噂の二人
クララが馬車から降りると、そこには近衛の制服を着た二人の若い男性が控えていた。ヤーコプより先に、近衛騎士の一人がクララに手を差し出した。クララはその手を借りて馬車から降りる。
「殿下がお待ちです」
そう告げると、近衛騎士はクララを好奇の目から避けるように、会場とは反対側にある通路へと連れて行く。どこをどう歩いたのか覚えられなかったが、辿り着いた先はレオンハルトの控え室だった。
控え室の中には、レオンハルトひとり。クララはスッと息を吸い込んだ。
「レオンハルト様」
笑顔を向けると、レオンハルトも美しい笑みを返した。クララはレオンハルトの側に向かう。そして胸の前で両手を重ねると、いつもの笑顔を作った。
「素敵なドレスをありがとうございます。レオンハルト様の瞳のお色、美しすぎて身に纏うのがもったいないぐらい」
そこでレオンハルトは初めてドレスに目を留めた。ドレスを着たクララの美しさに驚いたのだろうか、レオンハルトは少し目を見開いた。が、すぐに柔らかい笑顔に戻る。
「よく似合っている」
「とても気に入りましたわ」
レオンハルトとクララは微笑み合った。レオンハルトの笑顔は作り物のように美しい。クララは隣に並ぶ自分を少し卑下したくなった。
「今日は特別な夜会になる」
そう言うと、笑顔のままクララから視線を逸らしたレオンハルトを見て、クララは何も言えなくなった。この夜会でレオンハルトの婚約者に婚約破棄を告げるのだ。
クララも、その婚約者を気の毒に思う。だが、仕方がない。
「クララ嬢。父君とは一緒ではないのか」
急に父の話になり、クララは少し戸惑った。結局、父とは朝から会えずじまいだった。
「ええ。父も事業が忙しいようでして」
また金策にでも走っているのだろう。クララは嘘を吐いた。レオンハルトはすんなり騙されてくれたようで、それ以上は詮索してこなかった。
二人は今日の夜会の流れや招待客の話など、他愛のない会話をし続けた。
夜会の会場は、今頃招待客で賑わっているのだろう。しかし、この部屋は物音一つないほど静かだ。
クララは、改めて知る王城の広さに身震いした。
レオンハルトは座ったまま動かない。ただ時折、時計に視線を移すだけだった。




