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【本編完結】王宮24時! ~婚約破棄、その舞台裏~  作者: ミズアサギ
17時

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ヤーコプと不審な近衛騎士

 

 ヤーコプは頭を抱えていた。


 自分が侍女のように夜会会場まで入れるとまでは、さすがに考えてはいなかった。しかし、夜会会場がこんなに警備が厳しいとも知らなかった。


 侍女マータに代わってクララに付いて会場に入ろうとも思ったが、そのクララは早々に近衛に連れて行かれた。

 馬車をどう戻そうか考えていると、運良く馬車係に停車を勧められた。馬車係は、馬車の家紋を見たのだろう。男爵家に戻るしかないと思っていたヤーコプには、渡りに船だった。



 ここまでは上手くいったが、さすがにヤーコプが会場に入れるほど甘くはない。

 会場入り口で入場を拒まれたヤーコプは途方に暮れた。しかし、帰りたくはない。この瞬間もあの人が冷たい目で見られているかと思うと、居ても立ってもいられなかった。


 ——どうしよう。

 会場に入り込めそうな場所を探して歩き疲れたヤーコプは、とうとう座り込んでしまった。




「どうされましたか?」


 どれくらいの時間が経っただろう。その声は、明らかにヤーコプに向けられていた。


 ——詰んだ。もう、お手上げだ。


 ヤーコプが顔を上げると、目の前には立派に近衛騎士の制服を着た、赤い髪の青年が立っていた。捕まるのか……ヤーコプは覚悟を決めた。



「夜会の参加者……じゃないよね?」


 怒鳴られるか拘束されると覚悟したヤーコプは、近衛騎士の軽い口調に驚いた。

 さらに驚くことに、その近衛騎士はなんとヤーコプの隣にドカッと腰掛けた。膝同士がぶつかる。ヤーコプは近衛騎士の距離感のなさにもビックリした。


「生きていれば座りたい日もあるよな。でも、今夜は帰った方がいいぜ」


 彼の言葉の前半はよくわからない。でも、彼がヤーコプを穏便に帰そうとしているのはわかった。

 しかし、ここで食い下がってはいけない。ヤーコプは意を決して口を開いた。


「どうしても会いたい人がいるんです」


 近衛騎士が一瞬固まったように見えた。が、やはりヤーコプを諭すように話した。


「んー。明日じゃダメなの? どうせ入れないよ。近衛としても見逃せないし」


 だろうな。ヤーコプは完全に諦めた。この近衛騎士は、きっと新人なのだろう。切れ者の近衛騎士だったら、ヤーコプはとっくに拘束されているはずだ。

 ヤーコプは諦めついでに思いの丈を、この人の良い新人近衛騎士にぶつけた。


 

「今日……今日じゃなければ意味がない」

「生き別れの親父さんとか? もしかして君、貴族の落とし胤?」

「……女性です」

「おうっ」


 ヤーコプより少し年上に見えるその騎士は、意外にもヤーコプの話に食いついてきた。



「聞いていい? 相手はどんな人?」

「……貴族のご令嬢で」

「君、平民でしょ? 難しいよねぇ。でも頑張れ」

「その人、辛い目にあっているんです」

「えっ? 何それ、かわいそう」

「だから、俺が幸せにしてやるって」


 ヤーコプは近衛騎士に向かって、膝を付いて座り直した。なぜか近衛騎士も、同じように膝を揃えて畏まる。

 また膝がぶつかる。その距離の近さに、ヤーコプは一瞬怯んだ。

 しかし、ヤーコプの口は止まらない。本当は誰かに相談したかったのかもしれない。


 

「俺、今夜プロポーズするんです」

「……俺も」

「指輪も用意していて」

「俺も」

「今日、渡そうと思って」

「俺も」


「……え?」

「……え?」


 二人は驚きのあまり、見つめ合ったまましばらく動けないでいた。



 ヤーコプは混乱していた。が、冷静になるよう自分に言い聞かせた。冷静になればなるほど、おかしい。

 王都の最前線でいて最後の砦である近衛騎士が、こんなに様子がおかしいはずがない。しかし、この人が本当に偽の近衛騎士だったとして、目的は何なのだろう……。


 動かないヤーコプをよそに、近衛騎士は何やら一人で盛り上がっていた。


「よし! こう見えて俺、人を見る目だけはあるんだ。俺に付いて来い」


 そう言うと、近衛騎士はおもむろに立ち上がった。そして、どうすればいいのか悩むヤーコプの腕を引っ張って立たせた。


「俺がお前を連れて会場に入る。あとは頑張れ」


 思いがけない展開に、ヤーコプは固まった。


「お互い、プロポーズを成功させような!」


 笑顔の近衛騎士の言葉に、ヤーコプの目に涙が浮かんだ。


「はい!」

「その代わり、不審な動きをしたら切り捨てるぞ」

「はい!」

「ちゃんと痛いぞ?」

「はい! 絶対にプロポーズ、成功させます!」



 こうしてヤーコプは、この不審な近衛騎士のおかげで、思いがけず王宮へ入ることができた。


 



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