二つの指輪
「やはり、消しておけばよかった」
皆、ギョッとしてヨハンナを見た。ヨハンナは、据わった目でクララだけを真っ直ぐに見つめる。その視線を受けて、クララがエレオノーラに向き直った。
「ローゼンベルク侯爵令嬢。本当にごめんなさい!」
クララは、エレオノーラに心から謝罪した。エレオノーラは無表情で、ただクララを見ていた。
「レオンハルト殿下のこと、本当に取ろうなんて思っていなかったんです。お父様に言われて仕方なく……ヤーコプと別れさせられたので、自暴自棄になっていたのかもしれません」
エレオノーラは、微動だにせず聞いている。
「私、本当にヤーコプのことが大好きで。何なら初めて好きになった人で。もちろん、レオンハルト殿下のことは王族としては尊敬しています。ですが、男としてどうかと聞かれると答えに困ると言いますか、どうでもいいと言いますか……」
必死に謝罪の言葉を並べるクララの口は止まらない。レオンハルトの表情は曇り、ヤーコプの頬は紅く染まっていく。
「私、青より断然ブラウンが好きで。それに、レオンハルト殿下とダンスを踊ると必ず、腕にブツブツができて痒くなるんです。何でだろう?」
思い出して痒くなったのか、クララが右腕の内側を擦った。
「殿下、ふられちゃいましたね」
ルーカスが楽しそうに言う。レオンハルトはルーカスを睨みつけながら、自分の左腕の肘を掻いた。
「お互い様だ」
その言葉に、今度はクララが目を見開いた。が、すぐに口元に笑みが浮かんだ。クララはもう一度、エレオノーラを見た。
「許して欲しいとは申しません。どうぞ、いかようにも処分してください」
「どうか俺にも、クララと同じ罰を与えてください」
ヤーコプもエレオノーラに懇願した。
「お嬢様。二人の処分は私が」
ヨハンナが言うと、ヤーコプがヨハンナに食ってかかった。
「っていうか、あなたは何者なんだ?! ナイフは持ち歩く、人を不審者扱いする。それに、言っていることがすべて物騒だ!」
ヨハンナが、ゴミを見るような目をしてヤーコプを見下す。ルーカスがすかさずヨハンナの隣に座ると、嬉しそうに肩を並べた。
「俺の最愛の人。今日、プロポーズするって言っていただろう?」
「おう……まさか、この人だったのか!」
盛り上がる二人の様子に、クララがヤーコプの肘を突いた。
「ねぇ、この騎士様と知り合いだったの?」
「ああ。偽者かなって思ったけど、本当の騎士っぽいし意外といい人だよ。その侍女も信じられないけど本物っぽいし」
そこで何かを思い出したのか、ヤーコプはクララの両肩を抱いてソファに座らせると、その前に跪く。そして、ポケットからリングケースを取り出した。
「俺も!」
それを見たルーカスも、同じようにヨハンナの前に跪くとリングケースを差し出した。
「結婚してください」
「結婚しよう」
二人は、ほぼ同時にリングケースをパカッと開いた。
「……?!」
クララはヤーコプに差し出された指輪を嬉しそうに見ていたが、ヨハンナに差し出された指輪を見ると絶句した。
その様子を見て、ルーカスが持つリングを見たヤーコプも絶句する。
二人の異変に気づいたルーカスも、指輪を見比べて言葉を失った。
しばらくして、ヨハンナが冷静に言い放った。
「二つともペリドットのグリーンの指輪。まったく同じものに見えますね」
「そんな! 俺はクララの瞳の色に合わせて買ったのに!」
「俺だってヨハンナの色の指輪を売ってくれって、角の宝石屋の親父に!」
「そうだ、あの角の宝石屋の親父!」
「くそっ! 角の宝石屋の親父めっ!」
ヤーコプはクララのグリーンの瞳を、ルーカスはヨハンナのモスグリーンの瞳を見て叫び合い、そして肩を落とした。
「最後の一点って言ってたのに」
「……俺も」
「気の毒だな」
四人を見ていたレオンハルトが、思わずエレオノーラに話し掛けた。が、エレオノーラはレオンハルトを見もしない。レオンハルトはばつが悪そうな顔をして、みぞおちを押さえた。




