打ち合わせ
王太子の執務室。夜会の準備で浮かれる会場係や若い侍女たちとは反対に、ここにはピリピリとした空気が漂っていた。
執務室には王太子アルベルトと側近である宰相補佐官が二人。それにレオンハルトと近衛隊長がいた。
「予定通り進める。いいな」
アルベルトが言うと、一同は無言で頷いた。アルベルトは向かいに座るレオンハルトにだけ、もう一度聞く。
「すべて頭に入っているな」
「はい」
レオンハルトは力強く頷いた。しばらくレオンハルトを見ていたアルベルトだったが、やがて解散を告げた。レオンハルト以外、緊張の面持ちで退室する。
腰を上げようとしたレオンハルトに、アルベルトが小声で話し掛けた。
「お前は予定通り進めろ。こちらも合わせて動く」
「彼女には近づかせたくないのですが」
「仕方がない。夜会が終わるまで動くな」
「……はい」
それだけ言うと、アルベルトはレオンハルトの肩を力強く叩いた。
レオンハルトが自分の執務室に戻ると、そこではさっきまで一緒にいた近衛隊長が数名の近衛騎士たちと夜会での動きを確認していた。
「えー。俺、がっつり夜会会場の中じゃないっすかぁ」
場の緊張を壊すようなルーカスの情けない声が響く。すぐさま、髭の近衛隊長が青筋を立てた。
「当たり前だろう、ルーカス。お前はレオンハルト殿下の専属近衛なんだぞ!」
「雰囲気のいい、庭の噴水あたりじゃダメっすよね」
「だめに決まっているだろう!」
「……俺、今日、プロポーズするんですよねぇ」
ルーカスの突然の告白に、近衛隊長だけでなく、一緒にいた近衛騎士たちも驚いたような顔をした。
「それはおめでとう。いや、ルーカス。今じゃないぞ、それは」
近衛隊長が困ったように髭を撫でた。
「指輪も準備しているんです。ばっちりです」
ニカッと笑うルーカスに、ルーカスと同年代の近衛騎士たちは興味津々の面持ちで質問を浴びせた。
「相手は誰なんだ?」
「指輪って高いんだろう?」
「いいなあ。近衛に入隊してから、彼女を作る暇なんてないよ」
近衛隊長は浮つく近衛騎士たちを怒鳴りつけようとした。が、自分が妻にプロポーズしたのも若かりし日の夜会会場。それを思い出して、近衛隊長は黙ってしまった。
近衛騎士は忙しく出会いも少ない。ルーカスのプロポーズには協力してやりたいのは山々だが、当然そんなことは認められない……近衛隊長は心を鬼にした。
「諦めろ、ルーカス。皆も浮つくな。気を引き締めて警護に当たれ」
鋭いその声に、近衛騎士たちは姿勢を正した。ルーカスも反射的に姿勢をとる。
「終わったか?」
近衛隊長が驚いて振り返り、ようやく呆れたように見ているレオンハルトに気がついた。
「ルーカス」
レオンハルトはみぞおちに手をやりながら、ルーカスを呼ぶ。ルーカスは素早くレオンハルトに敬礼した。
「朝も言ったが、もう一度言う」
「はいっ!」
「今じゃない」
「はいっ! 待ちます!」




