2053年9月18日 午前:拠点
私はいつも通り目を覚ます。降り続けた雨は止み今日は曇りのようだ。“あの日”以来太陽どころか空が見える日の方が珍しい。“あの日”以来この世界は厚い雲に覆われている。
「おはよう、“ルシエラ”」
『おはようございます、“ユラ”。只今の時刻は2053年9月18日午前6時5分です』
「ありがとう。私が寝ている間に何かあった?」
昨日もしたいつもと変わらない会話。今日も1日が始まる。
『いえ、何もありませんでした』
そう、昨日のように何かある方が珍しいのだ。
「そっか。今日は探索に行かないでここに居るつもりだから」
『わかりました。何かありましたらお呼びしますね』
私は“ルシエラ”との会話を終えてキッチンに向かう。いつもと同じ棚から保存食と水を取り出す。あっ、少なくなっているから補充しなきゃ。これ美味しいんだけどずっとこれから変えようかな。そんなことを思いながらテーブルに移動して朝食を食べる。あっ、今日は遠出の用意をするんだった。
「ねぇ“ルシエラ”、今度遠くに調査に行くから必要そうな物をリストアップしてくれる?移動2日、探索3日の4泊5日にするつもり」
『かしこまりました』
それから朝食を食べ終えて着替える。昨日とは違い白のワンピースを選んだ。探索をしない日の普段着はこんな感じだ。
「“ルシエラ”、リストアップしたものを教えてくれない?」
『はい、こちらになります』
「ありがとう」
モニタに映されたものを探索用の手帳に書き写していく。5日分と予備の食料と着替え、工具にランタン、救急箱。いつもの探索に持っていく物に着替えが増えたのと応急手当キットから救急箱に変わったくらいかな。一応いつもの応急手当キットも持って行こう。手帳に書き終えて私は隣の部屋に移動してクローゼットからボストンバッグを取り出す。これまでも泊まり込みで探索するときに使ってきたものだ。でもこれだけじゃ足りないかな。これを使うのは1泊のときだけ。というか泊まり込みの探索は1泊しかしないようにしている。確か隣の食料を保管している部屋にお母さんのキャリーケースがあったはず。そっちも使おう。とりあえずここにある必要な物をリビングに持って行こう。えっと服は探索する日はいつも通り動きやすい服装で移動に充てる日くらいはお洒落をしてもいいよね。私はクローゼットの中から服を取り出してボストンバッグの中に一旦入れていく。予備の服は着れるけど古くなったものを選んでいく。これだと予備の着替えとしても使えるし怪我をして出血した時の止血にも使える。着替えはよし。次は工具箱と救急箱かな。いつも工具箱と救急箱は持ち歩きやすいように簡易キットとして必要になることが多いものを少しだけしか入れていない。でも今回は何が必要になるかわからないし工具箱も救急箱もそのまま持っていくことにする。“ルシエラ”もそう考えたのだろう。工具箱と救急箱を取り出し中身を確認して行く。
「よし、いつも持ち出しているもの以外はあるね」
必要になって足りませんでしたなんて一番だめだから。あとはランタンかな。工具箱と同じ棚に置いていたはず。
「……あった。しっかり点くね」
これでこの部屋に置いている必要な物はないかな。手帳を取り出しチェックしていく。
「5日分と予備の着替えよし。工具箱よし、救急箱よし、懐中電灯よし。大丈夫だね」
しっかりと確認してからリビングに持っていく。そして一度ボストンバッグを空にして食料を保管している部屋に行く。食料は5日分と予備の2日分の20食でいいかな。それと棚に補充する分。それと水とガスボンベも持って行かなきゃ。水はどれくらいもって行こう。持って行ける量には限界がある。かといって少ないと活動に影響を出てしまう。しかも水は飲用だけじゃなくて衛生面でも必要となる。2日で2リットルペットボトルを1本消費するとして3本、予備が1本。でも探索することを考えると2リットルペットボトルは邪魔になる。となると500ミリリットルのペットボトルも持って行かなきゃいけない。……飲用水は500ミリリットルペットボトルを10本、2リットルペットボトルを1本。予備の2リットルペットボトルを1本持って行こうかな。それでその他の用途で使う分は2リットルペットボトルを2本にしようかな。持っていく量が多いから手帳に必要な数をメモしてから先に持って行こう。
それから3往復して持っていく分と棚に補充する分を運んだ。次は食料。保存食は拠点で食べるものと外で食べるものを分けて保管している。どう分けているかというと火を使わないものが拠点用。火を使うものが外用。何故分けているかというと拠点内で火を使うことは極力避けたいからだ。もちろん火の取り扱いには十分に気を付けているけど万が一があるかもしれない。探索で見つけたものの多くはこの拠点に集めているからこの拠点がなくなるというのは私の生命が終わると言っても等しい。だからこそ拠点では火は使いたくない。話を戻して持っていく保存食は予備を含めて20食。栄養バランスに気を付けて選びボストンバッグの中に入れていく。
「18、19、20。……これでよし。あとはガスボンベを2本入れて」
数が間違っていないかをもう1回確認してからリビングに持っていく。ボストンバッグを置いてからもう一度食料を保管している部屋に戻る。今度はキッチンの棚に補充する分だ。ここ最近食べていたものではなくて別のものを取り出して部屋に置いていたカゴに必要な分を入れてキッチンに向かう。途中リビングに置いていた補充分の水を回収しキッチンに着く。カゴを床に置いてから少なくなった保存食を一度棚から取り出して持ってきたものを奥から置いていく。
「よし、補充終わり」
空になったカゴを部屋に戻してから遠出の準備を始める。まずは保存食とガスボンベ。これはそのままボストンバッグで持っていく。けどさっきは雑に入れたのでボストンバッグの中を綺麗に整頓していく。整頓が終わったので次に移る。次は着替え。これはキャリーケースに入れていく。片側に洋服を。もう片側に下着類を入れていく。こうして服をキャリーケースに入れていくと昔の旅行の準備を思い出すなぁ。私は高校生になってからは一人で宿泊旅行を許可されていろんなところに行った。一期一会もあれば毎年会う人もいた。……“あの日”が無かったら、世界が終末を迎えることが無かったら今年も会えていたのかな。親友と一緒に旅館に泊まって卓球をしたりコテージに泊まって星空を見たりしていたのかな。……いや、今は準備に集中しよう。
それからほどなくして準備は終わった。もう一度持っていく物が揃っているかを確認してから休憩にしようかな。そう思い私は手帳を開き確認して行く。
「……よし、大丈夫。全部揃っている。“ルシエラ”今何時?」
『只今の時刻は9時27分です』
「ありがとう。少し横になりたい気分だから横になってくるね」
準備中に懐かしいことを思い出したからか気分が落ち込んでいた。
『わかりました』
“ルシエラ”はそれだけしか言わなかった。私は重力に身を任せてベッドに倒れこんだ。




