表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン奴隷だった俺、封印魔人と融合して美少女になり、最奥から強者を叩き潰す  作者: あきお
第二章 オークリッジの街で

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/59

第50話 バルフェリアの交渉

※本作にはTS要素があります。

胸がざわめき、何も考えられない。


目の前の男の顔が、頭の中で焼け落ちた村と重なる。

あの日の希望と絶望が、記憶として脳裏を駆け巡る。


視界が真っ赤に染まった俺は、反射的にダルコと呼ばれた中年男へ向かって、駆け出した。



「お前ええええええっ!!」


「おっと!」



拳が中年男に届くその前に、何か固いものが俺の腹にめり込んだ。



「ぐはっ……!」


「おいおいおい……何のつもりだ?」



ダルコの護衛だろうか。

その男の膝が、俺の腹部を捉えたのだ。

息が詰まり、たまらず床へとうずくまる。



「アレクサンドラさんよ……依頼主に殴りかかるってどう言うつもりだ?」


「……!」



そう呼び掛けてきた男の声にも、聞き覚えがある。

つい最近聞いた――ダンケルの声だ。



「なあダルコさん。あんた、コイツになんかした?」


「はっはっは!まあ、奴隷商人をしている手前、恨まれることも多いからな。何の恨みかは見当もつかん!」


ダルコは無邪気に笑っている。

悪気など、微塵にも感じない。

それが、何より俺の琴線を逆撫でる。


今や女となった俺の姿。

しかし、そんなことは関係ない。

仮に俺が男のままであっても、きっとこの男は俺なんて覚えちゃいない。


それほどこいつにとって、人を貶め騙す事は――日常なのだ。



「き……さまぁっ……!」



俺は再度怒りに任せて、ダルコに向かって飛び掛かろうとするが――


――体が、動かない。



「ぐ……ぎぎ……」


『落ち着かんか、馬鹿者!』



バルフェリアの声が頭に響く。

どれだけ体を動かそうとしても、何かに体中を縛り付けられているかの様に、指ひとつ動かない。



「離せ、離してくれ!バルフェリア……!」



体中に走るバルフェリアの魔力が、全身を縛り付ける。

止めないでくれ!こいつは……こいつはっ!!



『……今のお主は冷静になれぬようじゃな。――仕方あるまい』



バルフェリアの魔力が俺の口を、勝手に動かしはじめる。



「……ダンケル、よ。もう一度、妾の腹部を、思い切り殴るのじゃ」


「は?何だその口調」


「早うせんか!」


「いや、つってもよぉ」


ダンケルは困惑を顔に浮かべ、ダルコにちらりと目線を送る。

ダルコは興味津々に、まばたきすらせず、こちらを見つめている。


笑顔のまま、ただ目だけが笑っていない。

品定めをするような、静かで冷たい視線。

人を値踏みすることに慣れた、奴隷商の目だ。



「面白い、言う通りにしてやれ」


「……はいよ。お前が言ったんだからな?恨むな、よっ!」



ダンケルの拳が深々と俺のみぞおちに突き刺さる!その衝撃は、俺の意識を遠ざけるには充分な一撃だった。



『しばらく大人しくしておれ。……このような指輪の使い方は、しとうなかったんじゃがな』



その声が聞こえた瞬間、指輪がきらめき、俺とバルフェリアの意識が逆転した。



「……さて、すまんかったの」



バルフェリアは身体の支配権を奪い、平然と立ち上がった。



「バルフェリア様……アレックス様は?」


「安心せい。少し代わってもらっただけじゃ」



心配するカイルに微笑み、そう言い聞かせる。



「なあ、あんた……アレクサンドラなのか?」


「妾はこやつと身体を共にしておる者。名は、バルフェリアという」


「ほほう!あなたが!」



ダルコは急に色めき出し、興奮を抑えきれない様子で前のめりに詰め寄ってくる。

先ほどまでの冷たい目は、どこにいったのか。



「妾も詳しいことは分からんがの、どうも貴様にただならぬ恨みがあるようじゃったのでな。交代させてもらったわ」


「ふは、左様ですか!」


「……で?妾たちにどんな依頼をしようと?」



ダルコの興奮など素知らぬ顔で、バルフェリアは要点に話を戻す。



「お待ちください」



モニカが話を進めようとするバルフェリアを止める。



「依頼者であるダルコ様に斬りかかっておきながら、依頼を受けられるとでも?

ギルドの職員として――看過できません」



これまで黙って見ていたモニカが、突き刺すような視線でバルフェリアを睨みつける。

あれだけ無表情を貫いてきていたモニカの顔に、明らかに怒りが滲んでいる。



「ふん、そんな顔もできるんじゃな」


「何ですって?」



モニカはやや身を屈め、戦闘体制に入ろうとしている。

やばい。

ギルドと衝突して、この街に居続けられるのか?



「早とちりするでない。妾には、まだやる気はないぞ」



構えるモニカに対して、バルフェリアは無防備に立ち尽くしている。

隙だらけなのに、隙が見当たらない。

モニカだけでなく、ダンケルの頬にも汗が伝う。



「……あなたのような危険人物を、このまま冒険者にしておくわけにはいきません」


「すまぬ。詫びはしよう」



バルフェリアが、詫び?



「……信用できません。冒険者証は剥奪――」


「待て。」



モニカの言葉を止める声。

その声の主は、襲われた張本人である、ダルコだった。



「今回のは、ただの行き違いだ。俺はこういうのには慣れている」


「ですが……」


「黙れ」


「……」



冷たく言い放たれたダルコの言葉に、モニカは言葉が続かない。

恐怖か忠誠か、姿勢を正して無言で一歩引いた。



「――ひとつ条件を付け加えたい!」


「ほう?」



ダルコはニヤリと顔を歪め、人差し指をピンと立てる。

その笑みには、さっきまでとは違う圧がある。交渉慣れした男の、余裕だ。



「今回の依頼、必ず受けてもらおう」


「否と言えば?」


「いいじゃないか、俺はあなたの相棒に殺され掛けたんだ。

嫌と言うなら、この街にいられなくする事だってできる」



さらりと言った。それが余計に怖かった。

怒鳴るでも、脅すでもなく、ただ当然のことを述べるように。

この男は、自分の立場と権力をよく理解している。



「……良かろう。依頼を話せ」



この交渉を是とするのは……きっと、俺を守るためだ。



「はっは!流石バルフェリア様!レオンから聞いてましたよ、あなたの存在は」


「やはり、貴様もか。レギュラスのにおいが鼻を突いたんじゃ」


「はっはっはっは!!」



ダルコはひとしきり笑うと、手でソファを指し示し、息を大きく吸って、話を続けた。



「では改めて。レギュラス様の使徒がひとり、ダルコと申します。

さあ、ではここからは依頼の続きだ。どうぞ、お掛け下さい」


「うむ。……何をしておるカイル、こちらへこんか」


「は、はい」



バルフェリアは手招きしてカイルを呼ぶ。

そしてローテーブルを挟んでダルコと対面し、二人はソファに身を預けた。


モニカは入り口前に、ダンケルはテーブル脇に陣取り、バルフェリアの動きを見張っている。



「いやあ、レギュラス様に匹敵すると言われている魔人様に依頼をお受け頂けるとは」


「勘違いするでない。あくまでも依頼を受けるのはアレックスよ。妾は、その目付けだとでも思うが良い」


「ほっほ。稀代の魔人であろうバルフェリア様が、人の身に過ぎない、いち女性の使いの様なことを仰るとは」



ダルコは口角を上げ、その目を細める。

品のある所作の裏に、刃のような計算が透けて見える。



「何とでも言え。この身体はアレックスのものじゃからな」


「ほう?魔人様はプライドが高いと伺っていたのですが、バルフェリア様は随分とお優しいのですね」


「ふ、レギュラスと比べれば是非もあるまい」



しかしバルフェリアはダルコの挑発に乗ることなく、受け流す。



「……まあ、いいでしょう。では、依頼内容に」



バルフェリアとダルコの間に、見えない重さが漂う。

笑顔と余裕を纏ったまま、この男は一度も本音を見せていない。

それが、怒りよりも深いところで、俺の背筋を冷やしていた。



「奴隷を捕まえて欲しいんですよ。……逃げ出した奴隷をね」



ダルコの口から、そう告げられた。

読んでいただきありがとうございます。

よければブクマ・評価・感想いただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ