二十二話 人型魔族は強かった キメラなんて目じゃねぇ!
リューシアの絵を張っときます。
不器用ながらも描いた絵、やっぱりダメダメだった。
顔を描いていないのは絵師としてのスキルが皆無だから。
次はお兄ちゃんに思いっ切り甘えている幸せそうなリューシアを描きたいですね!
二枚目! 主人公リョーカ!
リョーカが肉体強化の魔法を使ったと同時にカーマルもなにかの魔法を唱えた。
「ヨルド………なんつった?」
「ほぉ、なるほど。あなたは知らない。
知らないのなら教えません」
「ちょ、ふざけんな」
カーマルはニィッと口を歪めてリョーカに言う。
「私に勝ったら、教えて差し上げます」
「上等。その時しゃべれる状態だったらな」
同時に動き出すふたりは音よりも速い速度で移動する。一瞬で空間を移動し、あちこちで衝撃波が起こった。
遠くからその勝負を観戦している三人は、この世のものとは思えない、と目をひん剥いて凝視していた。
リョーカはさっきカーマルが使った魔法は自分と同じ肉体強化魔法だと当たりを付ける。
魔族という種族の力をそれほど詳しく知っているわけじゃないが、魔王の身体能力をそのまま受け継いでいる自分に匹敵する力を出しているのだ。
しかし、それでも不思議なのは強化したリョーカに追いついているということ。
どうやってそれほどの魔法を自分に付加しているのか。
「ぜってーしゃべらせる。
『具現されし武者の怨念 墓場より来たれ流麗なる刀 ブレイド』!」
リョーカが唱えた魔法は、日本男児が一度は憧れる日本刀を創り出す魔法。
これにはカーマルも感心していた。
「ほう、魔力を魔力で圧縮し物質化………貴方もとんでもないことをしていますね」
「ごちゃごちゃ言ってんな!」
日本刀を振り下ろすと、地面はスイカを叩いたかのようにぱっくりと割れ、カーマルは驚きで脂汗をかく。
しかしすぐに行動を起こし、リョーカに拳が降ってくる。
それを腕をクロスしてガードし蹴り飛ばす。しかしカーマルもしっかりとガードし受け身も取っていた様で思っていた様に飛ばなかった。
リョーカは舌打ちをする。
魔族との勝負がここまで苦戦するものだとは思っていた無かったからだ。
今更ながら前に戦った魔王は身体能力を差し引いたらただの雑魚だと言わざるを得ないと納得する。
魔法と身体能力、どちらもそろって最強だ。
(仕方ねぇ。試してみるか)
「『一閃の闇 我に歯向かう者にせめてもの慈悲を アルテミス』!」
リョーカの手には巨大な弓矢が出現する。
過去大量の魔物を一度に殺したアルテミス。しかしその性能と反してデメリットがある。
リョーカが弓に慣れていないことだ。
ただでさえ難しい「矢を当てる」こと。それを入り乱れた乱戦で使用することは不可能だ。
そもそも弓は遠距離攻撃専用に作られた武器で接近戦で使う代物じゃない。
前に放った時に当てられたのは敵の数が多かったり、身体が大きかったりしたからだ。
カーマルに当てられない可能性はほぼ百パーセント。
「いっちまえっ!」
「なんて高密度の魔力……! させません!」
「うっせぇ、吹っ飛べ!」
弓を引きながらも蹴りを繰り出す。一瞬魔法が揺らいだが、持ち前の大量の魔力で形を保つ。
そして蹴りによって飛ばされ木にぶつかったカーマルに向かってアルテミスの矢を向ける。
「消し飛べっ!」
手を離した瞬間、矢は衝撃を周囲に放ちながらカーマルへと向かう。
黒い一閃。その超的な速度に最早逃げられないかと思われたカーマル。
リョーカ、そして遠くで見つめる三人もコンマ一秒の中で勝ったと思った。
アルテミスが木にぶつかり破壊した後も直進し地面に突き刺さってクレーターをつくる。
リューシア、ミリー、アリシアも同時に笑みをこぼすのだが、エックスライを使えるリョーカには魔力が捕捉で来た。
「後ろかっ!」
声と同時に回し蹴りを放つのだが、それは虚空を撫でただけだった。
リョーカは周囲を警戒する。魔力は捕捉できる。しかし移動速度がさっきの比ではなく、姿さえ捉えることは出来ない。
「下でした」
声は本当に下から聴こえてきた。
そこには屈んだカーマルが居て拳を構えている。
そして勢いよくアッパー。
「ガハァっ……………」
腹部を殴られて声を漏らし今度はリョーカが飛ばされた。
「フフフ、貴方の身体はまだ強化の重複に耐えられるようにはできていないようですね。しかし私は三回までなら同じ強化魔法をかけられます。それにそれぞれの能力を特化させる魔法も使えます。今は脚に割増で強化している分、他の部位は一回分の強化しか出来ていませんが」
「はっ………おいおい、シャレになってねぇぞ」
「ご安心を。シャレは苦手です」
またカーマルの姿が掻き消えた。
それも空気に溶けるかのように見えなくなる。
しかしリョーカは自分の周りを回っているカーマルの魔力の残滓だけを捉えることが出来ている。
居場所もそれでだいたい分かるのだが、やっぱり長年日本で暮らしてきたリョーカにとって魔力の残滓だけで相手を捉えるのは、目を瞑って振ってくるナイフをつかめを言われているようなものだ。
要は第六感の問題である。
「まだです!」
カーマルはさらに加速し、リョーカの身体を手刀で切り裂いていく。
リョーカがそれを認識できているかは、言うまでもない。出来ていない。
加速した世界では、カーマルの一秒はリョーカの0,0000001秒よりもずっと早い。
認識するのに通常の世界では認識するのに何秒かかるのか。
「身体の重要部位はいつも魔力で覆っているようですね。しかし他の場所は切れます。どんどん力が入ってこなくなりますよ? 筋肉を切り、神経を切り、最後はなにも感じません。
今から魔力で覆い始めても私は何回切れるのでしょうか」
神速ともとれる速度で移動するカーマルの攻撃を避ける手段はない。
リョーカの手がだらんと落ちる。
「ほら、どんどん削られていますよ。どうするんですか? それともここでゲームオーバーですか?」
リョーカを挑発するように言葉をぶつける。
しかし、その余裕故にカーマルは気づかなかったのだ。
リョーカが用意周到に用意していたことに。
ニヤッとリョーカが笑う。
それが不愉快だったようにカーマルは静かに語り掛ける。
「なにを笑っているのですか?」
「………」
「答えてください」
「分からないなら教えない」
さっきのカーマルの返答にわざと似せてリョーカは答えた。
「くっ、良いでしょう。もう決めさせてもらいます」
「寝言は寝ていえや」
リョーカは足に魔力を流し込む。
そのあしから更に地面に魔力が流れだし、地面に浸透する。
と同時に地面が光り出した。
闇色に、美しく。
「なにが―――――魔法陣っ!?」
「そう、お前がここに来る前に仕掛けておいた。エックスライで感知してな」
「馬鹿な。そうだとしても私が気づかないはずがない!」
「ふっ、自分の力を過信しすぎだ。そして俺の力をほめたたえ、崇めろ」
リョーカは平然と立っている様に演技しているが、実はその足には相当な負荷がかかっている。
そのことに気付いたカーマルは、背中に大量の汗を感じた。
「なにをしているのですか………?」
「あ? 地中深く、お前が感知できないほどのところに展開してた超巨大魔法陣を魔力で引き揚げているだけだ。それがどうした?」
「馬鹿な………」
カーマルはただ腰を抜かして地面に崩れ落ちた。
目の前に迫る死。それにただ恐怖するしかない。
これだけリョーカが自信を持っているのだ。逃げられるほどの超巨大じゃないだろう。
だがまだ命は諦められない。
「『アブロ キンダリア ショルダンゲ アリリン ヴェスベルート アング
全てを退ける 全てを拒絶する 全てを消滅させる ワールドプリズン』!」
魔法陣から闇の波動が流れ出てくる一瞬前、カーマルの魔法は完成した。本当にギリギリ、コンマゼロゼロ秒でも遅れていたら死んでいた。
そんなタイミングで発動された巨大殺戮魔法は、カーマルとともに辺りを全て巻き込んで消滅させていく。
「わーなんだろうこれ」
リューシアが地面から勢いよく噴き出している黒い波動に興味本位で触ろうとした。
ミリーはそれが直感的に危険な行為だと判断し、慌てて止める。
「ダメ」
「なんで?」
「んっ」
地面に落ちている枯れ木の枝を拾い上げ、それを波動の中に押し込んでみると、波動に触れた部分だけ綺麗に消滅していたのだ。
「ほら」
ミリーがリューシアの方を見ると既にガタガタと震えていた。
「あわわわわ」
「落ち着いて。多分これはお父さんの魔法」
「あ、だから私たちのところだけ避けてるんですね」
アリシアが今更察したかのように声を上げた。しかしその通りだ。
「うん。でも囲まれてる。それに触れたら危ない。凄く危険なのには、変わりない」
「あの人なら大丈夫なきもしますが………」
「私もそう思う!」
ミリーはこれで敵は死んだだろうと確信する。
これだけの高威力な魔法ならどんな魔族でも消滅するのは必定だ。
そう思っている内に魔法の噴出が終わり、リョーカの姿が見えてくる。
そこには予想通り、リョーカが悠然と立ち、魔族がボロ雑巾のように倒れている場面があった。
「やっぱり、すごい………」
ミリーのいつかのスイッチも、久しぶりに入ろうとしていた。
「それで、約束してたことは教えてくれるんだろうな」
黒い波動がまだ地面から噴き出しているとき、リョーカはそんなことをカーマルに聞いた。
ここまで必死に防御魔法を展開している自分に軽くしゃべってくるのに酷く腹が立ったが、すぐに自分の周りに波動が無いことが確認され、どういうことは分からず狼狽する。
「そんな脆弱な防御でこの魔法は止められないぞ。トイレットペーパーのように破けて終わりだ」
「トイレットペーパー?」
「いやなんでもない。そんなことより今の状況が不思議でならないようだな」
「………当たり前です」
不満そうにリョーカを見上げるカーマルからは、リョーカが予測していた答えが返ってきた。
「さっき言っただろうが。あの変な単語の意味、俺が勝ったら教えてもらうと」
「………魔族の私と本気で取引するつもりで言っていたのですか?」
「当たり前だ。有益そうな情報は持っておきたいだろうが、お前も」
「まぁ確かにそうですが………」
しばらくの沈黙が間に入る。
その間、ふたりは気まずそうにお互いとそっぽを見たり視線を逸らしたりしていた。
その沈黙を破ったのはカーマルである。
「ぷっ」
「おい、なにが可笑しい」
「いや、魔族と取引をする人間がいたとはおもしろいと思いましてね。すみません」
「そうだ謝れ」
本気でなにを笑っているのかが分からないリョーカ。この世界の情勢を知らないのなら無理もないかもしれない。
魔族は元が動物、そして魔物なだけに気性が荒い。
基本的には他の種族と喧嘩をしている種族として世界に捉えられている。
時に理性的な魔族も出てくるが、それはカーマルほどに進化した場合のみだ。
そのカーマルでさえ少しの破壊衝動はある。元が吸血するコウモリという動物なだけに吸血衝動もあり、時に他種族の、それも主に比較的血が綺麗な天使族や人間族などから。
こういう背景があるからこそ、人間族は魔族を嫌うし、魔族は人間族を捕食対象としか見ていない。
人間族は魔族を殺すし、魔族は人間族を喰らう。
「しかし面白い貴方に、そして勝者に敬意を称して教えて差し上げます。
私が肉体強化、そして防御魔法陣で使っていた技術、それは《二重詠唱》です」
「二重詠唱………つまり二重に詠唱するんだろ?」
「そうです。私が使っていたのは魔族語と人間語です」
「その効果は?」
「魔法の威力が、あるいは効果が格段に上がります。それも足し算ではなく、掛け算で」
「そりゃ凄いな。じゃあ三重詠唱とかはねぇのか?」
「それは、誰も到達しえていない領域です。それこそ、過去に存在したと言う勇者、魔王様でも」
それを聞いて少しばかり驚いたのはリョーカ。
今腕に付けている籠手を作った勇者でさえ、三重詠唱とやらが出来ていない。無理矢理にでも出来そうなものだが、と思う。
今まで短い期間とはいえ、勇者の凄い武勇伝は聞いてきた。
なんでも、ババアが今も生きているのもその勇者とやらのおかげらしい。
「じゃあ後ひとつ聞かせてもらうわ。お前たちの目的は?」
「それは言えません取引にありませんでしたから」
「やっぱりか。じゃあもういいや。この魔法を解くぞ。俺たちはそのままどっかに行くから姿が見えなくなるまでねぞべっててくれ」
「分かりました」
リョーカは足から魔力を魔法陣に注ぎ、魔法陣を崩壊させた。
徐々に周りの様子も見えてくるのだが、それはとんでもなく悲惨なことだ。
心配そうに景色を見ているリョーカをカーマルは助けるかのように言葉を発した。
「私がなんとかしておきますよ。本来私は闇の幻惑魔法に特化している種族ですから。永久幻術くらいかけられます」
「そうか、それは助かる」
「それでもだますだけですがね」
さっき戦っていたとは思えないほどにフレンドリーに会話しているふたりを一から十まですべてを見ていた者が居たのなら、その目にはどう映っただろうか。
おそらくは戦ったものにしか分からない友情か、それとも――――――――――
「ヒントを差し上げましょう」
「ヒント?」
「私たちが今なにをしているのかのヒントです。大サービスですよ?」
「助かる」
既に倒れている演技をしているカーマルからの言葉を聴く。
「私たち魔族がただ真っ直ぐに突っ込むだけの種族だとは思わないで下さい。政治的行動もしますし、頭も使います。それにかくれんぼが好きな魔族が居ます。私はそっち側です」
「なるほどな。ありがとよ。じゃ俺からも助言をひとつ。
今の内に俺に恩を売っとけ」
リョーカは待っている三人の元へ歩き出した。
《パーティ内職業》
リョーカ→基本戦い担当の勇者or魔王
リューシア→マスコット
ミリー→リューシアの天然な行動を監視するお姉さん




