男爵令嬢の涙
ローゼ男爵家では、クララがいつもより遅い夕食をひとり済ませたところだった。
夕方に届いた王室からの贈り物。送り主の名前は見なくても誰だかわかる。
贈られたドレスと装飾品をひとつひとつ確認していると、あっという間に時間が経ってしまった。
自室に戻ったクララは、思わず大きなあくびをした。
部屋の目立つところに、トルソーに着せられたドレスが飾られている。あくびをしながらそれを見たクララは、うっとりとした表情を浮かべた。
「本当に綺麗なドレスよねぇ。もったいないぐらい」
ドレスに近寄り、そっと指で撫でてみる。今まで贈られたドレスよりも、格別に高級な生地が使われていることがわかる。クララは何度もトルソーの周りを回って、ドレスを確かめた。
「いよいよ、明日なのね」
半年前、第二王子のレオンハルトと知り合った。貴族とはいえ、男爵令嬢であるクララにとって第二王子なんて雲の上の人物だ。
レオンハルトはクララに対してとても親切に接してくれる。ゴールドの髪に王族の持つロイヤルブルーの瞳。対してクララは、ブラウンの髪にグリーンの瞳と平凡だ。
レオンハルトに婚約者がいることは、クララも当然知っていた。その婚約者は、レオンハルトにお似合いの、プラチナの綺麗な髪と薄紫のミステリアスな瞳を持つ。
それなのに出会ってからずっと、レオンハルトは婚約者よりクララを優先した。
夜会の度にドレスを贈り、エスコートをしてくれる。夜会に限らず、どこへ行く時も完璧にエスコートをこなすレオンハルトの瞳には、クララのことしか映っていないのだろう。
レオンハルトが婚約者と出掛ける姿を見なくなったと噂で聞いた。
夜会などですれ違うどこかの令嬢たちの中には、クララの耳元で嫌味を言ってくる者もいる。「婚約者がお気の毒」などと言っているものの、皆クララの立場が羨ましくてたまらないのだろう。その様子から、クララはレオンハルトの心が自分にあることを確信した。
なぜか自分の耳にも簡単に入ってくる噂によると、レオンハルトは明日の夜会で婚約破棄を突きつけるらしい。贈られたドレスのグレードを見てもその噂は真実だとクララは考えた。
「明日、やっと……」
クララの瞳に涙が浮かぶ。
少し早いが、クララは明日に備えて休むことにした。ベッドの上で横になりながら、クララは小さく呟いた。
「あの色。好きじゃないのに」




