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旋律の闇色勇者(トラペゾへドロン)  作者: 傘ㇻ戯 エンリ
ヴェイング大陸バルケイト篇
24/28

二十四話 決戦前の恋心

この話からサブタイにちゃんと名前を付けていきます。

自分で確認するときに不便なので。

一~二十三話も時間がある時に付けていきます。

俺はひたすら走っている。

背中には美少女をふたり背負っていて、全力よりもだいぶ遅いスピードだ。

それでも車よりは速いんだけどな。


「つまりアリシアは私たちを裏切っちゃったっていうこと?」


「簡単に要約するならそうだ」


「それに、私たちを、殺すつもりだった」


なにも理解していないリューシアのために説明中である。


元々いた位置からバルケイトまで、約三分の一ほどを走った。

が、俺はなにか違和感を感じる。それがなにかは今は分からなかった。


「そんなっ! アリシアが私たちを殺すだなんて!」


(やっぱり、想像してたとおりの反応か………)


旅の途中、俺とミリーはこれからのこと相談したり、問題に対処したりと色々なことをやってきた。

しかしリューシアはその中でなにもすることがなかった。だから多分、負い目を感じていたのだろう。

しかしそこに入ってきたアリシア。

年齢も近いような見た目。精神年齢も限りなく近い、というより下手したらリューシアの方が上になるかもしれない。

結果的にそれは全て演技だったわけだが、それでも俺たちの中では友達のように思っていたのだろう。

そんな子が裏切り、そして自分を殺そうとしたなんか信じたくないはずだ。


「お兄ちゃん、アリシアにはなにか事情があるはずだよ! 許してあげて!」


「……………。どうだろうな」






バルケイト

バルケイトのギルドは非常に混乱していた。

その原因は、先ほどある冒険者がある報告をしてきたときから始まる。


「急に大型の魔物が大量に森に出現したんだ!」


ギルドに駆け込みながらもそれを伝えた冒険者は、長い距離を走ってきたのだろう。息も絶え絶えでその後すぐに倒れてしまった。


その連絡を受け、ギルドマスターであるレイド・シクランはすぐにその真偽を確かめさせ、今は必死に対処を考えている。


(どういう事だ。まだ魔物の集団がバルケイトに辿り着くと言われていた日にちには遠いはずだが………それにリョーカたちはどうなった? まさか殺されたわけではないだろうが………)


レイドは首を振る。

今居ない者を頼ろうとするとは、過去最強のSSSランク冒険者と言われていた自分にあるまじき行為だ、と。


「ケイ」


レイドは暗闇に向かって呼びかける。

そして現れたのは、普段ギルドのカウンターにいる女性だった。


服装は変わらずにロングスカートのメイド服だ。しかし雰囲気はまったく違う。

地球で言うなら忍者が持っていそうな殺し屋の空気。

腰に差しているナイフがそれに確信(・・)を持たせる。


「どうしました、マスター」


「お前も今の状況は聞き及んでいるだろう? どうするべきだと思う?」


「私は、別になにもしなくても良いと思います」


「なに? どういう事だ」


「すぐに分かりますよ」


その言葉にひとつの心当たりが思いつく。しかしレイドはその考えを信じられない。

さっき頼らないと決めた相手なのだ。それにリョーカは順調に旅をしていれば、森を抜け一日以上は経っているはずなのだ。


しかしそれでもその名前を出さずにはおけない。


「リョーカのことか?」


「その通りでございますよ。信じているのではありません。確信しているんです。その存在はかつて存在したかのような勇者のように思います」


「勇者、か………皮肉だな」


「皮肉ですか?」


「そうか、キミはエックスライどころか魔力を全く持っていないから分からないのか」


「どういうことか非常に気になりますが………」


ケイは不服だと主張するように口をとがらせる。

マスターはそれを不思議な事のように見る。


「君がそんな顔をするとはな」


「はい、私はあの方のファンになってしまいましたから。一目惚れ、というやつでしょうか。恥ずかしいです」


「いやいや、恥じることはない。キミにそんな感情が生まれることは喜ばしいことだよ」


顔を染めるケイに向かってレイドは真面目な顔で言う。

それは本当に嬉しそうに口を曲げていて、親子のようだ。


「じゃあ、キミは初恋の相手を迎えに行ってもらえるかな?」


レイドのこの頼みにケイは優しく笑って言う。


「お断りします。お姫様のピンチに駆けつけてこそ、勇者でしょう?」


この発言は本心から意外だったのか、マスターは高笑いをした。

普段あまり笑わないケイが、顔を赤く染めて恥じらうようなしぐさをしているのだ。


「じゃあ、ギルド最強の冒険者ケイに、マスターとして依頼しようか。

 リョーカが来るまで君に任せる。冒険者をどれだけ使っても、どんな手段を使ってもいいから足止めをしておくんだ」


「容易いことです、マスター」






クラーク

船に乗っているのはクラークだ。

冒険者の中では有名人であるクラークは自分の正体を隠して乗船していた。

それでもフードの大きいローブを着て顔を隠している人間は周りの人間からしたら怪しい事この上ない。


常に剣を握っているクラークは風になにかを感じ取る。


(なんだ、悪意? いや寂しさ? なにかが風に乗っている………)


なんとなくそれを感じたクラークは剣ではっきりと【摂理詠み】を発動してそれを感知した。


(これはっ!

 大量の魔物、その中に魔族も多く混じっている。それにバルケイト? 最近騒がれていた魔物の襲撃か!)


そのことは噂に聞き及んでいた。

街を襲撃する魔物の集団がいると、その影響で壊滅している街や村があると。


(急いだ方が良いか?)


そう思って周りを見た。しかし海しかない。

泳げないクラークにとって絶望的に状況だ。


(父さん、母さん………)






マスターに足止めをしろと言われても、ケイはなにをする気は無かった。

あのリョーカのことだ。保険をかけていない訳がない。


(会ったばかりの人なのに、なんでここまで信じられるのでしょうか………)


これも始めて味わった恋の味というやつだろうか、と状況とはあまりそぐわないことを考えている。


(それにあの雰囲気………

 なにがあっても関係ないと不敵に笑い、そよ風にも思わない堂々とした姿。今までこんなことなかった)


ケイはリョーカのことを思って心臓がある位置を抑えた。

手を当てるとそこは激しく鼓動しており、それがさらに顔を赤くさせる。


「私が一目惚れなんか………」


かつて、マスターに拾われた孤児。それがケイの過去だ。

名も存在意義も居場所もくれたレイドには少なからず好意を抱いていた。


今回の気持ちはそれとは大きく異なる。

ケイは思い人のことを頭に浮かべ、それに向かって言った。


「………絶対に逃がしませんよ。リョーカ」


今までギルドの汚れ仕事ばかりを任されてきた自分を恥じたりはしない。

それは自分の恋の妨げにはなり得ない。

リョーカと一緒に行動していたミリーと女の子は怒るだろうが、それでも自分のものにしたい。


気持ちが溢れてくる思考回路を一瞬にして切り替え、街の巨大な門の向こうを見据える。


「掛かってきなさい。街には入らせません」


ケイは自分のナイフを構えながら、街に接近する魔物たちに向かって歩き出した。






(やっぱりリョーカを信じてよかったです)


今は夜である。

街の東西南北にある門の内、三つを他の冒険者たちに任せてケイは北の門に居る。


そして今はケイの視界に魔物は無い。

その代わりに大きな黒い壁が存在していた。


その向こうからは魔物の奇声が昼間から絶え間なく続いていて、恐らく街の住民は安心して寝れていないだろう。


壁が360度街を取り囲んでいるために、今は魔物に攻め込まれずにすんでいる。

のだが、魔術師の見解では、壁がもつのは日の出までだという。


(十分ですね。それだけもてば、リョーカが来るまで時間を稼ぐに丁度良いです)


今夜中にバルケイトに辿り着くには難しいだろう。でも明日は必ず来てくれるはず、とケイは思っていた。


「ケイさん」


後ろから呼ばれた。それは現在Cランクの冒険者だった。


「どうしたのですか? 貴方には東の門死守を任せたはずですが」


「はい、すみません。でも、どうしてもあなたに伝えたいことがあるんです」


冒険者の顔を見て、よほどのことだろうと当たりを付けたケイは、壁の方を一度見て返事をする。


「はい、なんでしょうか」


「あ、はい、お恥ずかしいことなんですが、僕は貴方のことが好きです」


ケイはドキッとする。

一瞬思い人の顔が思い浮かんだが、今から目の前の冒険者が言わんとすることの予想がついたためにすぐに意識を戻す。


「いつも僕たちのためにギルドの裏で働いてくれて、僕たちの失敗も笑って許してフォローしてくれる。そんなケイさんが好きです」


その顔はまるで今から戦争で死にに行くような決意を持った顔だった。


「気持ちだけを伝えたかったんです。聴いてくれてありがとうございます」


そうして冒険者は早鐘のように去って行った。

東の門、朝戦場となる場所に向かって。


ケイはその冒険者の気持ちを今なら理解できるような気がした。


「死ぬ前に、思い人に気持ちを………

 私は貴方たちを誰も死なせるつもりはありませんから」


闇に向かってケイは自分の決意を語った。











遂に決戦の夜明け。

長かった夜も太陽が頭を出し、白んでいる。

ケイは鎧を着こみ、崩れ去っていく壁を見据えている。


太陽が出ると同時に崩れていった壁は、もうあと20メートルの高さも無い。

魔物の声もだんだん活発化していく。


大型の魔物は既に顔を出しているが、壁が完全に崩れるのを待っているかのようだった。

その姿を見ても、ケイに恐怖は無い。


そして、向こう側の魔物が壁に突撃し、轟音を上げて壁が消滅した。

その消滅は他方で同時に起こり、もう街を囲む物はない。


「掛かってきなさい。私はここを通す気も、倒れる気もありません」


朝日に輝いたナイフは、ケイの絶対的な自信を主張しているかのようだった。

さぁ、ここで新ヒロイン?メイドのケイさんが加わります。

リョーカに一目惚れしちゃったケイさん。


え? なんで一目惚れしたのかって?

恋は理屈じゃないんじゃー!


さぁ、次はケイさんの恐ろ………強さを見ていただきましょう!

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