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終末世界、AIと生きていく  作者: 雛月 みしろ
1章:”シエスタ”
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6/8

2053年9月18日 午後:西i-32地区

 「ねぇ、由良。あの星座は何だと思う?」

冬の寒いバルコニーでそんなことを聞いてくるのは私の親友、千代田朝日。そんなことを聞かれても天文部の朝日とは違い私は星について詳しくない。なので素直にこう答える。

「わからない」

「あの星座はふたご座って言うの。聞いたことあるでしょ?」

答えを聞いた私はもう一度星空を見る。けれどどう繋げれば双子に見えるかがわからない。

「ふたご座の神話って美しい愛のお話だと思うの」

そんなことを続ける朝日。私は静かに続きを聞く。

「ふたご座の神話はね、不死身の弟が戦いで命を落とした兄とともにありたいと強く願って兄弟愛に感動したゼウスが2人を星座にしたっていうお話」

「……朝日って時々そういうところあるよね」

私は話を聞いて思ったことを率直に言うことにした。

「重いって言いたいの~?」

「そうかな?そうかも」

いつもと変わらない他愛のない話。だからいつも通り重くないとかひどいとか言ってくると思っていた。

「ねぇ、由良。もし私が先に死んでも後を追って死ぬなんて馬鹿なことはしないでね。そんなことしたら許さないから」

「急にどうしたの」

「別に。なんとなく言いたくなったから」

そう言う朝日の顔はいつも冗談を言うときと同じ顔をしていて―


 目が覚めるといつもの部屋にいた。いつの間にか寝てしまっていたらしい。

「それにしても懐かしい夢を見たなぁ」

あの日は確か高校2年の冬休み、朝日に誘われて二人で星空を見に長野のコテージに泊まった日だった。一緒にココアを飲みながら冬空の下でいつもの他愛のない話をしたり進路のことを話したり星の話をしたり時々望遠鏡で星を眺めたり……楽しかったなぁ。そうだ、今何時だろう。

「“ルシエラ”今何時?」

『只今の時刻は12時35分です。これからどうしますか?』

少し寝ただけだと思っていたら思っていたよりも寝てしまっていた。これ今日寝れるかな。

「ありがとう。とりあえずお昼ご飯食べる」

『わかりました』

いつもと変わらない会話。……のはずなのにどこか寂しい。きっとあの夢の影響だろう。とりあえずご飯食べよう。そう思い私はキッチンに向かった。


それからも気分が戻ることはなく時間だけが過ぎていた。……外に行こう。こういった時は散歩しよう。

「“ルシエラ”少し外に出るね。暗くなるまでには帰ってくるから」

『わかりました。現在の天気は曇りです。いってらっしゃいませ』

「ありがとう。いってきます」

“ルシエラ”に感謝を伝えて私は外に出た。


 いつも通り行先も方角も何も決めずにただひたすら歩く。大通りを歩いたり交差点を曲がったり路地裏を歩いたり思ったままに歩く。気が付けば私は拠点から20分くらいの公園に来ていた。この公園は私が散歩をするときにたどり着くことの多い場所。

「あっやっと来た。もう遅いよ、由良」

そう朝日が私を呼ぶ声が聞こえた……気がした。やっぱり今日の私はあの夢に影響されている。だって朝日ももうこの世界にはいないんだから。それから私は公園内をゆっくりと歩き始めた。

「ねぇ、由良。あのボートに乗らない?」

「桜綺麗だね。ねぇ、由良って桜の花言葉って知っている?」

朝日との思い出が溢れてくる。朝日の声が聞こえる気がする。朝日が隣にいる気がする。朝日のことで頭がいっぱいになっていく。

「ねぇ、なんで約束を守ってくれなかったの?」

ぽつりと零れ出た言葉。自然と歩みが止まってしまう。あぁ今日はだめな日だ。もう止まれない。止められない。勝手に涙がこぼれ落ちていく。

「ずっと一緒にいるって約束したじゃん。何があっても離れないって言ったじゃん。独りは嫌だよ」

10年たっても慣れることのない喪失感。“ルシエラ”がいても感じることのできない人の温もり。どれだけAIが進化しても埋まることがなかった人間との差。それは時折、私の心を弱らせる。そのたびに私は時間なんて忘れて泣いてしまう。体は少しだけ成長しても心は10年前から成長していなかった。それでも今まで生きてきたのは“ルシエラ”がいたから完全な孤独ではなかったことと朝日の呪い。親友の言葉を呪いと言うのはどうかと思われるかもしれないが私は今もその言葉に縛られて生きている。自分の想いは他人にとって呪いとなることもある。状況は逆だけどそんな言葉はフィクションの中だけのものだと思っていたけど身をもって経験することになるとは思ってもいなかった。気温はまだ暖かいのに妙な寒さが体を支配する。少し視界を動かすと紫色の花が視界に映った。


 「……あっ由良、この花知っている?」

秋の夕暮れの公園を朝日と歩いていると道端に咲いている紫色の花を指さしながら聞いてきた。

「いや、知らない」

「この花はね、竜胆って言う花なの。竜胆の花言葉はね勝利、誠実……あとは悲しんでいるあなたを愛す、あなたの悲しみに寄り添う」

花言葉って明るい言葉だけだと思っていた。悲しんでいるあなたを愛すって少し重いような。

「竜胆の花言葉の由来はね、竜胆は群生しないことからだったり古くから薬に使われて来たからって言われているの。私ね、由良にとって竜胆の花みたいな存在になりたいの」

朝日の言葉は告白とも取れることを言ってきた。だってさっきのを聞いた感じ……

「なにそれ、告白?」

「違うよ。私はただどんなときも由良の隣に居てあげたいなぁって思っただけだよ。どんなに離れていても竜胆を見たらいつも心の中には私がいるって思い出してほしいだけ」

それって恋人と変わらないんじゃ。

「やっぱ告白じゃん」

「なに~、由良は私と恋人になりたいの~?」

朝日が恋人か……ないな。重いし。

「いや」

「そんな即答しなくてもいいじゃん!」


「どんなに離れてもいつも心の中にいる……か」

ずっと隣に居てほしかったなぁ。でも寂しいから後を追って……なんて本当に怒られそうだなぁ。朝日って普段怒んないからものすごく怖いんだよなぁ。

「でも、少しは楽になれたかも」

ほんと朝日には助けられてばかりだな。もう少し強くならないと。

「大丈夫。由良だったら乗り越えられるよ」

ふと朝日の声が聞こえた気がした。もしそうならいつまでもここに居ることはできないね。過去と決別しなきゃ。

「そうかもね。だからもう少しだけ頑張るよ」

そう言い、私はその場を離れるために歩き始めた。振り返る瞬間に笑顔で朝日が手を振っていた気がするけど気のせいだろう。


 「ただいま“ルシエラ”」

「お帰りなさい“ユラ”」

拠点に帰ってきた私はそのままクローゼットに向かう。クローゼットの中には引き出しありそこに仕舞っている物を取り出す。ここに入れていたのは大切なときに使うアクセサリー。その中でも大切に保管されている箱を取り出し箱を開ける。中身は高校2年の誕生日に朝日から貰ったネックレス。朝日とペアルックになっていて唯一違う点は宝石が私のものにはラピスラズリ、朝日のものにはピンク色のオパールが使われている。貰った当時から傷がついたり失くしたりするのが嫌で朝日と遊ぶときにしかつけていなかったもの。私はいつも使っている机に向かい万が一倒れても大丈夫なように飾る。夜の少しの時間だけでも朝日を感じることができるようにしたかったから。できるだけ前を向くけどこれくらいならいいよね。

「これからも見守ってね。朝日」

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