翌日『ルーカスの謹慎処分』
「ってことで、お前は今日から一週間の謹慎処分だ」
「はいっ!」
「犯人ではなかったとはいえ、部外者を勝手に夜会に招き入れたのだ。近衛として面目が立たん」
「はいっ!」
「謹慎の間は城には入れん」
「はいっ!」
「……お前、やけに嬉しそうだな」
とても濃い夜会から一夜明けた昼前。
王宮の近衛詰所では、ルーカスが近衛隊長にヤーコプを招き入れたことに対する処分を言い渡されていた。同僚騎士たちが心配そうに見守る中、当のルーカスだけはなぜか元気いっぱい嬉しそうだった。
早朝から関係各所の要人を集めて行われたルーカスへの事情聴取。
「俺、人だけは見る目があるんで!」
どうして面識のないヤーコプを城に入れたかと何度聞かれても、ルーカスは自信満々にこれを繰り返すばかり。普通の騎士がこんな言い訳をしていたならば、絶対に釈放されなかっただろう。
しかし、「ルーカスならばあるかも」との考えが、その場にいた全員の頭をよぎった。
一時は近衛除隊処分も検討されたルーカスだったが、やはりいないと困るという声も上がり、結局一週間の謹慎処分という軽い罰に落ち着いた。
「いいか、謹慎中は自宅から一歩も出るなよ」
「はいっ。どうせ、引越しで忙しいので良かったです」
「待て、待て、待て!」
近衛隊長が慌ててルーカスの話を止めた。
「引越しって?」
「結婚相手がローゼンベルク侯爵家……あ、元王子の婿入り先の侍女をしていて、このたび、侯爵に一緒に住まないかと誘われました!」
詰所が一瞬ざわめいた。近衛隊長は必死で頭の中を整理した。
「その侍女と結婚するから、お前がローゼンベルク侯爵と一緒に住むのか?」
「よくわからないけど、今日からそうみたいです!」
「今日?!」
ルーカスは人懐っこくて周囲から好かれるのは近衛隊長も理解している。が、あまりの展開についてはいけないし、ルーカスの言うことが本当ならばローゼンベルク侯爵も一癖ありそうだ……。
近衛隊長は考えることをやめた。
「と、いうことで……」
ルーカスは今日一番の笑顔を近衛隊長に向けた。
「今日から一週間、結婚休暇をください! 届はさっき、色んな人に叱られている合間を縫って出してきました!」
ルーカスを諭す言語力と気力を持ち合わせる者は、誰一人としていなかった。
近衛隊長は思考を手放した。
「お、おめでとう。ルーカス」
近衛隊長が投げやりに手を叩き始める。
それは戸惑う近衛騎士たちにも伝播し、詰所は色んな感情を含んだ拍手に包まれた。
拍手の中、ルーカスだけがニコニコと照れ笑いをしていた。
「式には呼べよ。行ってやる」
ルーカスの笑顔に釣られた近衛隊長が、口元を緩めた。ルーカスが即座に答えた。
「結婚式は、相手に断られました!」
拍手の音がまばらになり、やがて静かに消えていった。
近衛隊長と騎士たちは、何ともいえない表情でその場を後にした。ルーカスは皆の後ろ姿を見送りながら、新居に持って行く荷物のことを考えるのに忙しかった。




