第45話 忍び寄る影
※本作にはTS要素があります。
「うわあ、服がいっぱいだあ!」
「アレックスさん、本当にいいんですか?」
「ああ、いつまでもそんな格好じゃ不衛生だし、二人に悪いし」
俺たちはカイル、ルカ、ミリアの三人を連れて服屋へと来ていた。
二人は、はしゃぎながら服を見に店の奥へと進んで行く。
「カイル、二人の服を選んでもらってもいいかな?」
「分かりました」
カイルは俺の言葉を聞いて、二人の後を追う。
ダンジョン奴隷として酷い目にあっていた三人が、こうして楽しく服を見繕う姿は、俺の心にも一筋の安らぎをもたらしてくれる。
笑い声が店内に響くたびに、胸の奥がじわりと温かくなる。
「この光景はお主の成果じゃ。誇って良いぞ」
「バルフェリア」
右手に握った柄を変化させ、小さな身体で相棒が話しかけてきた。
「で、お主はブラを探さんで良いのか?落ち着かんじゃろ?」
「な、何で分かるんだよ!」
「同化が進んできたのかのう?お主の感情をほのかに感じるようになってきての」
恐らく、強くなればなるほど、というか俺の魔力回路にバルフェリアの魔力をスムーズに通せるようになるほど、同化が進むのだろう。
……俺の精神の女性化も、バルフェリアの力を借りる度に進行してる感があるから、間違いないと思う。
「……探さんのか?」
「……探す。」
「カッカッカ!折角なら、妾の好みのデザインを選ぶのじゃぞ?」
「……それは任せる。正直、よく分からないし。あと、ちゃんと服も買い直すからな」
――――――
「どうかなアレックス!」
「……似合ってますか?」
「うん、よく似合ってるよ」
ルカとミリアは年相応の服装に身を包み、ようやく奴隷ではなく、街の住人として不足のない様相となった。
二人とも本当によく似合っている。
何より、嬉しそうだ。
この笑顔を見るだけで、服屋に来た甲斐があったと思う。
カイルもそうだが、服で腕輪を隠したところで、残念ながらまだ奴隷の身分であることは間違いない。
だけど、この服を着ている間はそういう負い目が少しでも和らげばいいな。
「なあ、アレックスも服と、何か買ってたよな?何を買ってたんだ?」
「…………内緒」
「えー!教えてくれたっていいだろー?」
子供に教えてもいいものなんだろうか?
いや、子供だからこそそんな気遣わずに教えるべきか?
うーん、分からん。
「あまりわがままを言うと、服を買うのをやめちゃうそうですよ?」
悩んでいたら、カイルが助け舟を出してくれた。
「えー!それはやだ」
「なら買ってくれたお礼を言いましょう?はい、せーの」
「ありがとう!」
「ありがとうございます」
カイルの掛け声を合図に、ルカとミリアは俺にお礼を言うと、お店の外へと駆け出した。
あしらうのが上手いなあ、カイル。
――――――
俺たちは服屋を後にし、次の目的地へと向かう。
通りは多くの冒険者や、住民であろう人々で賑わっている。
「バルフェリアちゃん、次はどこに行くの?」
「うむ。アレックスも晴れて冒険者になったわけじゃからな。改めて武具を探そうと思っての」
ミリアの質問にバルフェリアが答える。
そう。
俺たちは今後のために、魔力回路のある武器を探したかった。
「どうする?ルカとミリアも興味があるなら一緒に行く?」
「うーん……」
「どうするー?」
どうも二人は、服だけで充分満足してるっぽい。
それなら一旦薬屋に戻るか?
そうこうしていると、
「よう」
「ガレス」
「そのタグ、ちゃんと冒険者になれたか。おめでとう」
俺の監視官として、森に同行してくれたベテラン冒険者のガレスだ。
無愛想だが信頼できる男だと思ってる。
「ありがとう。ガレスは何を?」
ガレスは以前と同じく、手斧と長槍を携えており、バッチリ武装準備完了している。
「ああ、この間のスプリガンの件の調査にな。今、どの辺まで来ているのか調べるんだ」
て、ことは北門方面に行くのか。
それなら……
「なあガレス、オスカーの店の前を通るか?」
「オスカー?……あの変わった薬屋か。ああ、通るぞ」
あ、やっぱり変わってるんだなあいつ。
「だったら悪いんだけどさ、この二人をオスカーの家の前まで連れて行ってくれないかな?ちょっと次の行き先と逆方向でさ」
俺はガレスに、ルカとミリアを紹介する。
二人は、屈強な男を目の前に萎縮してしまっている。
「構わんが、この二人は?」
「……俺の奴隷なんだ」
「…………まあ、いいだろう」
ガレスは、俺の事情を汲んでくれたのだろう。
特に詮索することなく、頼みを聞いてくれた。
「ありがとう。二人とも、この人は冒険者のガレス。前の依頼の時に、すごく手伝ってくれた、ぱっと見は怖いけど優しいおじさんだよ」
「……っ」
ガレスは何か言いたそうにしたが、言葉を飲み込む。
すまんガレス、子供に言い聞かせるためだ、分かってくれ。
「ミリア、です。よろしくお願いします」
「俺はルカ。……よろしく」
「……ああ」
少しは警戒が解けたのか、お互いに挨拶を交わす。
「この二人を連れていけばいいんだな?」
「うん、頼むよ」
「……行くぞ」
そう言って、ガレスはズンズン歩いて行く。
しかし、歩幅は狭く、歩調はゆったりしている。
不器用なりに、二人に気を遣ってくれているのが伝わってくる。
「ほら、ガレスが護衛してくれるから、ついていきな?」
「はい」
「早く戻ってきてよ!」
二人は素直にパタパタと駆け足で、ガレスの後を追っていった。
ガレスには、今度お礼をしないとな。
「じゃあカイル、俺たちも行こうか」
「はい」
「少し待て」
武具屋に行こうとしたところで、バルフェリアが俺たちを止めた。
「どうしたんだよ?」
「……何者かに見張られておる」
瞬間、賑やかだったはずの通りの音が、遠ざかった気がした。
さっきまで感じていた温かさが、すうっと引いていく。
「何!?」
「ガレスと会えたのは、運が良かったかも知れんな」
その通りだ。
もしガレスと会えずに、二人だけで帰路についたとすると、どうなっていたか想像もつかない。
「殺気は感じぬが……さて」
「……どこだ?」
周囲を注意深く観察する。
人混みの中、明らかに俺たちを目標として近づいてくる人物が、ひとり。
幸い、他には見当たらない。
「ひとりだけか……カイル、下がってて」
「分かりました、気をつけて」
お互いに頷きあったあと、警戒を強めながら俺は人影の方に対して体を向ける。
そうして現れたのは……見たことのない、魔法使い風の男だった。
「……あなたは?」
「どうだっていいだろ?」
「……何の様ですか?」
「まあ、恨みは無いんだけどよ?ちょっと頼まれてな。喧嘩、買ってくれよ」
どう言うことだ?
頼まれて、俺に喧嘩をふっかけてるって事か?
「しかし、だいぶ堂々としてるんですね?」
「そりゃあ、命のやり取りまでする気はねえしな。ちょっと向こうに広場があるんだ。付き合ってくれよ」
何かの罠かも知れない。
しかし、バルフェリアの言う通り殺気は感じない。
「面白そうではないか。行ってみるのも一興じゃろう」
「おい」
「特に魔法使い相手というのが良い。お主、まだ魔法使いとはまともに戦ったことないじゃろ?」
バルフェリアは乗り気だ。
これが俺の成長に繋がると思ったのかも知れない。
……なら、乗ってみるか。
「分かった、行こう」
「ありがとな。こっちだ、ついてきな」
こうして俺たちは、魔法使いの後に続いて広場へと向かうことになった。
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