混沌
まだ黙ったままのエレオノーラを横目で見つつ、どう接すればいいのかわからず黙り込んでしまうレオンハルト。
そんな二人を、居心地悪そうにチラチラと上目遣いで窺うクララとヤーコプ。
そのクララからターゲットを移したとばかりに、レオンハルトを三白眼で睨みつけるヨハンナ。
睨む顔も可愛いとばかりに、ただただヨハンナを笑顔で見つめるルーカス。
その様子を楽しそうに眺めるアルベルトと、そんな王太子の腕を必死で引っ張る宰相……。
控え室の雰囲気は、混沌を極めていた。
「ところで……」
どれだけ時間が経っただろう。ついにエレオノーラが声を発した。全員、エレオノーラに注目する。レオンハルトは姿勢を正した。
「ヨハンナとルーカスさんは、お知り合いなの?」
そこなの? と、全員が心の中で思った。が、確かに二人の接点が思い浮かぶ者はいない。
「確かに。エレオノーラと会う時は、ルーカスと違う近衛を連れていたはず」
レオンハルトも首を傾げる。ルーカスが、嬉しそうに白い歯を見せた。
「聞いちゃいます?」
「そう言われると、聞きたくなくなる」
「ヤーコプ、私も何だかムカムカするわ」
「偶然だねクララ。俺もだ」
皆がルーカスを冷たい目で見た。
「構わん。続けろ」
外野の声に、ルーカスはコクコクと嬉しそうに頷く。
「俺とヨハンナは、屋敷が隣同士なんです。幼馴染みっていうのかな。ものごころがついた時には、ヨハンナの後ろを付いて歩いていました」
ルーカスがいうには、お互い裕福でも貧乏でもない子爵家に生まれた。四男坊で末っ子のルーカスは、兄たちよりも面倒見の良い三人姉妹の長女であるヨハンナと遊んでいた。
「鳥の雛が初めて見たものを親と認識するって言うでしょう? 当然、俺もヨハンナを将来の妻だと認識しました」
全員の頭の中に、大きな疑問符が浮かぶ。エレオノーラはヨハンナに体を向けた。
「ヨハンナ。あなたはそれでいいの?」
エレオノーラなりに、ルーカスに不安を感じたのだろう。ルーカスは質問の意図など汲み取らずに、期待を込めた表情でヨハンナを見た。
「正直、わかりません。が、両家から呪詛のように言い聞かされていたので、そんなものなのだろうと思っております」
本来、貴族の結婚は親や周囲が決めてしまう。親同士で話がついているのなら、それ以上はエレオノーラも口が挟めない。
エレオノーラの心配を感じ取ったのか、レオンハルトはルーカスを少しだけ擁護した。
「こんな残念な感じだが、ルーカスは近衛騎士としては飛び抜けて優秀だと思う。近衛騎士としてだけだが」
レオンハルトの言葉の裏を理解しようと、エレオノーラは考え込んでしまった。
「案外、お似合いじゃないかしら」
「そうだね。侍女さんも、結構ヤバい感じだし」
クララとヤーコプが、ああだこうだと盛り上がり始めた。
「一つ、大事なことを質問したい」
アルベルトの低い声が、賑やかな空気を一転させた。皆、姿勢を正してアルベルトを見る。
「私は、先ほどのプロポーズの結果が知りたい」
「殿下。それこそ、今じゃないです」
アルベルトは宰相に諫められたが、ルーカスとヤーコプは思い出したようでハッとした。
「クララ……」
ヤーコプはクララを見る。この二人はもともと結婚の約束をしていたぐらいだ。上手くいくだろう……その場の全員がそう思っていたが、意外なことにクララは首を縦には振らなかった。
「私の……ローゼ家のせいで、レオンハルト殿下とエレオノーラ様の関係に亀裂を入れてしまいました。私が先に幸せになる資格などございません」
きっぱりと言い切ったクララに、ヤーコプも反論ができなかった。
「ヨハンナは?」
「お断りします。お嬢様のお幸せが最優先です」
「何で?! 関係ないでしょ、幸せになるのに順序なんてないよ?」
間髪入れずに断ったヨハンナに、ルーカスは反論しかできない。
その様子を黙って見ていたエレオノーラだったが、レオンハルトへ向き直った。レオンハルトはエレオノーラと目をしっかりと合わせるが、その右手はみぞおちへと移動した。エレオノーラは、何かを決心したように口を開いた。
「レオンハルト殿下」




