第43話 冒険者
※本作にはTS要素があります。
「まだ期限はある。体が満足に動かせる様になったら、ギルドで依頼の達成を伝えろ」
オスカーの薬屋前で俺は降ろされ、ガレスにそう告げられた。
俺はと言えば、まだ自力で動くのは難しい。
「今、二人を呼んできますね」
そう言うとカイルは、急いでルカとミリアを呼びに行った。
ちなみに、バルフェリアも街に入る前に右手に戻っている。
「本当に助かったよ、何から何まで」
「俺は、ちゃんと自分の足で立とうとする奴は、好きだ」
「へ!?」
好きって、どういう意味!?
ガレスの優しげな微笑みとその言葉に、ドキリと心臓が高鳴る。
「ん?お前は自分で判断、行動が出来ていただろう?」
……ああ、なるほど。
ちゃんと自分で考えて動く冒険者は好きだよと、そういう意味ね。
『お主、何だと思ったのじゃ?』
うるさい。
俺の変化をニヤニヤと楽しむな。
「とにかく、ありがとう。……そう言えば、ガレスはパーティって組んでるの?」
「いや、俺は基本単独だ。頼まれれば、臨時でパーティに入ることもあるが」
「じゃあ、もしまた何かあったら、頼ってもいいかな?」
ガレスの強さと判断力は折り紙付きだ。
自分だけでは難しそうな依頼を受けることがあったら、相談したい。
「もちろんだ。お前の様な斥候なら、こちらとしても心強い」
色よい返事をもらえて、俺は心底ホッとした。
そして、自分の力をバルフェリア以外の他者に認めてもらえた。
こんなに嬉しいことはない。
「アレックス!」
「アレックス様!」
その時、ルカとミリアが、バタバタと店の中から飛び出してきた。
「迎えがきたようだな。俺も監視の報告をする必要もある。じゃあな」
「うん、じゃあまた」
ガレスはそう言うと踵を返し、こちらを振り向くことなく、そのまま立ち去って行った。
『ほほう、頼り甲斐のある男が好みか?』
だから、いちいち恋愛と結びつけるな!
……こいつ、絶対に楽しんでるだろ。
――――――
「おかえりなさい!待ってましたよ!で、依頼の品は?」
俺はカイルたち三人に支えられて、何とか店内に入ったところに、オスカーの突然の言葉。
ボロボロの俺を見ても、いの一番に出てくる言葉がこれとは、オスカーは本当に研究にしか興味がないようだ。
「……無事採取してきた」
「おお!素晴らしい!では、早速頂いても?」
「ああ。それじゃ、カイル――」
俺はカイルに頼んで、スプリガンの樹皮を取り出してもらおうと思ったんだが……
「お待ちください、アレックス様」
カイルはピシャリと言い放った。
「オスカー様、大変申し訳ありません。ギルドを通した依頼ですから、ギルドを通さなければいけません」
「そんな水くさいこと言わないで――」
「失礼ですが、そう言えるほど関係値を積んでいる間柄とは思えませんが」
割と本当に失礼じゃないか?
とは言え、カイルの言うことはもっともだ。
俺たちの信用にも、オスカーの信用に関わるだろう。
「……くそう!目の前に素材があるのにいいぃ……!!!」
オスカーは悔しそうに身悶え、恥ずかしげもなく床を転がる。
まるで駄々っ子だな。
「カイル、ありがとう。気が付かなかったよ」
「いえ、この程度ならいくらでも。アレックス様の苦手なところをサポートさせて下さい」
やはり、カイルの微笑みの爽やかさは反則級に眩しい。
これだけ知恵が回り、しかもこの容姿。
どんな経緯でダンジョン奴隷堕ちしたのか、逆に興味が湧いちゃうな。
「まあオスカーには悪いんだけど、あと少しだけ待ってよ。この通り、ちょっと体を痛めちゃってさ」
「少し?少しってどのくらいですか!?」
オスカーは涙目で、ズイと俺に詰め寄る。
待て待て、近い!鼻が触れ合う寸前だ!
「えーっと、依頼は確かあと五日あるから――」
「やだやだやだ!遅いのはいーやーだー!!」
オスカーはより激しく、より騒がしく駄々をこねる。
「……ルカ、ミリア。こんな大人を参考にしないようにね」
「しないよ!かっこ悪い」
「わかりました!」
まったく、二人の教育に悪影響がありそうで困る。
『かっかっか!面白い奴じゃのう』
……面白いか?
ツラのいい男の駄々を見せられるのは、ドン引きものだ。
『ともあれ、動けるようになるだけなら、ひと晩あれば充分じゃろう。
何より、お主の身分に関わることじゃ。明日にはギルドに顔を出すのが良かろうて』
そうだ、依頼の達成は金だけじゃなく、俺の身分が保証される面も強い。
「分かりました!明日には動けると思うので、ひと晩だけ我慢して下さい!」
「明日…………分かりました……」
明らかにしょんぼりしているが、何とか飲み込んでくれたみたいでホッとした。
「話は終わった?なら、今から美味しい料理を作るからな!」
「あたしも手伝う!」
そうしてルカとミリアの二人は、腕によりをかけて美味しい料理を作ってくれた。
上手く体を動かせない俺に、カイルも含めた三人は、代わる代わる口元に料理を運んでくる。
あーんするしかないのは分かるけど……恥ずかしいにも程があるだろ。
そんな久しぶりの優しい時間を、俺はなんやかんや満喫して、その日を終えた。
――――――
翌日。
「さあ、行きますよ!さあさあさあ!」
気持ちがはやるオスカーに無理やり連れられて、俺とカイルはオープン直後のギルドの受付前にいた。
ルカとミリアは、残念だけどまたお留守番だ。
二人とも不満そうだったけど、生活基盤が出来るまでは我慢して欲しい。
俺の体は現在、日常生活に支障が出ない程度には回復している。
指先の炭化の跡もなく、綺麗なもんだ。
「では、依頼はこれで完了です。これで仮冒険者試験も完了となり、アレックス様は晴れて今日より冒険者となります」
眼鏡をかけた受付の女性からそう告げられ、それと同時に、ネックレスが、カウンター上に置かれる。
「これは?」
「これが冒険者証です」
ネックレスの先には、ゴツめなタグプレートが付いている。
そこには、“アレクサンドラ”と“冒険者ランクC”の文字が彫られていた。
たしか、ガレスも似たようなものをしていたような気がする。
仮冒険者証はただの板切れだったから、それと比べると立派なものだ。
そしてこの違いは改めて、俺が冒険者になれた事を深く実感させる。
『よくやったのう。これはお主の成果じゃ』
奴隷になった時は、もう浮上出来ないと思っていた。
だがバルフェリアに出会い、死線をくぐり抜け、俺は遂に、冒険者という身分を手に入れたのだ。
「……お前のおかげだよ」
俺は誰にも聞こえない、小さな小さな声で、バルフェリアに感謝を述べた。
――つもりだったが、バルフェリアの微かな笑いが聞こえた気がする。
「ちょっと!早く!スプリガンの樹皮を僕に!」
オスカーは、興奮気味でカウンターを叩きながら受付嬢に詰め寄っている。
「オスカーさん。書類がいくつかありますから、落ち着いてください」
オスカーが騒ぎ立てても静かにいなす受付嬢。
これも熟練の技ってやつか?
「なら早く書きますから、早く書類を!」
「……余韻が台無しだな」
でも、こんな落ち着かなさも、俺たちらしくていいかも知れない。
俺はそう感じながら、冒険者証のネックレスを、ゆっくりと首にかける。
「これで、冒険者だ」
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