動揺はない。
魔族の力を知っているからだ。
「【柳流し】」
魔族は無駄な力を使わずにラングリーを受け流した。
ただ後ろに引きつけただけで、まだ魔族の攻撃は続く。このままでは魔物たちはぺしゃんこになってしまうのだ。
「【激流】」
受け流したときに掴んでいた腕をそのまま持ち上げ、ラングリーの動きは止められた。
「はあぁ!」
魔族はラングリーを振り回して、そして外壁の上まで放り投げてしまった。
「お前たちは城に急げ! なんとしても魔王復活を止め、王女様を救い出すのだ!」
魔物たちは魔族の言葉に同調するように奇声をあげ、門をくぐり街に到達。
しかし街の人には目もくれず、一直線に大通りを走って行った。
魔族はというと、ラングリーが投げられた外壁の上に到達しており、すでにラングリーの横に座っている。
「貴様、中々強いなぁ。さっさと殺すんだな、俺を」
「バカ言うな。これから敗軍には働いてもらわないといけない。俺についてきてもらおう」
「ははっ、断る、といったら?」
「気絶させて、無理矢理連れていくだけだ」
ラングリーは大きなため息を吐き、身体を元の大きさに戻した。
ついていく、という意思を示したのだ。
「よし、我らのリーダーがいる北門に行くぞ」
「ふはははは! 分かった行くぞ!
おーいお前ら! 後は頼んだぞ!」
ラングリーは壁の下に寝ている人間族たちに大声で声をかけた。
その人間族たちは全員が、ラングリーの楽観主義を呪った。
西門
騎士団の双子姉妹は未だに暴れていた。
赤い炎と青い水。そのふたつが戦場をかき乱しているのは明白であるが、姉妹はそれを構っていない。
仲間に何度も注意をされているにも関わらず。
「キャハッ、面白いねぇ」
「ホント、ゴミクズみたいだねぇ」
アイは再び魔法陣を展開し、魔法を放つ。
マイもまた魔法陣でその後ろをカバーした。
魔道騎士隊の中でも実力者で自分勝手、という肩書で通っているふたりが戦場にいることによって、他の魔道騎士団の兵は後ろで尻込みしている。
「キャハッ、アンタも燃えちゃえー!」
アイが手を突き出した先には女の姿をした魔物、いや魔族が居た。
その魔族は魔法を放たれても悠然とそこに立ち続けている。もうそこに迫っているにも関わらず。
ニコニコと、良い笑顔で。
「女の子はぁ、おしとやかにしないとねぇ」
魔族も手を突き出し、大きな黒い魔法陣を展開した。それは闇属性にしては大きすぎるほどの魔法陣だった。
そこからは闇の激流が飛び出し、戦場を飲み込んでいく。
炎とぶつかり、押し合う。
両方霧散するかと思われた時、闇はさらに巨大になり炎さえも飲み込む。
「うわっ、そんなぁ!」
「ちょっとちょっと、早く逃げないと」
狼狽えているふたりを、まだニコニコと見ている魔族。
その手から恐ろしいほどの闇を打ち出しているというのに。それを感じさせない綺麗で黒い笑顔だった。
「なんちゃって」
「「《ひとつは霞 ひとつは崩壊 最後に消滅》―――ドライアタック!」」
ふたりは同時に魔法陣を展開し、二色の魔法陣は重なり、さらに複雑な魔法陣を展開していく。
樹形図のようにまだ広がっていく魔法陣。円からはさらに円が伸びていき、最終的には魔族が展開している魔法陣より一回り大きな紫色の魔法陣が出現した。
魔族はそれを見て、目が笑ったまま感嘆した。
「私たちの力はただの魔法でも、同族でもかるーく殺せる狂気でもないよ」
「一緒のお腹で育って一緒に生まれてきたことによる、ピッタリな息なんだよねぇ。つまり、」
「「発動率100%の合成魔法!」」
紫の魔法陣から火球と水球が飛び出す。
ふたつは魔族の手前で混ざり合い霧散して濃い水蒸気を発生。
次はさっきより圧倒的に巨大な水球が飛び出し、魔族に命中。そしてそれと同時に巨大な火球が接近し、水を一瞬で水蒸気にする。
その爆発で地面が大きく削られ、魔族は落下。
そして最後に、落下の途中で左右から接近してきた火炎放射と水の波動に押しつぶされる形になり、魔族は地面に叩き付けられた。
「あららぁ、ちょっとこれは凄いわねぇ」
だがそれでも楽に立ち上がる。
今度は姉妹が驚いた。
自分たちが使える上級合成魔法をぶつけたのに全く効いていない。
いや、少しは効いているんだろうが………
「やっぱり魔族って面白い身体してるねー!」
「ホントー、解剖したいなぁ!」
「「捕まえちゃおー!」」
「あらあら危険ねぇ。私は捕まえないといけない立場なのに」
それからは三人の魔導士が魔法の威力で争う戦争だった。魔物も、後ろに控えていた人間族にも被害が及び、少なくないけが人が出た。
それでもさんにんは構わずに魔法を発動し続ける。
「「バーストボム!!」」
「うふふ~、それぇ」
巨大な魔力の塊がぶつかっては霧散していく。それによってこの場所の魔素濃度は人間の限界に達していた。
もう他の人間族は限界といった感じで顔を青ざめているにも関わらず、姉妹は楽しそうに魔法を使っている。
楽しそうにしているのだが、その顔には隠れた疲労が確かにあった。
それを魔族は見逃さない。
「魔力結界~」
魔族の腕が黒く光ったと同時に、姉妹を数多くの魔法陣が取り囲んだ。
そのひとつひとつは小さくとも、多くの魔力を含んでいることが分かる。
「やばいよやばいよ~!」
「逃げられないよ~!」
姉妹の声は魔法発動と共に消えることになった。
魔法陣からは細く黒い棒状の魔力が飛び出し、姉妹に向かって来る。
間一髪で避けても地面に刺さるそれで行動範囲は制限され、新たに飛び出した魔力の棒を避けることは難しくなる。
それが繰り返され、最後には全く動けなくなったふたりの姿があった。
「へぇ~、避けるだろうとは思ってたけど、まさか一本も当たらないなんてねぇ。人間も捨てたもんじゃないわ~」
ふたりは恐怖で気絶し、目を回していた。
「さて、北門に行きましょう」
魔族はふたりを両手に抱えて走り出した。
東門
「さぁさぁさぁ! 反撃してみなよ! 出来ないんだろ無能生物が!」
未だに魔物たちを煽り続けている少年、ネイラキッドは魔物の蹂躙を楽しんでいた。
飛行能力がある魔物は怒りに任せて全滅。地上に居る魔物はネイラキッドの土魔法を受けるだけになっていた。
「もう終わらせちゃうよー! ほら十秒だけ待っててあげるからさぁ! 十秒あれば無能でも逃げるくらいは出来るでしょ?」
カウントを始めた。
しかし魔物たちは怒りで我を失っており、壁を叩くだけだ。
門の前には大穴が空いていて近づけない。なら横の壁を破壊しようとしている魔物もいるにはいるのだが、それでも壁は崩れない。
この壁は、魔力供給なしのリョーカの魔法の壁よりもはるかに頑丈に作られているから当然だ。
「ごーよーんさーん」
「本当に十秒待つのだな?」
その声はネイラキッドの後ろで聞こえた。
ネイラキッドは咄嗟に後ろに土の壁を出現させ、攻撃であろう行動を防御した。
土壁を叩いた音が街にも響く。
「頑丈な壁だな……―――――どうした? 十秒待つのではないのか? 結局怖がりか」
「う、うっさいなぁ! 誰だよ!」
ネイラキッドは壁の向こうにいるであろう見えない敵を怒鳴りつけた。
顔を真っ赤にし、羞恥と怒りが混じった表情を浮かべる。
「もう、僕の邪魔する奴は潰れちゃえよ!」
ネイラキッドが手を合掌のように合わせると、敵の足元に二枚の土の板が出てきてはさむように閉じてしまった。
「ハハ、魔物のサンドイッチの完成だバーカ! 僕を馬鹿にするなよ無能生命体がよぉ!」
防御の壁を崩し、その姿を確認しようとするのだが、ネイラキッドは怪訝な顔をした。
「あぁ? なんで血が付いてねぇんだよ!」
その叫びと共にネイラキッドの身体は宙に浮いた。
横から蹴りが入ったのだ。
流石に壁からは落ちなかったが、長い距離転がって地面に倒れた。
「誰だごらぁ、僕を蹴り飛ばしたのはぁ! ふざけんなよ、まじぶっ殺してやるよぉ!」
霞んで見える影に向かってネイラキッドは土魔法を使うのだが、それは当たらない。
雨のように降ってくる土の塊は衝撃音を響かせるだけで無駄に終わっている。がしかし、ムキになるネイラキッド。
「冷静さを失っては勝負には勝てん。それが分からん奴が馬鹿であろう?」
「うるさいクソがぁ! 基本無能のくせにぃぃぃ! ちょっと知的だからって人間様に意見してんじゃねぇよ! 魔族ぐらいすぐにぶっ殺してやる!」
魔族の下の地面が突起し、針が何本も出来あがる。
しかしそれでも傷をつけるのは叶わず、魔族はその針の上に悠々と立っている。
「甘いな。激情に任せれば、魔法のキレもなくなる」
「ちょっとだま―――――」
ネイラキッドの言葉はそこで止められた。
魔族が後ろに立っていた。
魔族によって気絶させられてしまったのだ。
流石に人間族の軍にも動揺が走り一気に戦闘態勢になった。
が、魔族はそのまま壁伝いに走って行った。
北門
北門では実力者がふたり、見つめ合っていた。
「あのね、もうちょっと待ってなさいよ。もう少しで到着するはずだからさ」
「そんなことしますか。
第二門解除(Jaeliy Fankac Driy)」
ケイの奇妙なささやきと共に赤い筋が魔族の元へ延びる。
合計十本のそれは魔族の四方から迫ったが、楽に避けられてしまった。
「ちょっと危ないじゃない!―――――聞いてよ話を。冷静になって。揃ったら全部話すからさぁ」
「話すとは? なんですか」
「良いじゃない今は。何回も話したくないの!」
叫びながら襲って来る筋を避け続ける。
それをケイは観察する様な眼つきで見続ける。
「貴方、転移魔法を使えるのですか? 私の術を避けるなど、生物ならば不可能なはず」
「あら、分かっちゃった?」
「なるほど。リョーカが魔物たちを逃したのは突破されたのではなく、あなたが転移したからですね?」
「いや~、そのリョーカってのは分からないけど、当たり。よく分かったね。できるだけ目につかないようにほんの一瞬だけにしてたのに」
再び睨み合いが始まる。
魔族は手を出すつもりがない、ケイは攻撃が当たらない。それどころかこれ以上続ければ命に関わる。
嘘方便で力が切れるのを待っている可能性もケイは考えた。しかしケイは一旦引くことにした。
「どうせ、他の魔族の到着を待っているのでしょうが、いくら魔族を集めても私はここを通しません」
「いやまぁそうなんだけど、だから戦うつもりも街を壊すつもりもないんだって!―――――あっ、やっと来た」
魔族は安心したような顔になり、壁の上を見上げた。
「遅いよ、ガンダック」
「いやスマンな。馬鹿の戯言に付き合っていたらこうなったのだ」
「ネイラキッドっ!? 貴方には東門を任せていたはず」
(死んではいないようですが……気絶させられている?)
魔族は、次に壁の西側を見た。
全員それに釣られて同じ方向を見たら、そこにはふたりの子どもを抱えた美しい女性が歩いてきていた。
「レイシー、アンタ達が遅いから危うく殺されかけたんだからね!」
「ごめんなさいねぇ。でも楽しかったから」
「貴方たちは確か魔道騎士団の………」
噂に聞いた問題児二人を抱えた魔族の女性を見て驚く。
双子の姉妹であるアイとマイは戦闘狂で強力な合成魔法を使うことで、この街で有名だった。
しかしそれによって騎士団では迷惑を被っていると聞いていたので近々ギルドの勧誘に行こうとしていたのだ。
そのふたりも負けてしまった。
「ってヒラリス! アンタいつの間にっ」
「いやスマンスマン。ちょっとこのデカいのが方向音痴で遅くなった」
「……ラングリー、あなたまで」
「いやーケイ殿すまん。負けてしまってな。大人しくついてきたのだが………これはどういう状況なのだ?」
ラングリーは周りを見回した。
そこには魔族四人と有名な人間族四人+自分が居たのだ。
普通ならすぐにでも殺し合いを始めそうなメンツなのだが、どうもそういう雰囲気ではない。
「うにゅ~………」
「ふにゃ~………」
「「あれ、ここどこ?」」
「………はっ! くそ魔族が、ぶっ殺してやる!」
「第一声がそれですかネイラキッド……」
「誰だよ―――――ってケイさん! なんでここに、っていうかなんで僕北門に?」
続々と目を覚ましていく気絶組。
騎士団のふたりはどうも状況を飲み込めていないらしいのだが………
「どうも私も状況が読めません。一旦彼女の話を聴こうではありませんか」
「彼女って……魔族じゃないですか! ぶっ殺しましょうよ!」
「冷静になりなさい。どうも話がおかしいのです」
ネイラキッドはケイにも睨みを利かせ、しかしすぐに落ち着いていった。
己の敬愛するギルドの大先輩ケイにそう言われては静まるしかない。
「全員目が覚めたようね。じゃあ話を進めましょう」
ケイと対峙していた魔族が代表するように前に出てこの場を仕切り出した。
人間族の五人はそれを疑わしい眼で見つめている。
おかしな行動をすればすぐにでも反撃が来る状況なのだが、魔族に動揺はない。
「まず自己紹介から。私はアリサ。まぁこの三人とパーティを組んでるんだけど、そのリーダーよ」
「俺がヒラリスだ。よろしくな」
「私はレイシーよ。ふたりとも、さっきはごめんねぇ」
「ガンダックだ」
魔族側の自己紹介が終わって今度は人間族の方かと思われたのだが、アリサによって止められた。
「急いでるから――――――じゃあ早速、私たちがここに来た目的を話すわ」
誰もがアリサの声に耳を傾ける。
その次に聴こえてきた声に、人間族の五人は無言になるしかなかった。
「私たちの目的は、魔王復活の阻止。正確には、王女様の奪還」
「「「「「……………!!」」」」」
「さぁ時は来た。皆の衆、魔王さま復活の儀式を始めようじゃないか!」
祭壇に多数の声が響き渡る。部屋が声で揺れ、熱気が伝わってくるかのようだ。
ここはバルケイトの城の地下。幾ら騒いでも街の人には聴こえるわけがない。
「我らは五百年の間、主を失いこの世界を彷徨ってきた。しかし、今我らの主をここに呼び戻すことで真の改革は始まる! 世界は我らのものとなる!」
ウオオオオオオと魔族と少数の人間が声を上げる。
ここにいる人間の全ては平民とは思えない豪華な服を着た、貴族である。
「さぁ降りてこい、反逆者よ!」
リーダーらしき男が叫んだと同時に機械音が聴こえてきて、中央部の天井の穴から十字に縛られた女性が降りてきた。やせ細り、気絶している。
「さぁ、次はこいつらだ!」
次は背中に透明な羽を生やした、妖精族が群衆の中から縛られた状態で姿を現した。
その中で一番年を取っている老人が憎々しげにリーダーらしき男をみるが易々と無視されてしまう。
「この悪魔があああああ!」
「――――――――――この生命を持って、魔王さま復活と成す!」
「「「《シュビバカ バルフォイク ゲンサリ ソクワン リイイリ マクワク シマリソカ クルベナミレス レビナ》禁忌魔法―――――死者蘇生!」」」
一斉に詠唱がスタートし、黒い風が中央の祭壇に集まっていく。
それはさらに上に登り、どこかへ行ってしまった。
「さぁ、魔王さまの心臓をっ!」
リョーカ一行は未だに走っていた。
ミリーに道の指示を任せてノンストップでバルケイトに向かっている。
それはもう連続三時間以上になるのだが、それでもリョーカに疲労の色は無い。
「お父さん、そこ左―――――あ、そこは真っ直ぐ―――――そっちの道のほう、が速いよ」
冒険者としてバルケイト周辺の地形などは完全に覚えているミリーは的確かつ迅速な道案内人となる。
「ちょっとお兄ちゃん速いよっ!」
「街にはもう魔物が到達してんだ。急がないと街が潰されかねんぞ」
「「!!!」」
今言われて初めて知ったふたりは激しく戸惑った。
特にミリーはギルドがあるところなので、仲間の安否が気になるはずだ。
「だから、急いでたんだ」
「許してくれよ。お前たちが動揺しないとも限らなかったーーーーーというより動揺してるから正解だったともいえるな」
「言ってくれれば良かったのに!」
「言ってもどうしようもないだろ? 俺が急がない限りは。それにもう少しで到着のはずだ。そうだろ?」
「うん、お父さんならあと七分くらいで、着く」
まだ森の中なのだが、平野に出れば一直線に街を目指すことが出来る。
そうでなくてもリョーカの身体能力なら楽勝であるのだが………
「それでも、急いだ方が良い」
「分かって―――――!」
「えっ………」
リョーカとリューシアが同時に顔を歪めた。
思わず足を止め、ふたりは上空を見上げる。
「どうしたの?」
「いや、なんか」
「気持ち悪いのが、近づいてきてる……」
どうしたというのか、ミリーも上を見上げるのだがなにも見つけることは出来ない。
しかしリョーカとリューシアには分かっているのだ。
闇の魔法が近づいてくるのが。
リューシアは自分の魔力と同調して感覚的に分かるのだが、リョーカははっきりと分かっていた。
(通りすぎるか?)
闇は三人の二百メートル先を飛んでいる。
速度も中々だが、このまま通りすぎれば良い。しかし、
(高度を下げ始めたか! くそっ)
水平飛行していた闇は急に角度を変え、一直線に三人の元へ接近してくる。
「逃げるぞ!」
リョーカはふたりを抱え直して走り出した。
街の方から飛んできているので反対に逃げることになるのだが仕方ない。そう妥協したのだが、闇の速度はそこでさらに上がった。
(まさか、俺が標的か?)
自分の魔力がそれに引き寄せられるのを感じて、そう予想を付けた。
そうでなくても、このふたりは護らなければならない。
「えっ!」
「ちょっと」
リョーカはふたりを放り投げ出来るだけ自分から遠ざける。
飛来物から一直線にリョーカは構え、魔法の詠唱を始めた。
「《………》―――――アルテミス!」
大きな弓を構えて、標準を調整。威力を最大まで上げて、それはすべてを貫く破壊の矢となった。
「おらあ!」
矢を放ったと同時に飛来物の姿を確認することが出来た。
それはぶっとい黒色の触手のような形をしていた。
「取ったー!」
しかし、アルテミスの矢がそれに届こうとしたその時触手は分裂し、多くの細い触手となって避けられた。
「なっ」
その触手に取り囲まれ、身動きが取れなくなる。
「お父さんっ!」
「お兄ちゃん!」
「ふたりとも、来るな!」
触手は次第に球の形になりリョーカは完全に逃げられなくなった。
「くそ………おらっ!」
殴ってみてもびくともしない。
衝撃音が反響し、虚しく聴こえるだけだ。
「ダメ、か」
脱出は無理。これは自分の動きを封じるための魔法なのか。そうであればこれは今バルケイトを襲っている魔物たちが放ったものなのか。
様々な可能性が頭をよぎるが、はっきりとした答えが見つからない。
そうしている内に、魔法は準備を終えていた。
「っ! なに」
リョーカは闇に絡めとられ自由すら利かなくなった。
抵抗しようとするのだがいかんせん縛る力が強すぎる。
そうして、闇の攻撃が開始した。
「グアッ、がはあああああ!」
「お兄ちゃん!?」
球体の中から聴こえてくる兄の絶叫に心配するリューシア。
ミリーも球体を攻撃し、壊そうとするが傷すらつかない。
「これじゃ、お父さんが……!」
「なんとかしないと!」
「分かってるけど、これじゃ」
刻々と時間だけが過ぎていく。
ほんの一分くらいだっただろうがふたりにはそれが長く思えた。
そうして球体が弾けて空に消えて行った時、そこに残ったのは、
「っっっ!!」
「お、兄ちゃん………」
ぽっかりと心臓部分が無くなり、大量の出血をしているリョーカだった。
「うわああああああああああああ!!――――――――――」
リューシアの声が、森に響く。




