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ダンジョン奴隷だった俺、封印魔人と融合して美少女になり、最奥から強者を叩き潰す  作者: あきお
第二章 オークリッジの街で

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第48話 抜けない短剣と、武具屋のバルバラ

※本作にはTS要素があります。

第48話 抜けない短剣と、武具屋のバルバラ


「いらっしゃい!」



武具屋の扉を開くと同時に、闊達そうな女性店主の声が店内に響く。

カイルよりも背が高く、がっしりした体格のショートカットの女性。

見るからに、元冒険者の空気が匂い立っている。



「どうも」


「おや、あんたかい。今日はどうしたんだい?」


「ええ、ここで買った武器のおかげで、この通り。無事、冒険者になれました」


「おお!そりゃめでたいねえ!」



店主は破顔して、自分のことの様に喜んでくれる。

こうも素直に祝ってもらえると、こちらとしても何だか顔が緩んでしまう。



「それで、ちょっと短剣を無くしちゃったのと、矢の補充をしたくて――」


「何だって?」



店主の目尻がピクリと動き、眉間に皺がよる。

先ほどまでと打って変わって、空気はずしりと重い。

大らかな笑顔は見る影もなく、今は目が据わり、視線で俺を射抜くほどだ。



「あんた、あたしから買った武器をこんな短い期間で無くすとか……どういう了見だい?」



やばい。

虎の尾を踏んでしまったようだ。

ジリジリと強くなるプレッシャーが、俺の背筋を凍らせる。



「いいかい、武器ってのはね」



店主は一歩、ズイと俺に詰め寄る。



「冒険者の生命線、命そのものなんだよ!

鍛冶屋も冒険者の命を繋ぐために、ひとつひとつに命を懸けて、魂を込めて打ち込むんだ。

それを粗末に扱う?あんた――冒険者を舐めてるんじゃないのかい?」



怒鳴っているわけじゃない。

だからこそ、言葉の重さがまともに刺さってくる。

……返す言葉が出ない。



「お待ち下さい」


「……何だい?」



カイルが、割って入ってくる。

店主の鋭い眼光を前に、カイルは一瞬怯むが、踏みとどまって言葉を続ける。



「違うんです。アレックス様は決して武器を軽んじている訳ではなく、仕方がなかったんです」


「武器を捨てる事が、仕方のない事だって?」


「捨てていません。森の浅いところに、スプリガンが集団で溜まっていたんです。

それで私を救うために――アレックス様は奮闘し、結果として短剣を失ってしまったのです」



カイルは森での出来事を、要点だけまとめて簡潔に店主に説明する。



「……ってことは、あんたらが森の異変を報告した冒険者だったのかい?」



店主の空気が、ほんの少し和らぐ。



「え、ええ。そうです」


「森の事……ご存知なんですか?」



あれからまだ数日しか経っていない。

なのに、何で武具屋の店主がそれを?



「そりゃそうさ。この店に来るのは、ほとんどが冒険者だからね。噂なんて嫌でも耳に入ってくるよ」


「ああ……なるほど」


「なんでも、無数のスプリガンに囲まれたんだってね?ガレスの助けも有ったって聞いたけど、よく生き延びたもんだよ。

しかもそれが試験のことだって言うもんだからね、大したもんだよ!」



先ほどまでの店主のプレッシャーは見るからに消え、世間話が好きな店主の側面が顔を出す。


それにしても無数、ってのは言い過ぎだけど……。

俺はカイルにちらりと視線を送るが、フルフルと頭を横に振る。

まあ……噂の訂正なんて労力の無駄か。



「そう言うことなら、短剣を無くしちまうのも仕方ないか……ただし!」



店主の声の圧に、反射的に背筋がピンと伸びる。



「次は、ちゃんと大事にするんだよ?武器はあんたの命を守るもんだ。

あんたがそいつを大事にする分だけ、そいつもあんたを守ってくれる」



「はい……もちろんです」



さっきの怒りも、今の言葉も――根っこは同じところから来ている。

この人は冒険者時代も、武器を大切に扱ってきたに違いない。


それにしても、カイルの手助けのおかげで何とか収まった。

ありがとう、カイル。



「それで?短剣と矢でいいのかい?」



店気を取り直して、商談の続きに戻る。



「あと、魔力の制御ができるものを探しておる」



急にバルフェリアがそう告げた。



「……そいつは何だい?」


「えーっと……。あ、私の使い魔で――」


「何を言う!誰が使い魔じゃ!」


「そういう事にしておいた方が楽だろ!」



バルフェリアにこっそり耳打ちをする。

不満ありありの様子だったが、「仕方あるまい」と不満を飲み込んでくれた。



「へえ〜、変わった使い魔もいたもんだね。で、魔力制御ができる魔道具なら、ちゃんと取り扱ってるよ。安心しな!」



使い魔には興味がないらしい。

店主は直ぐに話題を戻す。



「うむ。妾の主は、使い魔を使役できる割には、魔力の使い方がヘッタクソでのう。

そんな赤ん坊同然の我が主でも、魔力を制御できる、補助になるものが欲しいのじゃ」



おい。


言い方にだいぶトゲが見えるぞ。

と言うか、言いながらテクテク俺の腕の上を歩いて肩に乗ってる。

……いつの間にこんな芸当できるようになったんだ?



「ふふ、お主の魔力回路が成長しとる証拠じゃ」



こら。

俺の心を読むな。



「補助具ねえ……ちょっと待ってな」



店主は、改めて俺たちをじろりと一瞥するとカウンターから売り場に出てきた。

魔道具を扱っている一角に迷いなく進み、物色を始める。

俺たちはその様子をジッと見守ることにした。



「ほほう……。この店主、なかなか分かっておるではないか」


「そうなの?」


「うむ。こちらにどの程度の予算があるかも考えて、選ぼうとしておる。良い店主に出会えたようじゃな」



そんな話をしている間に、店主は動きをピタリと止める。



「……うん、こいつでいいね」



店主が頷き持って来たのは、ひとつの指輪。

あれ?この指輪、見覚えがある。

確か、アイアンゴーレムを倒した時、宝箱で手に入れた――あの指輪だ。



「ダンジョン産だからちょいと値は張るが、それでも高すぎるもんじゃない。あんたらの懐具合でも何とかなるんじゃないかい?」


「えーっと、値段は……」



値札をチラリと見やる。

う……高い。

だけど、確かに払えないほどじゃない。


でも、こいつと必要なものを揃えてしまえば、手に入れた報酬のほとんどは残らなくなってしまう。



「迷うでない。金があるうちに買っておいた方が良いぞ」


「私もそう思います。バルフェリア様がこう言ってますし、これからは依頼で稼げる訳ですから」


「う〜ん……でもなぁ……」


「煮え切らない嬢ちゃんだねぇ!ちょっと待ってな!」


そう言うと店主は指輪とは別に、ヤケに派手な装飾が施された鞘付きの短剣を持って来た。



「この指輪を買ってくれたら、この短剣も付けてあげるよ」


「え?いいんですか?」


「ああ、いいよ……全然売れないからね」


「……へ?」



待て待て。

売れないものを押し付けようとしてないか!?



「誤解しないでおくれよ!この鞘を抜くにはかなりの魔力量が必要みたいでね?

だけどあんたなら――何とかなりそうな気がしたんだよ」


「なんとか……」



ポカンとしてる俺の手に、店主は短剣を無造作にポンと置いた。

瞬間、身体中に寒気が走る。



「なんだ、これ……?」



短剣からドクン、ドクンと脈動を感じる。

そんな感覚が手のひらに突き抜けてくる。

――深く、複雑で、底が見えない。



「これは……今のアレックスには抜けんじゃろうな」


「試してみるかい?」


「……」



俺は唾を飲み込み、右手で柄を左手で鞘を握ってみせた。


直後――頭に走るイメージ。


それは天辺が見えない、どこまでも巨大な金属扉。

あまりにも重く、どうあっても開く想像がつかない大扉。



「これは……」


「やっぱり、あんたも“分かる”んだね」



「アレックス、これを指標にするが良い。お主の魔力回路が強化されれば、そのうちこいつも抜けるようになる。必ずじゃ」


「必ず……」


「店主も鞘から抜ける瞬間を見たいじゃろうしな!」


「あんたなら、成長したあかつきには抜けるかも知れないって思うんだよ。

……これまでに大勢の冒険者を見て来た、勘みたいなものだけどね。

指輪を探してるのも、修行の一環だろ?持って行っちゃあくれないかい?」



この鞘が抜けたらどうなるのか、見てみたい。

そして、この短剣が抜ける時こそ、自由に魔力をコントロールできる、強くなったと言える瞬間なのかもしれない。



「じゃあ、この短剣もありがたく頂きます。あと――」


「普通の短剣と矢だね!毎度あり!」



店主は嬉々として、テキパキと無駄なく全てを用意してくれた。



「ありがとね!そうだ、あんたの名前は?アレックス?」


「アレクサンドラです。アレクサンドラでもアレックスでも、好きに呼んで下さい」


「そうかい。あたしはバルバラってんだ。改めて、これからもよろしく頼むよ、アレックス!」



そう言うとバルバラは、右手を差し出して来た。



「ええ、こちらこそ」



俺も右手を差し出し、バルバラと笑顔で握手を交わす。


ゴツゴツして大きな手だ。

長年、多種多様な武器を振るってきた、熟練の冒険者の手。

手に広がる力強さからも、きっと強い人なんだろうと感じる。


俺もこんな手になれるよう、冒険者という職業に向き合える人間になりたいと、そう思う。



「また来なよ!」



笑顔のバルバラに見送られ、俺たちは武具屋を後にした。

いつかバルバラに、短剣が抜けるその瞬間を見せよう――。

読んでいただきありがとうございます。

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