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ダンジョン奴隷だった俺、封印魔人と融合して美少女になり、最奥から強者を叩き潰す  作者: あきお
第1章 奴隷、地上へ

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第5話 右手の中の魔人

※本作にはTS要素があります。

「おい!誰だ!誰かいるのか!?」


女の声に驚き、急いで辺りを再度見回す。

……しかしどこを見ても、この部屋に俺以外の人影は見当たらない。

不安から、幻聴でも聞こえたのかも知れない。


この部屋にあるのは、空の台座と狼の死骸だけだ。


「あれ……?そうだ、宝石は!?」


台座の上には、たしかに宝石があったはずだ。

俺の目にも鮮やかに映った、黒く輝くあの宝石が。

それがどういうことか、今はどこにも見当たらない。


『おい』


「はい!?」


またも、女の声が頭に響く。


『どこを見ておる。ここじゃ、ここ。』


「ど、どこだよ!?」


なんだ?

女の声は確かにするのに、姿がどこにも見当たらない。


『まぬけ!右手の甲を見よ!』


「……右手?」


右手に何があるって言うんだ?

正体不明の女の声に、警戒心が生まれる。


だが、他には何も情報がない。

俺は仕方なく声に従うことにして、右手を見る。


……すると右手の甲に、何かがある。

丸いものが皮膚の下で蠢く、異様な感覚。


不気味さにゾワリと鳥肌が立つ。


そして急に、甲の皮膚が上下に開く!


「ひっ!」


……だが、痛みはない。

そして、皮膚が開いたその奥にあるものは……目玉だ。


その目玉はギョロリと動いて、俺と目が合う。


「うわあ!」


『ことある毎に、いちいち驚くでないわ!』


何故か、目玉に叱られてしまった。


「す……すいません」


『貴様、妾を舐めておるのか?』


「え……いや、そんなことは……でも」


『でも?でもなんじゃ』


やば、やぶ蛇だった。

余計なひと言を言ってしまったようだ。

無言で何とかやり過ごせないだろうか?


『……妾を無視するか。良い度胸じゃな貴様』


青筋を立ててまぶたをピクピクさせている女性の姿が、容易に想像できてしまう。

そんなことを考えていると、


バチィッ!


「痛っっっ!」


右手に鋭い痛みが走る。

何をされたと反射的に右手を確認するが……特に外傷はなかった。


『妾を無視した罰じゃ』


マジかよ。

俺の体に取り憑いた挙句、そんなことまでできるのか?


しかし、その言葉に偽りは感じない。

自信に溢れる堂々としたその語り口が、そう思わせる。


『それで?なんじゃ』


「……でも、なんで俺にくっついてるんですか?」


俺は素朴な疑問をオズオズと聞いた。


『……』


あれ?急に黙ったぞ?


「あのー、聞こえてます?」


『……たのじゃ』


何かを言っている。

が、声が小さすぎてよく聞こえない。


「え?」


『失敗したのじゃ!』


「……何を、ですか?」


『あの狼の一撃で、貴様が死んだと思ったのじゃ!それで妾が、その身体を有効活用してやろうと思うてな。

受肉し、身体を作りかえたのじゃが……貴様が生きていたために、この有様よ。』


……そういうことか?

つまり狼に食われたのも、女の身体になってるのも、夢ではなく、現実?


「えーと……これって、夢じゃない?」


『不安ならば、もう一度先ほどの痛みを味わってみるか?』


「いや、大丈夫です。ごめんなさい」


やはり、現実らしい。

こんな状態でも、運よく生きている。

運がいいと言っていいのか、疑問ではあるが。


「ええと、つまりあの狼は、俺が死にかけてる間に?」


『妾が倒した』


「……どうやって?」


『ふん。聞きたいか?』


聞きたいかと言えば聞きたいが、何だか態度が癪に障る。

でも機嫌を損なうのもなんだし、ここは話を合わせよう。


「お願いします!」


『フフ、仕方ないのう!』


あら、偉そうな割にチョロい。


『蹴って殴った。それだけよ』


説明が雑!

だが、こいつにとってはその程度に過ぎない、瑣末な出来事なのかも知れない。


「殴るだけであんな穴、空くもの?」


『貴様の様なものには分からんかも知れんが、妾にはこの程度、造作もないわ』


この当然という態度。

やはりどうにも嘘とは思えない。

つまり、もの凄い力を持った化け物が、俺の右手に取り憑いていると言うことだ。


「ちなみにその力、俺にも使えたり!?」


『せぬ』


即答かよ。


「何で!?」


『貴様がヘボだからじゃ』


ヘボってどういうことだよ。


「いや、でも同じ身体なわけでしょ?」


『たわけ!貴様のように魔力を扱えぬ者が、妾と同じことができると思うでないわ!』


「……ど、どう言うことですか?」


『妾の持つ魔力のほとんどが、貴様の支配下では、使おうにも溢れてしまうのじゃ』


よく分からない。


「えー、っと?」


『分からんのか?学がないのう』


ぐ、我慢我慢。


「すいません、ちょっと勉強が苦手でして。強く賢いあなたから、教えてもらえると嬉しいなあ、と」


俺のおべっかにピクリと反応をする。


『……仕方ないのう!』


……マジでチョロいな。

目玉だけでもドヤ顔が見えるようだ。


もしかしたら、教えるのが好きなだけなのかも知れない。

それか、人と話すのが好きなのか。


『良いか。我々の魂には魔力が、肉体には魔力回路が備わっておるのじゃ』


「はい」


『何と言ったものか……そう、そうじゃ。

魔力は水、魔力回路を水路の様なものだと思うが良い。』


……何となくイメージできそうだ。


『妾の水路は使い慣れており、大量の水を流すための整備が整っておる。反面、貴様の水路は長年水を流しておらず、土や泥で詰まってしまっておる。それでも無理やり水を流そうとすれば……どうなるか、分かるか?』


「……溢れかえる?」


『その通り。魔力が流せなければ、力が出せん。それだけでなく、無理に使って溢れれば、それは自らを痛めてしまう。というわけじゃ』


なるほど。

だがその説明だとつまり……


「さっきの痛みは、もしかして?」


『察しが良いのう。ほんの少しだけ、魔力を流したのじゃ』


ほんの少しであの痛みか。

指先から血が噴き出たかと思ったよ……。


「分かった、ありがとう」


『良い良い。他に聞きたいことはないか?』


おお。

何か、いつの間にか質疑応答タイムになってる。

聞きたいことは……そうだ。


「えーと、あなたの力で、俺の身体を女にしたんだよね?」


『左様』


「それで、男に戻ることは?」


『無理じゃな』


また即答。

つーか、どういうことだそれは!


「何で!?あんたの力があれば、また身体を作りかえられるんじゃないの!?」


『良いか?妾の魔力で、貴様の身体は作りかえられたのじゃ』


それはもう分かってる。


『厳密に言えば無理ではないがな?先ほど魔力を流した時の痛みを思い出せ』


「……あ」


『分かったようじゃな。……貴様は、身体を作りかえるほどの魔力には耐えられん』


「……俺が、魔力を使い慣れればいいのか?」


水を少しずつ水路に流して慣らせば、何とかなるんじゃないか?


『確かに不可能ではないかも知れんがな。しかしな、魔人である妾の膨大な魔力に耐えうる魔力回路を、人間である貴様が有せるとは正直思えん』


「……魔人?」


『今の者は魔人を知らぬのか。魔人とは、常人では到底到達できぬほどの魔力を有するものの総称じゃ』


魔人……初耳だ。

しかし、それほどの魔力を使いこなせるほどの魔力回路がなくてはならない、となると。


「ほぼ不可能。ってことか……」


『そう気を落とすな。そもそも、妾が貴様の肉体を作り替えねばとっくに死んでおるのじゃぞ?』


そう言われても、簡単には飲み込めない。

目が覚めたら別人だなんて、簡単に受け入れられる話じゃない。


「……」


『妾もこのような姿になってしまったのじゃ。カッカッカッ、お互い様と思うと良い!』


お互い様、か。

……そう言えば、何でそんな力を持つ奴が、この身体の支配権を奪えないんだろう?


「……なあ、何でお前じゃなくて、俺がこの身体を動かせてるんだ?」


『元の魂が優先される。それだけじゃ』


笑ったり、サラッと言ったりしているが、こいつもこいつなりに強がっているのかも知れない。


『もっとしっかり、貴様が死ぬのを確認すべきじゃったわ。

気が遠くなる様な年月、ここに封印されておった分、妾も焦っておったわ』


「右腕を噛み切られて意識を失った俺を見て、死んだと判断した?」


『左様じゃ』


経緯はともかく、俺はそのお陰で生き残れた。

性別は変わったし、右手にも奇妙な同居人も居付く羽目になった。


しかし作り変わった右腕には、奴隷の腕輪は存在しない。

これで新しい人生を生きろという、何かのメッセージなのかも知れない。

このチャンスを逃すな、と。


――上手く飲み込めるか、まだ分からない。


「それはそうと、ここってダンジョンのどの辺なのかな?」


『ここか?最奥じゃ。』


「……は?」


『そもそもこのダンジョンは、妾を封じるためのダンジョンじゃからな』


……何を言ってるんだ?

生き残るためには、ここから出ないといけないのに。

それが、最奥から?


スキルもない。

しかも女になった、この身体で?



――だが、絶望するにはまだ早い。

紆余曲折はあったが、生き残ったんだ。

だから、最後まで足掻いてやる。

読んでいただきありがとうございます。

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