夜会のはじまり
宮廷楽団の優雅な演奏が、夜会の始まりを告げた。
参加者の紳士淑女たちは、誰一人、今夜の夜会を純粋に楽しもうとしてはいなかった。皆、噂の真相を知りたがっているのだ。
広い会場の中階段にある扉が開く。
はじめに王太子とゴールドのドレスに身を包んだ王太子妃が姿を現した。招待客たちは皆、頭を下げた礼とカーテシーで迎える。
その後、青いドレスに身を包んだクララをエスコートしたレオンハルトが現れた。
会場の空気が一瞬凍りついたが、皆冷静に礼の姿勢を貫く。その中にはエレオノーラの姿もあった。
カーテシーの姿勢で視線を床をに落としたままのエレオノーラにも、寄り添う二人の姿は感じ取れた。
覚悟を決めたはずのエレオノーラだったが、それでもやはり胸がつきんと痛んだ。
そして夜会は始まった。最初に王太子夫妻のダンス。息の合ったダンスを参加者たちは微笑ましく見ていた。
曲が変わると、王太子夫妻と入れ替わるように、レオンハルトがクララの手を取り会場の中央まで躍り出る。周囲からは声にならない驚きの息づかいが聞こえてきた。
同時に、一人で佇むエレオノーラにも好奇の目が集まる。
レオンハルトの色を纏うクララを丁寧にエスコートするレオンハルトの姿を見て、エレオノーラは息が止まりそうになる。
エレオノーラは瞼を伏せかけた。しかし、エレオノーラの視界の端に、会場の入口に立ち仁王立ちしているヨハンナの姿が飛び込んできた。その瞬間、エレオノーラの顔には美しいアルカイックスマイルが浮かぶ。周囲からはどよめきが起こった。
会場中央にいるレオンハルトとクララは、笑顔を浮かべながら手を取り合った。
ゆったり流れるワルツに合わせて、二人は初々しいダンスを披露する。
クララの足がわずかにもつれるたび、レオンハルトはしっかりとクララの腰を支えて完璧にエスコートした。
その姿に、見ていた令嬢からは熱いため息が漏れた。
二人は無言で笑みだけを浮かべて、ただただワルツを踊った。不思議と熱が感じられない二人の様子に、周囲の招待客たちは、これから起こる出来事への期待を膨らませた。
曲調がゆっくりになり、やがて静かに消えていく。
レオンハルトとクララはそっと体を離すと、優雅に礼をした。周囲からは割れんばかりの拍手が起こる。
レオンハルトはクララに近づくと、まるでキスをするかのようにクララの耳元に唇を寄せた。
周囲から遠慮のないどよめきが起こる。
「では、後で」
クララにそう耳打ちしたレオンハルトは、踵を返すと王族の席へと戻って行った。左腕の肘を掻きながら。
レオンハルトに最上級のカーテシーをしていたクララもまた、レオンハルトの姿が見えなくなると後方へと歩みを進めた。
一瞬だけ息を吐いたクララは、誰にも気づかれないようにそっと右肘の内側を擦った。




